縛りプレイ・リフレイン

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第1章 4話 天才

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日が昇り始めた頃、宿で飼われている食用鳥が
景気よく鳴き叫んだ。

それを目覚ましにハンモックから降り
対面でまだ寝息を立てているシューバを
なんとか起こす。

今日から上辺だけのお金稼ぎの旅が始まる。

腰のショルダーの小荷物入れに
度に必要な様々な荷物を入れる。

ぎゅうぎゅうに詰め込んでいると
ハンモックに揺さぶられ続けている
シューバがエンドテーブルから一枚の
メモ用紙とペンを取り出し
紙にツラツラと何かを書き始める。

その間になんとか荷物を仕舞い込み、
小荷物入れの蓋を閉めた。

程なくして書き終わったらしく
ペンを投げ捨てると
メモ用紙を投げて渡してきた。
見てみると魔法文字と魔法数字の合わさった計算式でメモ用紙が黒く埋め尽くされていた。
思わず顔を顰め、シューバを見遣る。


「これは?」

「簡易式オリジナル拡張魔法。
この紙切れじゃそんくらいしか使えない」


そう言うとシューバは試してみろと
指でショルダーを指差し合図する。
仕方なくメモ用紙を掴み、ショルダーに翳すとメモ用紙が光り、消えた。
思わずシューバを見ると
開けてみろとジェスチャー。

半信半疑で小荷物入れを開けると、
先程までぎゅうぎゅうだった荷物が
何処にもなく、底の無い暗闇だけが
そこにあった。


「ちょ、シューバさん!?荷物無くなっちゃったんですけど!?」

「言っただろ、拡張魔法だって」

「でも荷物がー」

「その荷物入れは魔法で別次元に繋げた。
そこに手を突っ込めばお望みの荷物が取れるし、逆に何でもそこに入れられる」

「は、あぁ!?」

「まぁ簡易式だから千個位しか入らないけど」


前言撤回。
この天才とは絶対仲良くなりに行こう。



**********




どこか訳アリの勇者だとは薄々気付いていた。

なんせあの青年が声を掛けるのは
決まって問題がある人材だと決まっているからである。

あの青年は平凡な見た目に反して
読心の加護を得ている恐ろしい奴だ。
だが、それなのに俺に対しては
それを使わないと来た。
まるで支配権を持たされているようで
青年と話す時はどこか気持ち悪かった。


青年がエルフの勇者を連れてきた時
青年の顔を見ればすぐに分かった。

アレは初めて青年に声を掛けられた時と
同じ顔をしていたのだから。




************




「武器は装備しないのか」


北グレンテル領の森の入口にて
シューバが目の前の手ぶらの男に声をかけた。


「持ってても意味がないですからね」

「本当に素手で戦うつもりかよ…」

「いいえ、戦うつもりは有りませんよ」

「は?」

「この森は低レベルモンスターしか発生しませんしね。今回は道の途中に出現する宝箱を目指します」

「…あー、そういう事か。確かこの森には高レアアイテムが眠ってるって噂だ。そのアイテムを見つける為の必要なアイテム探しって訳だ」

「そうです。ですが宝箱からドロップするアイテムは完全にランダムですから1発でゲット出来ることは絶対に無いと思いますがね」

「確かに俺的には丁度良いが……これ、いつまでやるんだ?」

「勿論目的のモノが出るまで通い続けますよ」

「うーわ…」
 

シューバが思わず顔を顰めるのを見て、
満足気にニヤリと笑った。
 

「大丈夫ですよ。この森のドロップするアイテムは抵難易度の割に良いものばかりなので
それらを売って行けば少なからず儲かりますし、強化アイテムや装備合成アイテムも沢山落ちるので強化しまくれますし、ここ結構穴場スポットなんですよ」

「お前こういうの結構慣れてるな…」

「それより先を行きましょうか」


武器を扱えないなりの強化術は
ここ数年、独学で学んだ。
どこの領が一番儲かるか、何処が低レベルモンスターが居て、ドロップするアイテムが良い所なのかとか、木から採れる実の中で、どれを食べればどういう肉体強化が出来るかとか、どれとどれを合成したらどういう薬が作れるのかとか、
人生の内に知り得た経験知識全てを頭に叩き込んである。

ただ、それらは全部、1人では出来ない事も
同時に学んだ。


モンスターに囲まれれば
例え肉体強化していても
武器も扱えない自分は
絶対に敵に勝てっこないのだ。

これまで何百回死んでリトライしたことか。
協会にお世話になるお金すらも危ういというのに。


森を道なりに進むと、木の根元に
青白く光るキノコを数本見つけた。


「アオビダケですね。シロガユと合成すると
相手を2分間猛毒状態にさせる薬が出来ます。数本採っておきましょう」

「ターナー、お前調薬師スキルも持ってんのか」

「調薬師の他にゴロツキ、金銭アップ、風読み、索敵、目眩しスキル習得してます」

「勇者の癖になんちゅースキル習得してんだよ…」

「趣味ですね」


言っている間にアオビタケを5本収穫した後、
索敵範囲内にモンスターが一匹引っかかったのを感じた。

遠くで雑草の動く音。
これにはシューバも反応したらしく、
腰に提げていた杖を構え、当たりを見渡している。

それに対し、口元に指を当てて合図し、
シューバの動きを静止させ
森の音に耳を傾ける。

土をゆっくり、四足で力強く踏みしめている。
草の動きは鈍い。風の流れで聴こえる吐く息の大きさ、荒さから中型モンスターだと判断できる。

相手が低レベルでも、
出来れば出くわしたくない相手だ。

いつもはここですぐに引き上げる所なのだが、
ターナーは少し気になる事があった。

小声でシューバに声をかける。


「シューバさんは戦えないって訳じゃないんですよね?」


出来れば戦わない方針だが、
今はメンバー(天才)が居る。
戦ってくれるかどうかは彼次第だが
討伐報酬のお金も沢山稼いでおきたいところ。

少し間が空いたもののすぐに返事は来た。


「状態異常魔法だけならイケるが…」

「なら大丈夫ですね。…コレを」


シューバに先程採ったアオビタケを全部渡す。
困惑してキノコを眺める姿に
少しだけ笑いを誘われ、
こちらに気付いたシューバに睨まれる。


「で?このキノコがどうした」

「貴方の魔法効果を一時的に高めてくれます。
今はシロガユが手持ちに無いので効果は薄いですが、キノコの猛毒作用は変わりません」

「…食べろと?」

「安心して下さい、食べません。寧ろ食べたら貴方が死にます。そのアオビタケの胞子を魔法に練り込むんですよ」


そこまで説明するとシューバが理解した様に
口角を上げた。

この世界での魔法植物の使い方は2通りある。
植物同士を掛け合わせて魔法薬を作る場合と
その場で実物を使う場合。

今回はキノコ類を使う。
この場合キノコを食べて直接効果を得る方法と
キノコの胞子を辺りに漂わせ、そのキノコに合った魔法効果を上げる方法の2通りがある。

流石にシューバはその方法は知っていたらしく
早速アオビタケの青く光る笠を杖で軽く叩く。

すると飛び散った胞子が
すぐに辺りに広がった。

すぐさま呪文で次々と魔法陣を形成していく。
その数、2、4、8…

ーーーあ、そう言えば言い忘れていた。


「因みにアオビタケは少、中レベル魔法までしか使えません。高レベルの魔法に使用する場合は2分間、こちら側に猛毒作用が来ます」



「えっ」



森の中に間抜けな声が響いた時
全身に大きな痺れが駆け巡った。
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