おちる話

くすのき はじめ

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夕日と先輩

夕日と先輩2

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先輩、先輩のこと好きになりました。
そしたら、世界が変わったんです。
だけど先輩には彼女がいました。

だから、先輩がやめてくれ、って言うのも聞かないまま彼女のこと屋上から突き落としちゃったの。
先輩があまりにも悲しそうに、綺麗に泣くから、嫉妬してしまったの。だから、一緒に屋上から落としちゃった。
付き合いたかったわけじゃない、ただ、先輩の隣は私だけで良かったの。純粋に、好きなの。
もう、どうしようもなくて、2人が落ちた先を見たら、手を繋いだように倒れ込んでいて、思わず発狂してしまった。

先生達は、カップルが足を滑らせてしまったと思っていて、私はそこに偶然居合わせたと思ったみたい。そして屋上にはフェンスが作られた。

吹奏楽部だった彼女は、写真部の部室の二つ隣にある音楽室に現れるようなった。
私を見ると、辛そうな顔をする。申し訳ないことをしたと思った。そして彼女のことは、先輩には見えていない。
先輩のことも、彼女には見えていない。
それでも、放課後になると、先輩は音楽室へ出向いた。それからお互い独り言を楽しそうに語り合った後で、先輩は写真部へ来るようになった。

遅れても、私のもとへやってくる先輩は、弱っていた。それでも優しかった。
そんなある日、先輩から提案があった。

「僕は、君を許したい。だけど、許せないんだ。」
「ごめんなさい。」
「君も、死ねよ。」

優しい先輩から出た言葉に、驚いたのは私だけでなく、先輩本人もだったようだ。

「ごめん、君に、こんなこと言ってしまって。」
「仕方ないと思います。本当に、取り返しのつかないことをしたんですから。」

じゃあ、と私は続けた。

「先輩が私を少しでも許してくれたら、屋上で夕日を撮ろうと、言ってください。」
「夕日を……?」
「夕日と一緒に落ちたいんです。」

先輩が彼女と死んだように、私も夕日と共に落ちたい。

「分かったよ。」

それだけ言って、先輩はどこかへ消えた。私はその日から、夕日のことばかり、考えていたのだ。

ああ、時が来たのだと。先輩がその言葉を私に伝えてくれた時、ついに、この時が、と。

ヒュウと風を切る音が耳元を掠めていく。先輩、一緒に落ちてくれなかったなあ。上で見守る先輩を見つめ、シャッターを切る。

「先輩、愛していました。」

夕日と共におちる。人生最初で最後の告白は、虚しく空中へ散った。
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