縛りプレイ・リフレイン

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第1章 7話 ルー

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『タルティーヌの釜戸』にて
シューバは一人、メモ用紙と睨み合いながら
商品棚の前に立ち竦んでいた。


「おい兄ちゃん!いい加減そこに居てもらっちゃあ、他の客が買えねぇだろぉが!!」


真後ろで怒号が響き渡り
嫌々に後ろを振り向くと店の主人らしき人物が顔を茹でダコのように真っ赤にしながら
剛腕な両腕を組んでいた。


「…商品棚は隣にもあるだろ。そもそもテメェがそこに突っ立ってるから客が来ねぇんじゃねぇのかよ?」

「あぁん!?おめぇ何様だぁ!!?」

「絶賛商品迷い中のお客様だゴラァ!」


両者右腕を勢い良く上げ、お互いの顔面目掛けて殴り掛かる。
だがその時二人の間に店の中にいた一人の
13そこらの少年が叫び声を上げながら飛び出てきた。


「やめてくださーーーい!!!」

「「あっ」」


時既に遅かった。


「痛゛っ゛た゛ッ゛ッ゛ッ゛!!!」


両者の固く握られた拳は少年の頬に
両方からめり込み少年の顔面を軽く潰した。
少年の身体は商品棚に勢い良く突っ込まれ
次々と棚の商品が落ち、割る音が鳴り響く。


「お、おい…大丈夫か…?」


すかさず彼に駆け寄ると少年に覆い被さっていた商品の箱の山から少年の細い腕が震えながら突き出た。


「おっお客さん!?」
 

主人がその手を握り、少年を引っ張り上げる。


「う、わ、わ、わ、わ~!」


ガラガラと音を立て少年の身体から
箱が崩れ落ちていく。
その光景はまるで芋抜きの作業の様で
なんとも微笑ましく感じられた。
完全に体が出た頃に
少年はへらりと笑顔で右頬を押さえていた。
そこはシューバが殴った箇所でもある。

少年の胸に掲げてあるキラリと輝く魔法石に
一瞬目を奪われた。


「肉体強化魔法はずるいよお兄はん~」

「…!」

「僕じゃなひゃ店主はん大怪我どころは大火傷に顔面粉砕骨折で全治5ヶ月位になっひゃっへまひたよ~」

「は?なんだァお前さん魔法使いだったんか」
 

主人がまじまじとシューバを見やる。
一応マントは着ているものの、中の服は至って普通だ。むしろ今まで魔法使いとしてパーティに加わらない事が多すぎたから普通の私服を来ていることが当たり前となっていた。
確かに自分から言うまでは魔法使いとはわからない見た目である。

いや、それよりー…


「そんな事はどうでもいいだろ。ほら、お前やられた所見せろ。治せはしないが、治りを早くさせることは出来る」

「あ、おねはいひまふ~」


少年が抑えていた手を離し右頬を差し出す。


「ぅわっ!!」


瞬間主人の叫び声が店内に木霊した。
目線の先は右頬だ。

本人はそうでもないような振る舞いだが
頬は裂け、筋肉が丸出しになっており
所々焼け爛れ 見るも無残な状態に
なってしまっている。

ーーこうさせてしまった自分も悪いが
流石にここまでダメージを与える程
強化していなかったはずなのだが…。

取り敢えず
右頬に手を翳し細胞活性化術を掛ける。
回復魔法が使えないなりに
状態異常魔法の1部をどうにか工夫して
それなりの抜け道を生み出した魔法だ。

傷付いた肉体の細胞を活性化させ
自然回復のスピードを急速に早める。

少年の右頬もみるみる内に元通りに
戻っていった。


「僕は『守りの加護』持ちなの!
魔法とか物理攻撃はほぼ効かないんだけどなぁ…久しぶりにびっくりしたぁ」

「俺も、そこまで強化してなかったんだが…」

「あ、それだけど、多分誰かの手が加わってると思う」

「どういう事だ?」

「それは」

「話を割ってすまないが」


話を遮るように主人が声を上げた。


「ここは商店だ。話し合いする場所じゃねぇ。
サッサと商品方付けて、去っちまったお客さん達を呼び戻すのを手伝いな!」




********************



主人に強制的に棚の方付けやら商品出しやら声掛けやら色々やらされた後にやっと2人は解放され、そのまま宿に向かう事になった。

二つのハンモックにそれぞれ揺られながら
話し合いは続いた。


「自分や他者を期限なしで強化させたりできる加護っていうのがあってね。
『強化の加護』って言うんだ。まぁ、『強化の加護』持ちなんて極級加護、周りでは聞いた事ないんだけど、それこそ英雄や皇帝、神龍位のクラスなら必ず誰かしら持ってる。まさかとは思うんだけど…」

「いや、そんな人脈俺には無いな」

「普通はそうだよ!」


普通ならね、とため息を吐きながら
少年は部屋のエンドテーブルを
チラリと見遣る。
思わず釣られて目線の先を追う。
そこには確かターナーの置いていった
便箋とメモ用紙の残りが入っている。

ふと少年がハンモックから飛び降り
エンドテーブルの引き出しを開ける。


「そう言えば僕、名乗って無かった!」

「ん?あぁ…」

「僕はルー。所謂 放浪妖精だよ」

「へぇ、放浪妖せ…」


そこまで言いかけてルーの言葉に
引っかかった。


「放浪妖精!?」

「うん!」


元気よく返事する彼はにこやかに
引き出しの中の便箋を取り出し
ソレを空中に放った。


「オイオイオイ!」


ソレは一瞬で鳥の形になり
素早く狭い部屋の中を飛び回り始める。
体に纒わり付くように鳥は
ペチペチと羽根の様な紙の端を顔に叩きつける。
くすぐったいソレを手で押し退けながら
彼の言った言葉を追求する。


「ルー!お前本当にあの放浪妖精なのか!?」

「そうだってば」

「いや、文献と全然違うんだが」


そう、ずっと昔に暇潰しで漁った
妖精図書やら文献などで見た
放浪妖精は人間の姿などしていない。

しかも文献にはこうも記されていた。


「『妖精の仲間だが人間を毛嫌いしており、
人間には一切姿を見せないが、唯一、己が
認めた者だけには敬意を払う。膨大な魔力ストック所有の為生涯孤独を好む生態』…だと記憶してたんだが!」

「いかにもその通り」

「は、ぁ…!!?」


訳がわからない。
ーーじゃあ何故俺達の前に現れ助けたのか?
そう顔で訴えるとルーは
仕方なそうに指をコチラに差し出した。

するとシューバの顔に擦り寄っていた鳥は
そこから離れ指に向かっていった。


「僕だって好きで人間なんかを助けないし
こんな姿にも成らないよ」

「じゃあなんで」


そう問うとルーはまたもにこやかに
手に纒わり付いていた便箋を引き裂いた。



「主に契約されてるんですよ。
『シューバさんに従え』、と」
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