Real~Beginning of the unreal〜

美味いもん食いてぇ

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2章 別の戦い

17話

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「あっ」「花ッ!!」

 その中には紗命と仲良くしていた女の子の姿もあった。
 母親の悲痛な叫びが響く。

 彼女は怪我人を庇おうとして、風に身を許してしまったのだ。

 紗命の腕は植物用のネットに絡みつけられている。
 ぼやける思考の中、必死にしがみついて耐えていた。

 しかし彼女を救った張本人は、

「凛ッ!!」

 葵獅が叫び駆けだす。

 しかし、遠い。


「ッ……!っ」

 宙に投げ出された凜は共に飛ばされた幼女を見つけ、空中で腕を伸ばし胸に抱き寄せた。

 「グゥっ……大丈夫かい?」

 「うん……ありがとっ……」

 「ふふっ、強い子ね」

 ――凜は幼女が前を見ないように、抱いたまま起き上がり、


 羽を広げ構える巨鳥を見据えた。


 落ちた場所が驚異的に悪かった。五mも離れていない。

 加え、強風は一瞬しか吹かなかった。

 自分達が宙を舞っている間に、突進のチャージは完了している。

 逃げる時間などない。


 ――不思議と凛の心は穏やかだった。

「ふぅ」

 一息つき、彼女の目つきが変わる、

 自慢の三白眼で敵を睨みつけ、彼氏譲りの獰猛な笑みに中指を添えてやる。

「くたばれクソ野郎」

「ギィェェエッ!!」

「逃げろォッ!!凛ッッ!!」

 肉弾が打ち出された。

 ――折れた嘴が目の前まで迫る、


 愛しい彼の声が聞こえる、

 泣きそうな声だ、

 彼の泣くところなんてめったに見れない、

 (……見たいなぁ

  いっぱいいじって、いじった後に一緒に笑うんだ、

 ……私、良い彼女だったかな、

 ……まだ、一緒にいたいなぁ)


「……ごめんね、葵」



 ――「やめろぉ」

 佐藤はその光景を、ただただ横から見ていることしかできなかった。

 風には巻き込まれなかったが、攻撃をした後から身体が動かない。

 人が埃の様に飛び、塵の様に殺されそうになっているのに、身体が動かない。

 大切な人が倒れたまま動かない。

 大切な人が泣きそうになりながら走っている。

 大切な人が死を前に笑っている。

(やめろ)

 一番大事な時に、何もできない、

(やめろ)

 一番立たなければいけない時に、立つことができない、

(止めろ)

 私は……私は、何の為にここにいる、

(止めろ)

 私は彼らと何を約束した、

(止めろ)

 守れ、守らなきゃならないんだ、これ以上、失ったらダメなんだ、

 これ以上はッ、

 止めろ、(止めろ、やめろ、)「止めろ、やめろ、止めろ、」(止めろ止めろ)やめろ「やめろ止めろ止めろやめろやめろ止めろ止めろ、止めろ――」


「やめろオォォォォッッ!!」


「ギェッ!?」

 巨鳥の身体がビタリ、と、その場に固定された様に、止まった。

「えっ、キャぁっ」

「キィサマァアッッ!!」

 正真正銘の鬼と化した葵獅が凜を突き飛ばし、敵の前へ躍り出る。

 巨鳥が動けなくなった間、僅一秒。

 巨鳥も動揺するが、男が女を突き飛ばした時点で首は引かれている。
 嘴が壊れていても、人間一人突き殺すことなど容易い。

 歪な凶器が風を切り、葵獅のの顔へ届く、直前、

 あろうことか、彼は身体を少しずらすだけで躱してみせた。

 頬に掠り、血の線が走る。

 今の葵獅に敵から離れるという考えは無い。

 あるのは煮えたぎる殺意のみ。

 自分の身など考えていない。

 敵の弱点以外、何も見えていない。

「コォロスッッ!!」

 物凄い形相で巨鳥を睨みつけ、無防備な首を灼熱の手で鷲掴みにする。

「グゲェッ!?」

 巨鳥は狂ったように暴れるが、葵獅は馬鹿げた握力と炎で皮を貫き、肉に指を食い込ませる。

 振り回される中、もう片方の手も食い込ませ絶対に離さない。

 瞬く間に巨鳥の全身が炎に包まれ、さらに暴れる巨鳥に、葵獅は渾身の力で張り付く。

 しかし、燃え盛る炎は徐々に葵獅のことも焦がしていた。

 本来自身の魔法で傷つくことはない。
 しかし、それは身体が耐え得る限界までの話だ。
 無理をしすぎれば、当然壊れる。

 巨鳥はたまらず池へ走り、水に身体を打ち付け、張り付く虫を落とそうとする。

 池の底に叩きつけられ頭から血を流すそれは、しかし、離れない、剥がれない、離さない。

 恐ろしい執念でさらに火力を上げる。


 巨鳥は初めて、彼等に恐怖を抱いた。


 ――佐藤は葵獅のぶち切れた姿を、ボーっと見ていた。

 自分の中にある、いや、ずっとあったのに気付いていなかった力。

 今なら、さっきの現象は偶然などではなく、自分が起こしたのだと分かる。

 なぜか扱い方も、元から知っていたかの様に分かる。

 魔法とは全くの別物、使おうと思うだけでトリガーが入る。

 何だこれ。

 感じたことのない感覚に心を持ってかれていたが、連続する水を打つ音で現実に戻ってきた。

 我に返れば、鬼の形相で血を流しながらしがみ付く葵獅を、巨鳥が水面に叩きつけている。

 首元など既に毛は無く、肉まで丸焦げになっていた。

 対する葵獅も執念で張り付いてはいるが、顔色が目に見えて悪い。血も流しすぎている。

 両者とも限界だった。

 佐藤は自分の馬鹿さ加減を呪い、急いで、しかし冷静に、

『座標』をセット。

「葵獅さんッ!!止とめますッ!!」

 その声に反応し、葵獅の目に最後で最大の闘志が燃える。

 次の瞬間、

「ギッ!?」

 巨鳥を同じ感覚が襲った。

 しかし今回はそれだけではない。首から明確な死が駆け登ってくる。

 毛を毟りながら、一直線で頭まで到達する。

 葵獅は両手を大きく広げ、

「フンッ!!」

 両の目玉を手刀で突き刺した。

「ギィアァアッ!!ッガファッ……」

 鮮血が飛び散り、一瞬で蒸発する。

 両目、両耳、口から炎が噴出。

 頭蓋の中を一瞬で焼かれ、何も分からぬまま、巨鳥は絶命した。

 
 両者が力なくその場に崩れ、水飛沫みずしぶきを上げた。

「葵っ!!」

 佐藤は凜が走っていくのを見届けてから、強引に身体を起こし、半ば引きずるように歩く。

 生き残った人達は、泣き、笑い、喜びを分かち合っている。

 その光景に久方ぶりの温かさを感じ、自然と口が綻ぶ。

 彼等を通り過ぎ、少し行ったところで脚を止めた。

 見つめる先には、今も母の命令を守る三十羽の黒鳥。

 佐藤は満身創痍の身体で、敵であった者達の前に立ち塞がった。


 ――黒鳥は理解していた。
 自分達の長が死んだことを。
 自分達が負けたことを。

 ……自分達が、恐怖を抱いていることを。

 今、目の前に立つ男はボロボロで、見るからに死にそうだ。

 もし襲いかかれば勝てるのだろう。

 しかし、動かない。

 脚が進むことを拒否している。


「……早く、行ってくれませんかね、」


 男が何を言ったかは分からなかった。

 分からなかったが、この場を離れたくてしょうがなかった。

 一羽、また一羽と、夜の闇へ飛び立っていく。

 もはやこの者達は敵ではない、生存競争に敗れた只の敗者である。

「……助かります、」

 佐藤は眼鏡を正そうとして、

 ……視界が暗転した。



 時間にすれば、一時間にも満たない。

 失った命は計り知れない。

 それでも、彼らは勝った。

 襲い来る命のやり取りに、彼らは勝ったのだ。


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