小さな工房の主と師匠

魔理沙

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空からやってきた新しい家族

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師匠が空から星が降ってくる。そう言われてから本当に数日後、突然空から星が降ってきた。
起きたのは何時ものようにみんなのお願いを聞いて仕事をこなしてる昼前の時で。仕事して疲れた私は休憩することにした。
「少し休も……。」
庭で育ててるリンゴと養蜂もしてるからハチミツも沢山あるし。ちょっとリンゴジュース作ろう。そう思ってキッチンで作ろうとしてたら。空が明るい事に気付いて、ジュース作る手を止めてふと窓から空を見上げたら
「ん……?なにあれ?」
なんだか、空から多分星みたいなのが降ってきてる。しかもなんか私の工房の方に来てない!?こんなに広い森の中で私の工房を狙ったみたいに降ってきた。こんな事ってあり得るの?まあ今現在起こってるんだけど。
それで空から降ってきた物はキラキラ輝きながら工房の前にある湖のほとりに落ちた。なんか、ホントお星さまみたい。それにもっと衝撃が大きいのかなと思ってたけどそうでも無くて。キラキラ輝いてた光は少しずつ形を変えていった。形からして動物みたい。どんな動物なのか気になって休憩しようとしてたのを忘れて。ほとりに何かが落ちたのを見てみたら
「ええ!?」
「ピピッ!ピピピッ!」
鳥だった。見たことも無い白くて赤い目の。ええ?こんな鳥いるっけ?私の記憶だとこんな師匠みたいな鳥、いなかった。うん。師匠なら何か知ってるのかな。そうだ。星と一緒に動物が落ちてきたら家に行かないといけないんだった。
なんでこの村が星落としの村って呼ばれてるのか師匠から聞いたことがある。確かこの森は昔から空から星が落ちてくる。そして見たことも無い動物が一緒に落ちてくるって師匠は言ってた。
「もしかして、この子も?」
「ピピ?」
『…………あれ?今。』
お前なに?って声聞こえなかった?見渡してみるけど私以外いないし。まてよ、確か昔師匠が。
空からやってきたあいつらは喋るから面白いよなって。言ってたよね。…………もしかして。
「君なの……?喋ったの。」
「ピピッ!」
間違いない。さっきと一緒で頭の中で聞こえてきた。当たり前だろ!って。
「ええーと、小鳥さん。私の言ってる事分かるの?」
「ピピ?ピピピッ!ピッ!」
はあ?何言ってんだよ!お前!って聞こえた。わあ、見た目はすごい可愛いのにな。口はちょっと悪いけど。
「ねえ、私に着いてきてくれない?」
「ピピピピ?ピッ!」
うん、着いてきてくれるみたい。ふう良かった。見た目は師匠にそっくりな小鳥さんを肩に乗せたら師匠の工房へ行った。

「師匠!あの、小鳥さん連れてきました。」
「…………。みてえだな。上がれ。」
アトリも星が降ってきたのは目撃していた。しかも落ちた先はソラリーの工房の方角だとも。これまでこの森に来た動物たちのほとんどは懐くヤツだった。だが稀に攻撃的なヤツもいた。コイツは前者で良かったわ。
椅子に座らせ、飲み物出して改めてソラリーから星が降ってきた時の話を詳しく聞く。
「なるほどな……。」
「あの、師匠。此処に連れてきてこの子をどうするんですか?」
「うん?話を聞いて。それで俺が性格が攻撃的と判断したなら悪いが森の奥にやるつもりだった。」
あ、だから師匠。昔私に遊びに行くのは良いけど森の中に行き過ぎるなって言ったのは。そういう事だったんだ。
「コイツを見る限り、初めて見たものばかりだから混乱してるみてぇだな。数日過ごしてみろ。遅くても飯をやったりしただけでそれで懐く筈だ。コイツが何かしてきたら話すんだぞ?」
「はい!」
良かった。何するのかなって思ったけど安心した。ん?だけど確か師匠は。
「あの、師匠。この子たちって確か何も食べなくて良いって。そう言ってましたよね?」
「そうだな、食べなくて良い。それは長年の観察の結果確かだ。けど敢えて言うなら嗜好品として食べたがったらやれば良い。そしたら懐くのが早いんだ。それだけだよ。おい、ポラリス。」
「はい。どうしたの、ご主人。」
「ぎゃーーーーー!!!!ねねねねね猫!!」
「って、喋った!って、え?誰?」
あれ?可笑しいな。私の記憶だと確かポラリスって。
「猫ちゃん、だった筈……。」
「ソラリーちゃんこんにちは。ごめんなさい。小さかったあなたをビックリさせない為にただの猫でいただけなの。本当はこの姿が楽なんだけど。」
私がビックリしてたのはそれはもう仕方ない。だって私の前に出てきたポラリスは綺麗な女の人で、ポラリスの特徴の耳と尻尾が生えてたから。驚いてる私に師匠が。それこそ私が生まれる前から進化の過程でこうなったって。そう言えばこの動物たち進化するんだった。こんな進化と思わなかったけれど。納得して私はポラリスさんに訊ねた。
「あ、いえ。ねえポラリスさん。何も食べなくて良いけど食べたがったら何か食べさせたらいいの本当?」
「そうね。この子、新しく空から降ってきた子ね。空から落ちてきたら私たち動物はみんなお腹空いてるの。攻撃的な子もね。」
ポラリスさんが言うには、動物も植物もそれぞれ落ちる高さはバラバラみたいで。ポラリスさんも分かってるのは空から降ってきた動物たちはみんなお腹空いてる事だって。
「この子の好みは分からないの。ごめんなさい。みんな好みの食事は千差万別で。同じメニューはあっても味付けが微妙に違ったりするのよ。」
「いえ、教えてくれてありがとうございます!」
取り敢えずお腹が空いたのは分かったし、危なくないみたいだから私と小鳥さんは工房へ帰った。

「ううーん……。」
この子、何が好きなのかな~。師匠の工房では何か食べたがる素振り見せなかったし。じゃあ、師匠のご飯の味付けは好みじゃないのかな。何の食べ物が好きなのか考えてたらリンゴジュース飲みたくなってきた。大体私休憩してないもんね。そう思って作って持ってきたら
「おい!」
「なに?」
「それなんだ?」
「それ?これリンゴジュースだよ。」
リンゴジュースに反応してこっちにきた。もしかして。
「飲んでみる?」
「良いのか?お前良いヤツじゃん!」
それで早速別のお皿に分けて飲ませてみたら。
「んじゃ!ングング…………。」
「どう?」
「………………。うめえええええ!!」
もっとくれってせがむ小鳥さんに早速また作ってお皿についであげる。
「ングング……!!ぷはぁ~!」
このリンゴなんとかってのサイコーだな!って喜んでくれた。
「そう?良かった。」
ポラリスさんが出てきた時に喋ったのは驚いたけど。
「ふぅ~。満足した!よし!俺は今すごく気分が良いからな!何でも聞いてみろ!」
「うん。ありがと。じゃあ。君は何の食べ物とか飲み物が好きなの?困ってる事は無い?」
「え?聞きたい事ってそれ?」
「?うん。」
「好きな食い物。うううーん!分からねえ!でもさっきくれたリンゴなんとかは気に入った!」
「リンゴジュースね。分かったよ。」
「あと困ってる事。色々ありすぎて分からねえ。此処がどこだか分からねえし。お前みたいなのとさっきのヤツ見たことねえもん!けどさっきの猫のヤツは。同じもんを感じた。一番困ってるなら。帰れねえ事だな。」
「帰れない?どこにいたの?」
「ずっと高い場所。俺のいたとこ。色んな鳥がいたんだ。周りはポカポカしててキラキラ光ってて。俺はそこで毎日仲良しなヤツと楽しく過ごしてた。けど。いきなり別のヤツがいなくなる事がずっと前からあったんだ。いきなりいなくなったって言うより。星になって引き寄せられて帰れなくなったって俺たちでは言ってる。引き寄せられたのが今度は俺の番になっただけだ。」
「……。そっか。ありがと。」
そう言って優しく撫でたら。みんなって小さくポツリと呟いたらボロボロ泣き出した。小鳥さん、きっと仲良しな友達たくさんいたんだろな。毎日仲良しな友達と過ごしてたのにいきなり別れる事になって、全く分からない場所に落とされて。不安だよね。そのまま撫でて私は帰る場所がないならとある提案をしてみた。
「ねえ、帰る場所無いなら此処に住まない?」
「グス……。え……?」
「リンゴジュース飲みたくなったらまた作るし!もしかしたら他の食べ物も気に入るかもしれないもん。さっき師匠が言ってた森の奥は此処よりもっと暗いし。心配なんだ。」
本心のまま話してみた。この子を放っておけないと思って言ってみたら。
「いいの?」
「もちろんだよ!こんなに可愛い小鳥さんが家族とか大歓迎だし!」
「家族?」
「そうだなあ~。小鳥さんからしたら一緒に過ごしてたみんなと同じ感じかな。」
「グス。ありがと。それとお前!小鳥さんは止めろ!なんかヤダ!!」
「あ、そだね。名前は~……。」
見た目、それに口調が心なしか師匠にソックリだから。
「アトリ。どう?だけど師匠の前では小鳥さんで呼ぶけどごめんね!」
「アトリか~!いいな!師匠ってさっきのヤツだろ?何でか知らないけど良いぞ!」
俺は機嫌が良いからな!って言ってくれた。良かった~。師匠の前でアトリって呼んだら恥ずかしいもん。
「これからよろしく!アトリ!」
「おう!」
「……………………。」
ソラリーは気付いていなかった。様子を見に来たついでに、何時もの昼食を持ってきた師匠のアトリが工房の入り口にいたことに。そして小鳥の名前を自分の名前で付けたのを聞いていたことにも。
「可愛いことしやがって…………。」
ポツリと呟いて、手で顔を覆う。僅かに高揚した声は誰にも聞こえない。
何時ものように昼食を食べる時にソラリーは。
「あれ?師匠。風邪ですか?」
「いや。何でもねえよ。」
何もねえんだ。と内心で呟くアトリ。
ソラリーはソラリーで風邪じゃないならと安心した。
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