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2巻 1章~国と魔獣~

3話

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 よく見れば戦闘服には幾つも血痕が付き、血の臭いを漂わせている。

「はっ。我々が相対したのは、既存の動物に似た生物、小型の人型生物、昆虫型生物、鳥型の生物など、種類に規則性はありませんでした。
 加えて個々で行動しているモノが多く、統率形態も無いと思われます」

「手こずるか?」

「いえ、銃火器で容易に殺傷できます。ただ、非常に凶暴で人間を見ると襲ってきます。武器を持っていない状況ですと、我々でも対処できない場合があるかと」

「……それほどか」

 皇居に避難した民が皆軽少なのにも納得がいった。
 要するに、モンスターと邂逅した者は軒並み殺されているのだ。

「奴らの目的は分かるか?」

「……恐らく、目的はありません。奴らは只狩をし、食料を確保しているだけなのだと思われます」

 部屋にいた人間達の顔が歪む。

 長い事忘れていた、被捕食者としての立場。
 自分達が直面している状況は、まさにそれなのだと理解した。

「それと、皆様に見てもらいたいモノが」

 一人が端末を取り出し、机の上に置く。

 そこに映っていたのは、例のドブ色の球体であった。

「……何だこれは」

「私の班が六本木駅周辺で見つけた物体です。……見ていて下さい」

「「「……――っ!?」」

 一拍の後、ボトボトと数十匹の似た形の異形が生まれ落ち、そして球体は消えた。

 悍ましい光景に絶句し、そして確信する。

「……あれが根源か」

「恐らく。しかし次どこに現れるのか予測できません」

「……分かった。引き続きお前達はモンスターの駆除、及び周辺の情報を集めてくれ。生き残っている民間人がいたら保護も頼む」

「「「「はっ」」」」

 岩国は一息つき、一度切り替え姿勢を正す。

「それでは……傾聴ッ!!」

 元々引き締まっている空気が、さらに引き締まった。

「貴様らは今っ、冗談抜きで国一つ背負っていることを忘れるなッ!!
 貴様らの一角が崩れた時、それはこの国が滅びる時だッ!!
 死んでも守り抜けッ!!そして絶対に死ぬなッ!!
 我が国を踏み荒らしているあのクソ共にっ、一歩たりともこの地を踏ませるなッ!!
 我が国の強さを、恐ろしさをっ、奴らに見せてやれッ!!頼んだぞッ!!」

「「「「はッ!!」」」」

 岩国の渾身の激励により、隊長達の士気はマックスになる。
 隊長達だけではない、その場にいた国の重役達にも、その意思は伝播した。

「行けっ」

「失礼いたしますっ」

 力強い迷彩柄の背中を、彼等は全幅の信頼を胸に見送った。





 §





 場所は六本木ビルズ。大量のモンスターの進行に瞬く間に館内は蹂躙され、食いつくした奴らは次の獲物を求め殆どが出ていった後だった。

 連続した銃声の後、屋上のドアが開け放たれる。

「……クリア」

「クリア」

「クリア」

 夜の闇に溶け込む、四つの黒迷彩。
 彼等は特戦群・南方調査隊・(Γガンマ隊)・第四班である。

「よし、俺達の仕事は遠方からの偵察兼援護。加えて先の球体の再出現を見張ることだ。
 睡眠は一人ずつとる。以上」

「「「了解」」」

 僅か数十分で地上五十四階の超高層ビルを占拠した四人は、スナイパーライフルを片手に各々配置についた。



 ――「……酷い景色ですね」

 元来夜景というのは、人々の営みの光を愛でるもの。営みを破壊する炎を見るものではない。

「あぁ。だが本当に恐ろしいのはそこじゃない」

「……静かすぎる」

「……あぁ」

 初動から五時間と少し。その間に、人々が逃げ惑う、泣き叫ぶ声はピタリとやんだ。

 赤々とした夜に響くのは、都会に似つかわしくない獣の遠吠え。

 何のことは無い。この短時間で、一般人は隠れるか食われるかの二択を、強制的に選択させられたのだ。

 それは、首都から人間が追いやられたことに他ならない。

「……これからどうなるんですかね」

「バカ野郎、その為に俺らがいるんだろ」

 弱気な後輩のスコープを軽く叩く。

 そう、彼等には真に日本最強足り得る実力があるのだ。できない事の方が少ないというもの。

「そうですね。すんません」

「おう」

 再び眼下に目をやり、人のいなくなった街を望遠した。
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