縛りプレイ・リフレイン

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第1章 2話 勇者ターナー

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その者は、剣を扱えないエルフの勇者である。





それは幼少期のトラウマでも、
モンスターの呪いのせいでもない。

『武器を扱うこと自体を身体が断固拒否する』
という、おかしな体質のせいだった。

親の家系のジョブが全員勇者である為、
その勇者は己の体質を隠しながら
親の言う通りに勇者になるしかなかった。

この体質を隠すために
仕事を受ける際は、殆どが低レベルの簡易クエストしか受けず、目立つことはしたくなかったのでパーティも毎回低レベルの初心者だけを集めた。

初心者は何も言わずとも頑張って敵を倒そうとしてくれる生き物な為である。
勇者は何もせずに得た経験値とお金で
ゆるく生き抜いてきた。

だけれどもある日、
その事を親に知られてしまい、すぐに家を追い出され、やむなく旅に出ることになる。

何件か酒場を回ったが
この体質で、戦力外の勇者に付いてきてくれる物好きは一人もいなかった。

とある酒場で自棄飲みしていると、
別の酒場の店員だと言う青年が声を掛けてきた。


「自分の勤め先は、今の旦那さんにピッタリな
人が居る所なんすけど…いっちょ来てみません?」
 

勇者がその言葉に惹かれ、
その酒場に足を向けたのは
確か翌日の昼の1時過ぎだった気がする。





***********





「起きて下さいっす旦那さん」


身体を激しく揺さぶられ、
嫌々思い瞼を開けると、
そこにはあの青年が居た。

どうやら酒が回り、いつの間にか
テーブルの上で寝てしまっていたらしい。
まだ眠気がさめないので瞼を閉じようとすると
青年が珍しく焦った顔をして
シューバの身体を今度はもっと力を込め
揺さぶり始めた。
枕にしていた腕をなんとか上げ、
ちゃんと起きているぞと合図を出した。

すると青年は安心したように一息つき
揺さぶるのを止め、
後ろにいたらしい誰かに話し掛けている。

視界がぼやけて姿を認識するのに
時間が掛かったが、どうやら長身で
金色の髪を今流行りのウルフルカット
にしており、
エルフ族の特徴の先のとんがった右耳には
銀のトゲピアス、左耳には黒の龍を型取った輪のピアスが。
服装もイマドキ風にシャツの上にミーバースの皮で作られた黒いベストに深緑マント、
シャルガン蛇のベルトに女神の加護チェーン付きルーズジーンズ。
そして極めつけに足元は最高級皮で作られると噂の勇者のブーツと来た。

憎たらしい事に顔は整えられていて唇は薄く、
男の俺でも一目で
イケメンで派手なエルフ族だと分かる。


「旦那さん、勇者が話したいらしいっすよ」
 

目を覚ますのには充分過ぎる言葉で
シューバは勢い良く飛び起きる。
すると青年の後ろから勇者が出て来て
シューバに頭を下げた。


「はっ?」

「貴方がシューバさんですか?」


見た目が見た目な癖に、
物腰低いその姿に二度驚く。


「私はターナー。エルフの勇者です」


顔を上げ、くしゃりと笑うその顔は
本当に好青年にしか見えず
思わずシューバも引き攣った笑顔を見せた。


「…初めまして、ターナー殿。確かに俺はシューバだが、どうして俺のところに?」

「この青年から貴方の話を聞いたのです」


ターナーは青年を指すと、
青年はドヤ顔で親指を立てウインクする。
それを横目で流し、ターナーの方へ向き直る。


「彼が俺の事をどう言ったか分からんが、
俺はターナー殿の力になれるか分からんぞ」

「大丈夫です。私は今の貴方を見込んでいるからこうして声を掛けさせて貰っているのです」


ターナーは真剣な顔付きで
真っ直ぐにシューバを見やる。
シューバはそのターナーのクサイ台詞に
胸が痒くなる衝動に堪らず白旗を上げた。


「…そう言われちゃ俺でも敵わん。
アンタの好きにしてくれ、勇者殿」

「!、感謝しますシューバさん」


視界の隅には青年が満足気に
鼻を鳴らしいてる姿が見えた。
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