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公爵家編
20.領民視点
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炎の領地、そう呼ばれるディゾル家の領地では、火を扱う特産品が多い。例えば金属を使った武器や防具、はたまたガラスで作られる物まで、多種多様な特産品がある。中でも、特に人気がある職人の工房があった。
その工房は、金属を使い繊細な模様のグラスの工芸品を作っている。依頼があればそれにそった模様を作り出せることも人気の一つだった。
その職人である親方は、一人暇そうに煙草を吸って、炉の火が消えぬように見張っていた。何故だか、ここ最近、ひんやりとした空気が漂っている為、こうして炉を使わない時には見張り番が必要だった。
そこに一番弟子が駆け込んできた。彼は、表で店番をしていたはずだった。
「親方ァ!ちょっと来てくだせぃ!」
「この、バカが!もっと声を小さく出来んのか!?静かにしろっつーお達しがあったろうが!」
槌の打ち付ける音や炉の音、罵声に外の賑わう声で喧しいいつもならば、この程度の声では聞こえもしない。だが、今日はディゾル家からの命令で何もかもが静まり返って、表を出歩くことも緊急性が無い場合は禁止されていて、声が良く通る。
しかし、弟子はそれを反故にして叫ぶもんだから、親方もまた注意するために声を荒げてしまう。
「良いから早く!」
弟子の様子に何やら只事では無いと知った親方は、煙草を炉に投げ入れ、のっそりと大きな身体を動かした。
表には店があり、様々なガラスの工芸品が並んでいる。
手狭な店にいたのは、領地の当主、ルダン・ディゾルとそのご息女であるメル・ディゾルだった。ルダンの腕には抱かれている、白くモフモフした防寒着の子供がいた。その子供のあまりにも不自然な格好にジッと見つめてしまったが、弟子に肘で突かれて我に帰る。
我に帰った親方は、慌てて彼らに片膝をついて礼をしようとしてルダンに止められた。
代わりに親方は弟子に椅子を用意するように指示した。一番弟子は商品を片付けて、テーブルを綺麗にして椅子を持ってきた。
用意された椅子にルダン達が座り、親方もまた向かい側の席に座る。店と工房の出入口には他の弟子達が、店の入口には近くの住民達がギュウギュウ詰めになりながらも様子を伺っていた。
「いきなり訪ねてごめんなさいね」
「とんでもございません」
「今日はこの子のグラスを作ってもらいたくて訪ねたの」
メルがルダンの腕の中にいる子供を指した。
「彼はウェイン、私達の客人だ」
ルダンが白いフードを下げると、キラキラ輝く光の粒が舞い、涼しい風が吹き、この地ではあまり見ない艷やかな長い黒髪と小さな顔に、その場にいた者達の心は鷲掴みされた。
ウェインと呼ばれた子供は、下げられたフードを元に戻して、「ィヤ!」とルダンに文句を言う。嫌がられたルダンは笑顔を見せ、領民達の度肝を抜いた。
「この子をイメージして模様を入れてくれ」
ルダンの言葉に一拍遅れて返事をする親方。
「かしこまりました。他に何かご注文はございましょうか?」
「軽くて、この子が持てるようにちょっと小さめが良いわ!あとウェインはフラガも好きだから、その模様もお願いね!」
「かしこまりました」
「数はそうね、割っても良いように······10個ぐらいで良いかしら」
「それでしたら、割れないように魔法で強化する事も可能です。その分、料金は高くなりますが」
「じゃあ、それでお願いするわ!でも、数は10個のままで。お金はいくらかかっても良いわよ!あと、ガラス細工やお皿もいくつか作って欲しいわね。ウェインのイメージであればどんなものでも良いわ。それと、外にあったガラスのボールを頂戴」
細かな注文はメルが全て決めて、ルダンはウェインから目を離さない。それはまるで初恋に溺れる一途な人間のように見えた。
親方はその姿に苦笑いする。
「かしこまりました」
ディゾル家の一族が店から去ろうとして立ち上がると、見ていた人間は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
彼らの対応を一番弟子に任せ早速、親方は工房に戻った。先に請け負った依頼をそっちのけで、今はただウェインの為のガラスを作り始める。
一番弟子は、外に吊るされたボールをメルに渡しながら、不躾と知りつつも彼らに尋ねた。
「どうしてこの店へ?屋敷に職人を呼べば、よろしかったのでは?」
そもそもディゾル家は無駄な装飾や出費を嫌う。奥方のいた頃は、アクセサリーや新しいドレスさえも買うのを渋る倹約家だと噂される程に。
そんな領民の問いにメルが楽しそうに答えた。
「ウェインが欲しそうにしてたから、ただそれだけわ!貴方達の作品を心待ちにしているわね」
メルやルダンは、この子供にディゾル家ではあり得ない対応をしている。それが周りにウェインが特別な存在なのだと知らしめ、また領民にとっても同様の存在となった。
その工房は、金属を使い繊細な模様のグラスの工芸品を作っている。依頼があればそれにそった模様を作り出せることも人気の一つだった。
その職人である親方は、一人暇そうに煙草を吸って、炉の火が消えぬように見張っていた。何故だか、ここ最近、ひんやりとした空気が漂っている為、こうして炉を使わない時には見張り番が必要だった。
そこに一番弟子が駆け込んできた。彼は、表で店番をしていたはずだった。
「親方ァ!ちょっと来てくだせぃ!」
「この、バカが!もっと声を小さく出来んのか!?静かにしろっつーお達しがあったろうが!」
槌の打ち付ける音や炉の音、罵声に外の賑わう声で喧しいいつもならば、この程度の声では聞こえもしない。だが、今日はディゾル家からの命令で何もかもが静まり返って、表を出歩くことも緊急性が無い場合は禁止されていて、声が良く通る。
しかし、弟子はそれを反故にして叫ぶもんだから、親方もまた注意するために声を荒げてしまう。
「良いから早く!」
弟子の様子に何やら只事では無いと知った親方は、煙草を炉に投げ入れ、のっそりと大きな身体を動かした。
表には店があり、様々なガラスの工芸品が並んでいる。
手狭な店にいたのは、領地の当主、ルダン・ディゾルとそのご息女であるメル・ディゾルだった。ルダンの腕には抱かれている、白くモフモフした防寒着の子供がいた。その子供のあまりにも不自然な格好にジッと見つめてしまったが、弟子に肘で突かれて我に帰る。
我に帰った親方は、慌てて彼らに片膝をついて礼をしようとしてルダンに止められた。
代わりに親方は弟子に椅子を用意するように指示した。一番弟子は商品を片付けて、テーブルを綺麗にして椅子を持ってきた。
用意された椅子にルダン達が座り、親方もまた向かい側の席に座る。店と工房の出入口には他の弟子達が、店の入口には近くの住民達がギュウギュウ詰めになりながらも様子を伺っていた。
「いきなり訪ねてごめんなさいね」
「とんでもございません」
「今日はこの子のグラスを作ってもらいたくて訪ねたの」
メルがルダンの腕の中にいる子供を指した。
「彼はウェイン、私達の客人だ」
ルダンが白いフードを下げると、キラキラ輝く光の粒が舞い、涼しい風が吹き、この地ではあまり見ない艷やかな長い黒髪と小さな顔に、その場にいた者達の心は鷲掴みされた。
ウェインと呼ばれた子供は、下げられたフードを元に戻して、「ィヤ!」とルダンに文句を言う。嫌がられたルダンは笑顔を見せ、領民達の度肝を抜いた。
「この子をイメージして模様を入れてくれ」
ルダンの言葉に一拍遅れて返事をする親方。
「かしこまりました。他に何かご注文はございましょうか?」
「軽くて、この子が持てるようにちょっと小さめが良いわ!あとウェインはフラガも好きだから、その模様もお願いね!」
「かしこまりました」
「数はそうね、割っても良いように······10個ぐらいで良いかしら」
「それでしたら、割れないように魔法で強化する事も可能です。その分、料金は高くなりますが」
「じゃあ、それでお願いするわ!でも、数は10個のままで。お金はいくらかかっても良いわよ!あと、ガラス細工やお皿もいくつか作って欲しいわね。ウェインのイメージであればどんなものでも良いわ。それと、外にあったガラスのボールを頂戴」
細かな注文はメルが全て決めて、ルダンはウェインから目を離さない。それはまるで初恋に溺れる一途な人間のように見えた。
親方はその姿に苦笑いする。
「かしこまりました」
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