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一章 元オッサン異世界で前衛絵画を描く。
しおりを挟む昨夜のリーザの話を聞いて限界突破の効果がある間にオヤジ様達にどうにか訓練をやってもらおうと思っていたのだがどうやら要らぬ世話だったらしい。
オヤジ様とヴェルディットはギルドと街の守衛兵士に頼み込まれ日替わりで訓練をやってるみたいだ。
ちなみにオヤジ様と組手が出来るとオヤジ様の訓練日だけジャミルも参加しているようだ。
セリーヌさんは魔法の光を浴びてから俺が目覚めるまで何もしてはいないようだが限界突破の影響でずっと体がうずうずしていたようで今、家の庭でキャロラインと木剣で組手をやっている。
何故かジャンまで巻き込まれてるがな。
しかし二人とも強いな~、目が全く追い付かん。
あ、キャロラインと交替させられたジャンがセリーヌさんに速攻で吹っ飛ばされた。
いやジャンも凄いと思うぞ...俺には組手をする勇気が出ないからな。
と言うわけでセリーヌさん達の訓練中の今、俺のガードは部屋の中にエメリッヒ、部屋の外の廊下にヴェルディットと言う布陣だ。
目の前のセリーヌさん達の暴れっぷりを見てこの家に入ってくる奴が居たらただのバカだろ。
それよりも俺は間近に迫る危機をどうにかしたい。
それは帰りの馬車だ。
回復魔法を気軽に使えなくなると帰りは尻痛と乗り物酔いで今度こそ死んでしまいそうだ。わりとマジで。
と言うことで後ろの方で時折俺の様子を見ながら本を読んでいるエメリッヒが部屋に居るが馬車を改造する図面を描いてても絵を描いているようにしか見えないだろう。
よし!設計に入るか!!
うーん、フレームはラダーフレームでいいか...構造が簡単だし。
え~とサスペンションの形状はどうする?車軸懸架でもいいがやっぱ独立懸架かな?そっちのが乗り心地が良い筈だしな。
セミトレーリングアームか?いや、ここは前後トーションビームの方が構造が簡単だしいいな!どうせステアリング機構なんて要らないんだし。
後はホイールに仕込むベアリングにショックアブソーバとコイルバネっと。
ショックはオイルショックでいいな。
ガスショックは流石に無理そうだ。
一人で盛り上がりながら馬車の魔改造設計図を描いていると直ぐ後ろから[何描いてるの?]とエメリッヒが覗き込んできた。
やべ、バレた!
書いた設計図を隠そうとするとエメリッヒに素早く取り上げられた。
[あっあっ、返してください!!!]
[へえ~、どれどれ....]
設計図を見ているエメリッヒが眼鏡を左手でクイッと上げ天井を見上げる。
[......これは..馬車の設計図かな?...しかし絵が前衛過ぎて良くわからない...。]
仕方無いだろ描いていて自分でも思ったが絵が下手すぎるんだよ!
俺の今生は絵の才能は皆無だな...、前世でも絵の才能は無かったがここまで酷くは無かったから...。
[面白そうだから設計図を見ながら説明してよ。]
はぁー、バレたものは仕方無いな、まあ設計図が出来上がったらオヤジ様に見せてみるつもりだったしな...。
オヤジ様に見せるのもエメリッヒに見せるのも同じことか。
俺はエメリッヒにフレーム構造からサスの構造、構成を細かく教えていく。
[...なるほど。これは凄いね!!馬車の常識が変わるよ!!!]
説明の途中でエメリッヒからこの世界の馬車事情を聞いたが乗用車でも車軸懸架でリーフスプリング、しかもショックアブソーバなどあるはずも無いらしい。
[こっちの絵は何なんだい?]
俺が描いた下手くそなベアリングの絵を指差す。
[それはベアリングと言います。こちらは深溝玉軸受と言う物です。もうひとつの方は円錐ころ軸受けと言いまして構造は...]
ベアリングの構造、役目、使い方やメンテナンスのやり方などの説明が終るとエメリッヒは腕を組ながら考え込んでいる。
[....うん、大体は理解できたよ。でも何故馬車の設計図を描いてたんだい?]
[それは...]
アルセンスに来る途中に馬車に乗ってると尻が痛くなったことや乗り物酔いになったことで帰りはキツい思いをしたくないから思い付いた事を描いてオヤジ様に相談しようとしていた事を伝えた。
[なるほどね。...ジュエルちゃん、この設計図を僕に貸してくれないかな?あと、ダグラスさんは今は忙しそうだから相談は辞めておいた方が良いと思う。]
まあそうだろうな。そもそもオヤジ様達が忙しいのは俺のせいだし、帰りの事は今から覚悟をしておこう。設計図も要らねえわ、たぶんエメリッヒ以外は理解出来ないだろうしな。俺の絵が前衛過ぎて...
[はい、分かりました。]
そう言うと[良い子ですね~]と言いながら俺の頭を柔らかく撫でる。
エメリッヒは子供好きなんだろうな。
いつも俺に優しい。
子供が好きならお前もはよ結婚しろよ!自分の子供は可愛いらしいぞ。
応援ありがとうございます!
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