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4章
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しおりを挟む「……どういう事だ?」
「見られてた。昨日。気のせいじゃなかったっ」
「落ち着け。……あん時か、」
昨日、ノエルが唐突に窓の外を気にした瞬間を思い出す。
自分とノエルを出し抜き、会話内容を盗み聞いた。そんなとこだろう。
「(まさかあいつにそんなスキルがあったとは……)いや、原因は俺だな」
近くにいる人間一人に気付かない程に、それ程に集中力を欠いていた。
救出した女性達にチヤホヤされて浮かれ、おっぱいを揉み思考力が低下し、すらいむとの契約に喜び、その状態で国との交渉に神経を削った。
正真正銘、油断と怠慢に足を掬われた結果だ。
そして何より、索敵の殆どをノエルに任せて、それで良いと感じていた自らの不甲斐なさに苛立ちが込み上げた。
動画の中の新は、確実に身体強化を完成させている。
亜門には抽象的なアドバイスしかしなかったはずだが、それだけで、しかもこの一時で完成させたのは、偏に彼の才能が飛び抜けているからだろう。
新が何を思って動画を撮り全国に流したかは知らないが、それよりも、国に全く同じ情報を売った手前、この状況は想像以上にマズい。
「すまんノエル。俺のせいだ」
「違う。あんなとこで気を抜いたノエルのせい。ごめん」
「……ありがとうな。スマホ貸してくれ」
ノエルから携帯を受け取り、履歴から電話を掛ける。
……『はい。我道です』
「いきなりすみません。まさです」
『おはようございます。如何されましたか?』
「Xtubeにアップされている動画は見ましたか?」
『はい。此方でも今、その対策と対応が急がれているところです。
そういえば彼はコロニーの代表者でしたね。身体強化の件は秘匿事項だと仰っていましたが、彼には話していたのでしょうか?』
「いえ、話していません。昨日の交渉現場を盗み見られていたようです」
『そうですか。我々も高額で情報を買った身として思う所はありますが、まささんとノエルさんとはこれからも良好な関係でいたいと思っています。
今回の件はこちらで対処しますので、今後も何卒宜しくお願い致します』
「……はい。宜しくお願いします。……ご迷惑をお掛けしてすみません」
『いいえ。それでは失礼します』
「はい。……」
通話を切り、隣で悔しさに顔を歪めるノエルの頭を撫でる。
「ごめんまさ。嫌な役させた」
「謝んな。責任取っただけだ」
しかし、我道の言葉の裏に隠された、『貸し一つ』という含意を理解できない自分ではない。
本来なら国に感謝されて終わるはずの交渉が、たった一つのミスで全てが破綻し、謝る羽目になった。
自分に落ち度がある事など百も承知。謝罪の必要性も、当然の報いだという事も、頭では理解できている。……頭では。
ただ、新が自分勝手にくだらない偽善を披露しなければ、こんな状況にはなっていない。
……屈辱だ。
理性とは反対に心をざわつかせる、羞恥、遺憾、やり場のない怒り。この感情をどうすればいい?
「まさ」
「……ああ」
簡単だ。
「お礼参りといこうか」
東条はノエルにスマホを返し、一つ伸びをして立ち上がった。
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