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一章 教会と対峙する男
しおりを挟む聖輝教会の治療師が今日アルセンスに到着した。
さて、まともな人間ならば良いが...。
[ダグラスさん、ギルド長が今から調査報告をして欲しいと言ってきましたぜ。]
ジャミルがうんざりしたような顔をしながら言う。
[なに?毎日、夕方にギルド長の部屋で報告会をやっている筈なのだが?]
頬をポリポリ掻きながらジャミルが[どうやら教会の治療師がギルドで馬鹿騒ぎを起こしていたから教会絡みの呼び出しでしょうね。]と少し複雑そうな表情で言う。
俺は溜め息をつきながら[どうやら教会の人間の中でもハズレの奴か...]と呟くと[ちょっと見たんだがあれはその中でもクズの分類だぜまったく...。]と肩をすくめながらジャミルが頭を振る。
ジャミルの今の反応で直ぐに判る。聖輝教会は俺絡みの要請だったと言う事でろくでもない奴を送ってきたと。
ジュエルがヴェルディットさんを治癒の力で治さなければ最悪の事態になっていただろう。
...ジュエルを守らなければ。
[ギルド長に会いに行ってくる。]
[じゃあ、俺がガードを変わります。これからは気が抜けねえな。]
ジャミルの言葉に頷きながらジュエルが居る部屋の前を後にする。
冒険者ギルドに着くと直ぐ様受付が駆け寄ってき、ギルド長の部屋へと案内される。
[あぁ、ダグラス君済まないね。]
ギルド長、疲れきっている顔をしているな。
ギルド長が困り果てている顔をしている目の前の椅子に、座りながらギル机の上に組んだ短い足を乗せている豚のように丸い男が居る。
そいつは俺の顔を見ると喋り掛け始める。
[やぁ、君が疾風の剣聖と呼ばれていたダグラス・リーンシュタイナーか...。君の噂は色々と聞いているよ。]
[...何の用だ。]
[クックックッ、何の用だとは良い挨拶じゃないか、ええダグラスさんよー。私はわざわざお前らの要請を受けてこんな小国の片田舎に法国イシュタールから来てやったと言うのに。]
[...別にお前を呼んだ訳では無い。]
そう言うと大袈裟に手を広げ[見たまえギルド長、これが頼まれ、わざわざ此処へ来た者への仕打ちかね。まあいい、私は寛大だ。今回の非礼は許そう。]と偉そうに豚が喋り出す。
[...早く本題を言え。]
[おやおや、ダグラスさんは気が短いようであるな。良いだろう、では本題だ。私が到着する前に街が正体不明の光に包まれた上、私の大切な御客様の怪我が治ったそうじゃないか、....何があった。]
目の前の豚が本題を切り出し鋭い眼光で睨んでくる。
[ギルド長から粗方は聞いた後だろう。それ以上の情報は無い。あれば出している。]
[....クククッ、その通りだろうな。元A級冒険者でS級に最も近いと言われた男が分からないと言うのならばそう言うことなのだろうな!だが私はお前のような引退して魔導具職人なんぞに落ちたポンコツやそいつを調査のメンバーに加えているギルドも信用出来ない。よって今回の件、ギルドだけに任せてられん。聖輝教会も調査をする。]
豚の言葉にギルド長が驚き大声を出す。
[何を言っているのだ!!!それは教会の越権行為だぞ!!!]
[まあまあそう興奮せずとも...そこのポンコツ、もう用は終わったから消えて良いぞ。]
俺はきびつを返し帰ろうとするが途中で呼び止められ[私の名前はロバート・ジェインだ。覚えておくが良い。]と言われるが振り返ることも返事をすることもなくドアを開き部屋から出て行く。
[ちっ、面白くもない]
豚の呟きが聞こえるが足早に立ち去ることにした。
ギルド長、頑張って下さい。
家に帰り着くとジャミルとヴェルディットさんがジュエルの部屋の前に待機していた。
[ダグラスさん、どうでした?]
[ああ、今の聖輝教会の象徴の様な奴だった。]
[...最悪だな....。治療を受ける必要が無くなって良かったわい。難癖を付けられた挙げ句治らなかったのが落ちだろうからな。]
[名はロバート・ジェインと言っていたぞ。]
ヴェルディットさんが顎をさわりながら何かを思い出している様な素振りをしている。
[....ロバート・ジェイン、どこかで聞いた名だな...。ああ!思い出した!!!]
[なにかひと悶着を起こしたことでもあるんですか?]
[いや、俺は無いがダグラス君には関係があるぞ!!]
[...俺に関係があるって...まさかあの事件の関係者か?]
俺が教会に目をつけられるようになった原因であるあの事件の事を思い出す。
俺が大切なものを失い、ギルドを辞める切っ掛けにもなったあの事件を...。
[いや、しかしあんな奴は見た覚えが無い...]
[そりゃそうだろ、アイツはあの事件の首謀者の腰巾着であの時は他の仕事で失敗して別の国に左遷で飛ばされていた筈だからな。]
[なるほど...]
奴の部下だった奴か...嫌な奴の筈だ...
[となるとロバート・ジェインはある意味ダグラス君に恩が有るわけだな。君があの事件で上司を潰してくれたから今の地位が有るのだろうしな。]
[...嫌な恩だ。早く忘れて欲しいものだな...。]
[はっはっは、違いねえや!]
三人で笑い飛ばす。
[で、そいつは何て言ってきたんすか?]
ジャミルが真剣な顔つきになり事の成り行き訊ねてくる。
[ああ、アイツは....]
奴の言った事を二人に話すと二人共深刻な顔つきになった。
[教会の情報収集能力を考えるとまずジュエルちゃんは大丈夫でしょうね...しかし...]
[ギルドと聖輝教会の亀裂は決定的になるかもしれんな...]
[そうっすね。取り敢えずそのロバート様とやらのお手並みを拝見しましょうか。]
[用心に越したことはない、ガードはこのまま行こう。]
三人共に頷き今後の計画を立てることにした。
数日後の報告会の時に聖輝教会が街に居る人々、一人一人に聞き取り調査をするとギルド長から聞かされた。
アルセンスに居る人間のリストも既に教会に渡ったようだ。
リストの提出を守衛長は拒んだらしいのだがロバートは守衛長を恫喝しそれでも拒否されると、次はアルセンスの領主を脅し守衛長に圧力を掛けたと聞いた。
既にこの情報は街に漏れ始めており人々からの聖輝教会の評判は地の底に落ちている。
あの豚はクズの上に馬鹿なのか...救いがたいな。お前らの信仰する神に救ってもらえ。
ギルドに残っているリストの写しを見せてもらうがやはりジュエルの名も記されてある。
変に勘繰られないように大人しく調査を受けるしか無さそうだ。
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