縛りプレイ・リフレイン

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第1章 5話 森の罠1

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今から600年前、この森を支配していた魔女が
弓使いの英雄によって封印された。

その時に英雄が使用した武器の名が
「アルノア・アーチ」。
英雄の名を受け継いだ伝説の弓である。

王の御好意により、城の鍛冶師によって
鍛え直され 鉄龍の加護を授けられた。

その後英雄は姿を消した。

そしてある日
生き残っていた魔女の手先によって
城に住む王や息子達は皆殺しにされ
城は魔物達に奪われる事になった。

しかしその後
木の宝箱を手に、再び舞い戻った英雄により
城とともに魔物達は消え去る事になる。


噂によると、木の宝箱は英雄によって
森のどこかに隠され、
今も眠りつづけているという。


これまで何千人以上の勇者が
木の宝箱を求め、森を探し回ったものの
未だに目にしたものは居ない。




***********



「解毒薬をケチったのが間違いでしたね」



頭上からくぐもった声が響き、目が覚めた。
目を開けても目の前は暗闇で、そこに手を伸ばすと硬い壁に当たる感覚があった。

直感でここが棺桶の中だと知る。

重い壁(蓋)を何とか押しのけると
ステンドグラスに反射して、青く色付いた
眩い太陽の光が目を襲った。
反射的に目を細め、光に順応させる。
程なくして段々と周りが見えてきた時。


「あ、起きましたか」


聞き慣れた声と
見慣れた奇天烈で派手な服を纏った男が
棺桶の横に置いてある椅子に
ターナーが足を組みながら座っていた。
手元には3行程綴られたメモ用紙と羽ペン。
ターナーはそのまま目線をメモ用紙に向け
手を動かしながら話し始めた。


「私が高HP持ちだったのが良かったものの
それでも残りギリギリでしたよ。どんな魔法使ったんですか」

「……上級激毒魔法数個と上級猛毒効果強化に上級呪い付与、それに上級幻覚呪文…とか…」

「…………どうりで…」

「状態異常魔法系は上級しか覚えてないんだよ…」


途中で口篭りながら、棺桶から出て
当たりを見渡す。

自分の他にも前後ろや左右に、永遠に続く
黒い棺桶が規則正しく置かれている。所々にターナーと同じく横に置いてある椅子に座りながら連れの目覚めを待つ人の姿が見える。

自分から見て正面には
巨大な十字架が掛けられた白い壁に、その下の祭壇では司教が祈りを天に捧げている。

その対面側に病院のような受付と
木のベンチが並ぶ。
そこに親切にもこの場所の案内地図看板が
立て掛けられている。

案内によると、どうやらグレンテル領の都心部
「タリヤー・バーデン」にある教会らしい。

グレンテル領 北の森入口からは左程遠くはないらしい。
すぐにリトライ出来る様にだろうか。
まさに親切設計である。


「取り敢えず復活料金は払っておきましたので少し休んだら宿に来てください」


そう言いながらターナーが持っていた
メモ用紙と共に腰のショルダーを外し
シューバに持たせる。


「メモには宿までの地図とこの辺りのお店情報。シューバさんにはお使いを頼みます。これも書いておきました。そしてショルダーには言伝用に便箋2枚とシューバさんの荷物、
それに合わせて買い物用のお金が丁度。
道草は出来ませんから気をつけて」

「保護者みてぇだな」

「勇者です」



メモ用紙を見てみると
確かにこの辺りの地図が分かりやすく
簡略化して記されている。
所々にある店の印から1本の線が伸び
そこで買って欲しいものの名前が
箇条書きに書いてある。

シュンバルの尾に混沌の爪、
シロガユとチーゴの実
その他諸々…
そして最後に虹の鍵だ。


「私はこれから用事があるので先に行ってます。何かあれば便箋を使ってください。
使い方はー」

「あ~はいはい、じゃあまた後でな」

「…ちゃんと間違えないでくださいよ」


ターナーは少し拗ねたように声をくぐもらせ
出口に向かった。

それに軽く手を振り見送った後
司祭が十字架に向かって手を組み、
涙を流す姿を見た。


ーーー神なんていない


頭の中に馴染みのある声が響く。

強烈な、嫌悪感。

すぐさま耳を塞ぎ、ショルダーを肩に掛け
急いで教会の出口に向かった。


**************



アオビタケの胞子が辺りを漂う中
2人の男が地面に倒れていた。

2人の全身には紫色の斑点が浮かび上がり
口の端からは胃の中から逆流した胃酸の泡が流れ出ている。
手足は激痛と共に痺れ、指先一つも動かせない。
穴という穴から赤黒い血が吹き出て
みるみるうちに服が黒く染まっていく。
視界は赤色に染まり、
留まる事なくグルグルと回っている。
かなりのスピードで命が削られていく感覚が気持ち悪く脳を支配しており、吐瀉物が滝のように口から流れ出している事にも気が付かない程だった。
毒により、発作を起こしている心臓の振動が
脈打つ度に身体を大きく動かす。


すぐにシューバが動かなくなった。

死んだのだ。

魔法使いはHPがあまり高くはない。
状態異常に対しても耐性が低くなるという
説明をジョブ選択の時に受けた覚えがある。

そして彼は防御魔法も回復魔法も使えない。
なす術なく死ぬしかないのだ。

しかしそれに対して自分は
エルフ族の特徴である高HPで
こういう状態異常には耐性がある。

と言っても自分の場合モンスターとの戦いには
無意味だが。
まぁそれでも中々死なないというのが利点である。

程なくして彼の死体が
光に包まれ弾けて消えた。

リスポーン地点に転送されたらしい。


そうだ、あと1分程すれば毒は消える。
まだHPも半分はある。
まだ死なない。

リスポーン地点はもう契約してある。

もしここで2人とも死んでしまったら
復活利用料金も2倍になってしまう仕様だ。
それだけは避けたい。

何か考えてこの痛みを忘れよう。

そうだ、えっと………


……………………


………………



▽▽▽▽▽▽▽



ーーーさっきはあんな事言ったっすけど~、

ーーー俺は旦那さんの体質を治せるっすよ?

ーーーでもその前に2つ条件を飲んで欲しい
            っす~

ーーー1つ目は旦那さんにシューバって人を
            雇って欲しいって事と

ーーー2つ目はとある弓を持って来て欲しい
            って事っすね~

ーーーそれが出来たら旦那さんの体質を
             治すだけじゃなくて、膨大なお金も
             オマケしちゃうっすよ!

ーーーと~ってもいい条件だと思うんすけど
            旦那さんはどうするっすか?



▽▽▽▽▽▽▽



平凡な見た目の癖にどこか胡散臭い青年と
酒場で話した記憶が蘇る。

まんまと好条件に釣られて今に至るわけだが。

この森のドロップアイテムについては
最初のうちに洗ってある。
高レアアイテムの弓の事も知っていたが
自分は武器を扱えない体質だから
その弓の事はあまり気にも止めていなかった。

北グレンテル領の森に眠る伝説の弓。
「グレンテル・アーチ」。
高レアというのもあって様々な
アビリティが付いているらしい。
詳しくは調べなかったから曖昧なのだが
『絶対に手に入らない高レア弓の一つ』
という噂は聞いた。

勿論あの青年にもその事を言ったが
彼によるとそうでもないらしいのだ。

ーーー獲得条件を得ていない奴は
            絶対に手に入れられないからっす。

彼は確かにそう言っていた。

高レア武器やアイテムは簡単に手に入らない様に手に入れるには何かしらの条件がある。

例えば、高レアアイテムの王妃のイヤリング。

これは城内にある特定の宝箱からドロップするのだが、それもまた条件付きで
まず対の 王のブレスレットを手に入れなくてはならない。
その為には領内のクエストを全てクリアした後、約3日ほどの王の返礼イベントを受けないと手に入らない。
そしてそのブレスレットをイヤリングの宝箱に
埋め込まなければ宝箱が開かないという、
はた面倒な仕組みなのである。

他の高レアアイテムもレア度によって
条件も大きく変化しているらしい。
と言ってもどんな条件かは誰にも分からず
本当に手探りで探すしかないのが今の状況だ。



あの青年は何者か、なんて微塵も興味ないが。




「旦那さんにしか頼めないんすよー!
ね!自分の事はタダのお喋りな店員だと思って!もうどーんどん利用して欲しいっす!」

「…あの、どうして貴方はそこまで
彼にこだわるんです?」


あの時にふと湧いた疑問を青年に問うた瞬間
今までの笑顔が消え、一瞬で
目を見開き真剣な顔つきに変わった。


「可哀想なシューバさんを救う為。」


その一言が凄みを帯び、どこか恐ろしく感じ、
己の背筋に冷たい水が流れた気がした。

次に青年は両手を挙げ、両方の人差し指を残すように次々と折っていく。


「その為に俺は旦那さんを利用して、
シューバさんを助ける。
旦那さんは俺を利用して、体質を治す。
ウィン・ウィンの関係っす。」


言いながら右手の人差し指と、左手の人差し指を口元で交差させる。


「…彼と、貴方がどういう関係か聞いても?」


口から絞り出したその声が震えているのに
気が付いたがそれを悟らせないように
出来るだけ冷静に笑顔を取り繕う。

すると青年はケロッと満面の笑顔に戻り
大きく口を開けた。


「シューバさんはあげないっすよ」


そして青年は席を立ち出口に向かい、
その背中が会話の終わりを告げた。



ーーー意味不明な青年だった。
まるで思考が読めない。
結局名前も聞かず終いだし。

それに私に頼む必要性も分からない。

本当にとんでもない者に
関わってしまったのかも知れない。

彼の事はこれ以上探らない方が吉だと思う。

さっさと仕事をこなして、
この憎い体質を治してもらおう。



そう、上辺だけの関係のまま、終わればいい。



▽▽▽▽▽▽▽▽




頬に何かが触れたのを感じた。
途端にそこが痒くなり、手を伸ばし
探ると茶色の大きな羽根が中に浮きながら
頬を忙しなく擽っていた。


「ナッツ」


かつて共に過ごした愛鷹の名を呼ぶと
その羽根は頬を恋人でも愛でる様に
優しく一撫でして、マントのポケットに戻っていった。


「ありがとうナッツ」


ポケットに手を当て感謝の言葉を呟く。

当たりを見渡すと
太陽で明るかった森が暗闇で覆われている。
いつの間にか気を失っていたみたいだ。

身体に浮かんでいた斑点もすっかり消えて
全て元通りになっている。

しかし体力がかなり削られている。
森のトラップに引っ掛かりでもしたらすぐに死んでしまうだろう。
回復薬もシューバに全部持たせていたから
今は無い。

ーーーと言うか中回復薬5本持たせたのにそれでも死んだという事はどんだけ体力値上げてなかったんだ…。

いや、それよりさっさと森を抜け回復しなければ…。

取り敢えず光がないと厳しい。

指で地面に光魔法の小魔法陣を書き
呪文を唱える。

すると魔法陣から一つの光の玉が浮かび上がりそのまま体の周りを漂い始め、頭の横の定位置に留まった。

暗闇が光に照らされ、森の中が見渡せる。

落ちていた荷物を拾い出口を求め森を進む。
確かここは出口に繋がる一本道だった筈。
そんなに進んで居なかったからすぐに着く。
大丈夫、方向は覚えている。
このまま進めば出口に着く。






筈だった。
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