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【第一章】リンドル村の幸せな生活

第10話 単語ドリルと「かみさまのおはなし」

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「これは奥さんが書いたんじゃないんですか!?」

「だからね?うちのレニーナちゃんは天才なだけなのよ♪」

  怒鳴り合う声が聞こえて起きてきて頭をぼーっとしていると、心当たりのある内容が聞こえる。

「しかし!これは3歳児に半年かけて学ばせる単語ドリルでして…!」と、どうやらヨスタナ師が力説しているようだ。

 母は「やっぱりうちの子は天才ね♪」と惚気た事をいっている。

 って、うちの子。3歳児。単語ドリル。

  ………この世界がもしも、スペイン宗教裁判のような狂信の時代だったらどうなるだろう?

 そういえばここは『神聖』ファース王国だった。悪魔がもたらした子供、そう私はなすすべもなく殺されるかもしれない。これはヤバイ。

  しかしやってしまったものは仕方がない。宗教裁判など為政者と教皇への不満をそらすための不正義の裁判などに負けてたまるか。弁論で狂信を打ち破ってみせる。

  私はそう毅然と決意すると、ベビーベッドから立ってドアを…「あかにゃい」、仕方ないので特権階級たる赤ん坊の権利を行使する事にした。

「びえええええええええんんんんん!!!!!」

  すると言い争っていた2人ははたと言葉を止め、「レニーナちゃん!」と真っ先にドアを開け駆けつけて抱っこして癒してくれた。

 そのあとに付いてきたヨスタナ師も「ああ、あらら、レニーナちゃん、大丈夫かい?えっと、奥さん、おしめとか、何か、タオルとかあれば、持ってきます?!」と焦っている。

  さすがに罪悪感が強く、「もぉおちつきまちた」と泣き止んでクールな笑みを向けようとしたが、ぐずっ、ぐずっというのが何故か止まらず、「びええーーーーーんん!!!」と醜態をさらしてしまった。

 赤面で顔を覆い顔したかったが、「あら、おしめ変えなきゃ!」と母はヨスタナ師に「ヨスタナ先生、そこでみててね!」と言ってぱたぱたと走って行ってしまった。

「よーし、よーし、だいじょうぶだよー!ドードーさんだよー!」と顔を大きな鳥のぬいぐるみに隠してヨスタナ師はなんとか誤魔化そうとしたが、私は「あああーーーー!!!」と叫び、可哀想にもヨスタナ師はひっくりかえってしまった。

  ……この鳥は、「ドードー」といっていたように「あの」ドードーではないのか…?私は絶滅してしまったはずの地球にいたドードーらしき鳥を指さし、「それ、どーどー?」と尋ねると立ち直ったらしいヨスタナ師は「う、うん」と答えた。

「結構人気な鳥さんだよー、だ、だから、泣き止んでくれない?」と苦笑いとしか言えない困った笑顔を浮かべていたので、「ぁぃ!」と私は了承した。

 基本的にはヨスタナ師は気が弱いが優しい人間である。

  その後母がどたばたとやってきて、さっそく私のおしめを変えてくれた。しかも異性である先生の目の前で!!

 こ、これでは、プライバシーが、私の尊厳が、あまりにもないではないか!

 あまりに官憲横暴…!!と思っている間に「これでよし♪」とおしめが交換を母は済ませた。

  母は「気持ち悪かったんでちゅねー?」と尋ねてくるので、私は、「ぅ、うん、ありがと…」と答え、その場は収まったかに見えたので私はおねむだったので眠りへ堕ちた。

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  だが何時間経った後なのだろう?私は再び二人の声で起きる事になった。

「だから!あの子は3歳児が半年かけてやるドリルを1日で終えちゃったんです!何も教えてないのに!」

「きゃー!レニーナちゃん、天才なのねー♪」

  ……我が母ながら、幼児の発達心理の段階への理解が足りないのではないか。だがまあ、やってしまったものは仕方がない。

「わたしがやりまちた」

  そうベビーベッドで立って言ってみると、まるでこれではオフラーナに拷問されで自白させられたかのような錯覚を感じてしまった。
 
  しかし、我が家ではオフラーナのように自白したら速攻ストルイピンのネクタイでおさらば、とはいかないらしい。さらに尋問が怒涛のようにやってきた。

「れ、レニーナちゃん、いや、レニーナくん!君は物につけられている名前が分かるのかい!」

「わ、わかりまちゅ…」

「なら何故神の名は…あ、それはまだ教えていないしな…」

  神と主張するところの者の名を教えられても書くとは私は限らない、そう言ってやりたかったが、今度は母が、「ユースティア様、女神ユースティア様の名前、こう、書くのよ?」とノートに鉛筆で書いてくる。視界に入った私は書き方を覚えてしまった。

「いえ、まずは神様の概念を説明しないと…」とヨスタナ師に対して、「かみってなんでちゅか?」と素朴に疑問を投げかけてみた。

  すると母とヨスタナ師は顔を見合わせて笑いながら言った。

「天の世界から私達を見守り守ってくれる存在よ♪」

「そうだね、神様は私達を見守って力を貸してくれる存在なんだ。君も5歳の洗礼の時にどの神からの加護を受けるか決まるんだ」とヨスタナ師は言い、しまったという表情をした。

「あ、難しい言葉使い過ぎたかな!?」と焦っているので、私は不思議そうに、尋ねた。

「なぜ、かみはわたしたちをみまるんでちゅか?まもってくれるんでちゅか?」

  そのとたん、言い合ったりお互いに興奮しあったりしてた二人はしーんと黙ってしまった。

 「またやりすぎた…」と思っていると、「それは、ねえ?」「まぁ、見てもらった方が早いかもしれませんね…?シェラさん、お願いできますか?」と二人頷くと、私を赤ちゃん籠で抱えて庭へと続く廊下を歩き庭に出ていく。

 いったい、なにがあるのだろうか。

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