縛りプレイ・リフレイン

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第1章 10話 童話

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その本はいわゆる妖精語単語魔法文集であり
調べたい単語を思い浮かべると
自動的にそのページが開かれ言葉を発する。


途中の酒場にてターナーは一人、
本を手にし、森で聞いた言葉を思い浮かべていた。


『ウバラバ』「女神」
『アッタン』「匂い」
『トゥーナ』「懐かしい」
『マハタン』「再会」
『シバナ』「思い出」
『ナルナド』「恩人」


されどターナーは未だ頭を抱えていた。

それも直前に『森の伝説話』だという
分厚い絵本を読み終わっていたからである。
彼女は歴史書と言っていたが
ページを捲れば全てが絵で描かれており
児童向けの絵本の様な代物だった。

だが、所々 まるで虫食いのように
空白のページのままだった。

そうしてなんとか理解したのは


『今から600年前、この森を支配していた魔女が弓使いの英雄によって封印された。

その時に英雄が使用した武器の名が
「アルノア・アーチ」。
英雄の名を受け継いだ伝説の弓である。

王の御好意により、城の鍛冶師によって
鍛え直され 鉄龍の加護を授けられた。

その後英雄は姿を消した。

そしてある日
生き残っていた魔女の手先によって
城に住む王や息子達は皆殺しにされ
城は魔物達に奪われる事になった。

しかしその後
木の宝箱を手に、再び舞い戻った英雄により
城とともに魔物達は消え去る事になる。


その後木の宝箱は英雄によって
森のどこかに隠され、
今も眠りつづけているという。


これまで何千人以上の勇者が
木の宝箱を求め、森を探し回ったものの
未だに目にしたものは居ない。』


という事だけで殆どが空白で
重要な箇所がほぼ抜けていて信憑性に欠け、余り期待は出来ない。

森で聞いた妖精の言葉とも結びつかない為
ターナーの頭を悩ましていた。

 
『ウバラバ、アッタン』
「女神の匂い」

『マハタン、シバナ』
「再会の思い出」

『ウバラバ、トゥーナ、シバナ』
「女神との懐かしい思い出」

『ナルナド、カルナ・F・ターナー』
「あなたは恩人、カルナ・F・ターナー」


妖精と女神の関係が分からない以上
どうする事も出来ない。
取り敢えずシューバさんと合流して
知恵を出し合って見るしかないな。

妖精語単語魔法文集を閉じ
そのまま2冊脇に抱え席を立つ。


「そう言えばお使い大丈夫かな」


そう思い立ちながら宿に向かった。
 



*****************



一人でに遊び疲れたルーは数刻前に
ハンモックで眠りについてしまった。
妖精は寝る必要も無いが
借りている身体が少年の為、
ソレ(少年の滞在する本能的思考)には
なかなか逆らえないらしい。

シューバも床であぐらをかきながら
眠りつく少年を眺めていた。

放浪妖精だという点を抜かせば
ただの幼い弟の様な奴で可愛いモンである。

自分にも弟がいたらこんな感じかと
遊びに付き合ってる内にしみじみと感じていた。

床にはメモ用紙で作られた動物の折り紙や
魔法の残骸、少年が持参していた魔法陣を書く専用の白チョークなど様々な物が散乱している。
壁にも書き途中の魔法陣がいくつも並び
宿主が見たら激怒だけじゃ済まされないなと客観的に思っていたりもする。

ーーー寧ろターナーがコレを見たら
どう思うだろう。

シューバはこの後の事を想像し、
口角をあげる。

まずは怒られて、床の掃除。
怒られながら壁も綺麗にしてココで
ルーに気付く。また顔を真っ赤にして
ルーと俺に夕食を作らせる。
そんで味に感動して全部許してくれる。

こんな所だろう。

……まるでーーのようだ。


「元々オカンみたいな奴だしな」

「誰がオカンですって?」


ふと呟いた言葉に被せて
聞き慣れた声が頭上から低く響いた。
思わず振り向くとソコには
満面な笑顔に扮した鬼がいた。


「まずは床の掃除からしましょうか」


予測通りの言葉に思わず口から笑いが零れた。
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