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一章 元オッサン異世界で借家軟禁される。
しおりを挟む...あー、喉がカラカラだ水が飲みたいな....。
これが意識が戻って来た俺の一番初めの感想だ。
少し体を動かしてみる。うん、少しだるさがあるが体も動くし異常は無さそうだ。
ゆっくりと眼を開くと少し憔悴したセリーヌさんの顔が見えた。
[よかった....ジュエルちゃん。目が覚めたのね...。]
優しく俺の頭を撫でながら一筋の涙が流れる。
[セリーヌさん..喉が..乾きました...。]
[お水ね。持ってきてあげる!ダグラスも呼んでくるから少し待ってて!]
涙を右手で拭うと足早に部屋を出ていった。
あれ、そういやここどこだ?診療所で気が遠くなった処までは覚えているのだがその時に居たはずの病室とは違うところじゃないのかここは?
見覚えのない部屋に寝かされていたようで部屋の中をベットの上からキョロキョロと見渡していると廊下の方から複数人の歩く音がし、ドアが開かれる。
[ジュエル!無事だったか!!!]
オヤジ様が力強く俺を抱き上げる、つうか痛い!力入れすぎです!!オッサン壊れちゃう!!!!
[と、とと様!痛い、痛いです!!、潰れてしまいます!!!]
俺の叫び声を聞き慌てて俺をベットの上に下ろすオヤジ様。
あー、一瞬息ができなくなってこのまま死ぬかと思ったわー。
咳き込みながらベットの上でグロッキー状態になっている俺の背中をオヤジ様が擦りながら[すまない、大丈夫か?]と聞いてきたが擦る力も強くて背中が圧迫され痛くなってきた。
[....背中も痛くなって来ました....。]
あ、セリーヌさんがオヤジ様を俺から引き離した。
[いくらジュエルちゃんが眼を醒まして慌ててるにしても力加減をしなさい!!グルンと変わらない事をやってるわよ!!!]
オヤジ様が落ち込んでる...そらそうだグルンのオッサンと一緒にされたくないよな...。と言うか俺の肩を抱いているセリーヌさんの力も微妙に強くて少し痛いのですが....。
セリーヌさんから水を渡されゆっくりと味わいながら飲んでいると皆が部屋に揃い俺が倒れた後の状況を教えてくれた。
俺は三日間寝ていたらしい。
原因は魔力の枯渇による昏睡だ。
通常は長くても数時間位で目覚めるらしいのだが使用した魔力の量が膨大だった為に時間が掛かったのだろうと言われる。
シルバーソーンに溜まっていた魔力で補給しなければいけないほどどうやら危険な状態になっていた様だ。
みんな、御心配をお掛けしてすんません。
しかし、シルバーソーンって本当に何なのだろう?
オヤジ様の右足とヴェルディットのオッサンの右腕は無事に治ったらしい。
しかもオヤジ様は足も引き摺らなくて良くなったようだ。
良かったぜ回復魔法が成功して。
[しかし、お嬢ちゃんには驚かされた。この通り俺の綺麗に右腕は治ったよ、ありがとう。]
[いえ、私は自分が出来そうな事をやって見ただけです。ヴェルディットさんこそ私を信じてくれてありがとうござい....。]
俺が喋り終わる前にヴェルディットに抱き締められる。
[ど、どうかしたのですか!?ヴェルディットさん!]
[これからのお嬢ちゃんの人生は常に危険が付き纏う困難が沢山起こるやもしれん!だが安心して欲しい!!君には父さんであるダグラス君が居るが俺もお嬢ちゃんを護ることを誓おう!!]
うん!?なんで危険なんだ!?
[何故私が危険な目に合う可能性があるのですか?]
オヤジ様がヴェルディットに抱きかかえられてる俺に近づき目線を俺に合わせる。
[ジュエル、お前は治癒の力を使った...本来はそれだけでも大事なんだ。治癒の力を使える人間と言うのはとても珍しく稀有な事なのだ。ジュエルが癒しの力が使えると他に広まればお前を拐い利用しようとする者は必ず出てくる。]
マジかよ!?リーザはそんなこと言って無かったぞ...ってそうか猫になってるけどあれも一応神様だから人間と常識が違うのか...。
[...知りませんでした...。気がついた時には使えていたので誰もが使えるものと思っていました...。]
[仕方が無い事だ。本来は選定の義で説明がある。これからは余程の事がない限りは治癒の力は使わない方がいい。何処で誰に見られているかわからないからな。]
[はい、わかりました。不用意に使用はしません!]
ヴェルディットにガッチリとホールドされたままオヤジ様と約束をした。
...そろそろ解放してくれねえかな...微妙に髭が刺さって痛いのだが...。
ヴェルディットから解放されると今度はジャミルが腕組みをして壁にもたれ掛かったまま喋りかけてきた。
[本当に驚いたぜ、あんなに強力な治癒の力は見たことがないぞ。しかもこの街、アルセンス全域に効果があったから今では街中で<アルセンスの奇跡>って呼ばれているらしいぞ!]
[まあ三日も経ったから街の人達も落ち着き始めてるけど良く街の人達の話題になってるのは<アルセンスの奇跡>の事ばかりだねー。]
はあー、ジャミルとキャロラインの話を聞いていると既に誰かが回復魔法を使ったことが街中にバレてるっぽいな...。
[冒険者ギルドと聖輝教会が今回の事を調査するみたいであの日に街の中に居た人は調査が終わるまで街から出られないみたいなの。だから直ぐに使えるこの家をこの街にいる間借りる事にしたの。]
[ジュエル、お前はこの街から出られるようになるまでこの家にいる方が良いだろう。我慢できるか?]
そりゃこれだけ大事になってれば当然だよな...。
でもかれこれ一週間以上湯船に浸かってないから風呂には入りたいぜ...、ダメ元で聞いてみるか。
[私は大丈夫です。...でも..その、出来るならお風呂に浸かりたいのです...。]
俺が俯きながら言うとオヤジ様が表情を崩し[大丈夫だ!この家を借りる条件がここに風呂を作ることだからな。もう風呂は作ってあるから何時でも入れるぞ!!]と力強く言う。
[本当ですか!?とと様、ありがとうございます!!]
まじですか!流石は我オヤジ様!!俺の事を良くわかってらっしゃる!!!
後は頃合いを見てリーザに連絡するか...
夜になり風呂に入った後でリーザに連絡を取りたかったのだが出来そうな状況じゃない。
セリーヌさんとキャロラインに寝室でガッチリとガードされているからだ。
寝室のドアの前にはヴェルディットのオッサンが椅子に座り待機している。
夜は寝室でセリーヌさんとキャロラインが共に寝起きし、寝室の外に交代で寝ずの番を立てるらしい。
はぁー、こんなにガッチリとガードされてるってことは本気の本気で俺はヤバイ状況なんだろうな...。
とにかく早くリーザと連絡を取って意見を聞きたい。
ここでも念話は出来るのだが念話に集中したい。
一人になれる場所と言えば...あそこか....。
[セリーヌさん、キャロラインさん、おトイレに行ってもいいですか?]
[ええ、大丈夫よ。行ってらっしゃい。]
[私が中まで着いて入ろうか?]
マジかよキャロライン勘弁してくださいよ!
[...いや、ちょっとそれは...]
そう俺がもごついていると、[流石にそこまでは大丈夫でしょ。なんだかそこまでするとジュエルちゃんが可哀想だし...]とセリーヌさんのナイスアシストが飛んできた。
[そだね、行ってらっしゃい。]
よっしゃ!何とかなりそうだ!
セリーヌさんとドアの前まで歩きドアを開けてくれるとドアの隙間から白髪のオッサンの顔が見える。
[どうかしたのか?]
[ジュエルちゃんがお花積みに行きたいそうです。]
セリーヌさんにお花積みと言われ一瞬′えっ′と言う顔にオッサンがなるが直ぐに[ああ、俺も扉の前まで着いていこう。]と言いトイレまで護送される。
何だかもう自分がとんでもない犯罪者で刑務所に収監されてる気分になってきたぜ。
トイレに入ると早速リーザを念話で呼ぶ。
(....どうした。何か我が必要な事態なのか?)
リーザが念話に反応したのでアルセンスでの経緯とみんなから聞いている回復魔法の影響をリーザに伝える。
黙って聞いていたリーザだが俺の話の途中でため息が聞こえたりしていたのでリーザが呆れているのは何となくわかる。
(...まずは回復魔法の事だ。前にも言った通り我はあまり人間の世界の魔法態系に詳しくはない。ダグラス達がそう言うのならばそうなのだろう。)
一呼吸置き、更に続ける。
(次にお前が使用したかもしれない回復魔法は心当たりがある。話に聞く効果をまとめていくと一つしかない。光の福音(リヒト・エヴァンジル)と言う魔法だ。)
うん、既に名前からしてヤバそう。
(...この魔法は我主神が創った究極魔法の1つだ。創った時の主神の言葉をそのまま言うと、ねえねえこの魔法凄いと思わない!!こんな魔法神様多しと言えど僕しか創れないよね!!!あ~、色んな奴に見せびらかしたいな~、でもでもこの魔法は僕が使っても結構疲れるんだよね。...何か面倒になって来たからもう放置でいいか。...っと言って試しに一回しか使わなかった魔法だ。主神は魔法を創っては一回しか使わないことが多かった...。)
アイツならやるな、絶対!しかし相変わらずツッコミどころ満載だな...。
(効果の説明だ。人体の部位欠損を含む完全回復、その人間が持つ本来の肉体的能力の以上の力を引き出す限界突破。限界突破に関しては条件があり、魔法の効果がかかっている間に何かしらの訓練をして一定以上体を鍛えると永続的に効くことになる。そして最後に魔法の効果範囲は追加で使用する魔力量による。今回はアルセンスを覆う程の魔力が込もっていたのだろう。)
....それはヤベーな、そんなのが使える俺は完全に人外じゃねえか...。
(ああ、そう言えば限界突破の効果期間はお前の前世での時間で大体一週間位だ。折角だからダグラス達に訓練をさせた方が良いぞ。我もそちらに行っても良いがこれ以上騒ぎを拡げそうな事は止めておいた方が良さそうだな。)
だな。リーンベルに居る筈のリーザがここにいたら更に面倒な事になるのが目に見えてわかるぜ。
(...危険が迫れば構わず呼べ。我が敵をアルセンスごと地図の上から消してやる。)
そうリーザが言い念話が終わった。最後に危ない発言をしやがったな....
それは聞かなかったことにして限界突破の期間は後4日位か、どうにか訓練をさせれる様にしてみるか。
応援ありがとうございます!
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