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2巻 1章~国と魔獣~
2話
しおりを挟む――数十分後、近場にいた国を牽引する者達が、招集に応じ続々と皇居へ到着する。
まだ来れない者はテレビ通話での参加とし、緊急の会議が開かれた。
無駄に話し合っている時間は無い。今確保しなければいけないのは、民間人の安全ただ一つ。
しかし現状は、既に敵に攻め入られ虐殺を許している状況。
民が訴える嘆きが、痛みが、彼らの胸を抉る。
絶望的なまでの戦況差に、
しかし卓を囲む顔ぶれに、一切の怯え無し。
総理自らが先頭に立ち、的確に指示を出していく。
誰もそれに意見せず、各セクションに伝達していく。
この命令系統の早さを実現させているのは、偏に総理への絶対的信頼、常軌を逸したカリスマ性が成せる業だ。
過去最高と謳われる圧倒的指導者を前に、現在の日本はある種の独裁国家となっている。
それで国が成り立っているのも、王を補佐する大臣に恵まれたから。
ここはもう、日本であって、日本ではない。
そんな国が保有する軍隊が、普通であるはずがない。
§
――モンスターは知らなかった。
今自分達が手を出している場所に、何が潜んでいるのかを。
モンスターは知らなかった。
今自分達がいる場所が、どれ程危険な場所かということを。
モンスターは知らなかった。
太陽を背負う戦闘集団の、底知れない恐ろしさを。
§
――会議とは名ばかりの、司令本部と化した一室から、重要機関へ指令が送られる。
国家の主要人物が集まるこの場所を本陣とし、到着しつつある日本最強の戦闘部隊で防衛を敷く。
それ以外、日本全国の部隊は、駐屯地防衛隊を三分の一残し、避難場所となっている学校や病院へ駆けつけるよう指示が出た。
そこから近場の避難場所を繋げていくように、自陣を広げる戦術を作戦とする。
警視庁下の部隊は、主に人命の救助を優先し駆け回ってもらう。
一先ず落ち着いた本部は、各所からの報告を待つ形となった。
――「……ふぅ」
我道が総勢千を超える部隊を窓から見ていると、慌ただしい部屋にドアをノックする音が響いた。
「失礼いたしますっ。第一空挺団所属、亜門一等陸佐、隷下、Α隊からΔ隊隊長でありますっ」
「入れ」
岩国が入室の許可を出す。
「失礼いたしますっ」
挨拶と共に、一糸乱れぬ動きで計五名の男女が入室し、亜門の後ろに四人が整列した。
「第一空挺団所属、並びに皇居守護部隊総隊長、亜門 誠一郎一等陸佐でありますっ」
敬礼する彼等の気迫に、部屋中の空気が引き締まる。
東西南北に配備された人員は、それぞれ四五〇人程度。加えて隊員は全て精鋭中の精鋭。
過剰なまでの戦力が今、一か所に集結している。
しかし、それ程までにここは守り切らなければならない場所だということ。
「状況は」
「はっ、既に全方位、皇居内にて第一防衛線を敷き終わり、第二防衛戦の設置に取り掛かっています。
同時に皇居内にて、怪我人の手当てを行っています。幸い命に係わる重傷者はいないとのことです」
なるほど流石に仕事が早い、と後ろで見ていた我道が感心する。
「分かった。引き続き第二、第三の防衛線の構築を急いでくれ」
「はっ」
「それと、モンスター共について何か気付いたことはあるか?」
岩国は外で見た悍ましい化物どもを想起する。
「はっ。私も彼等から報告は受けましたが、今のところ我々は殆ど敵との交戦をしていません。
敵の事なら彼等に直接聞くのが一番かと」
亜門は未だに沈黙を守る後ろの四人をちらりと見る。
「我々がこれ程早く防衛線を構築できているのも、彼らのおかげです」
亜門隷下の大半が任されたいるのは、陣の構築と防衛。
対して彼等、特戦群が任されているのは、危険未知数の外の偵察である。
「それもそうだな。して、どうだ?」
黒い迷彩に身体の大半を隠した四人が、ぬるりと動いた。
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