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序章
落日の黄昏 と 若き導師の誕生
しおりを挟む幾日前だろうか?
何かが違うと感じていた
空を見上げると、雲の波が出来ていた!?
ケモノ達は落ち着きを無くし、空飛ぶケモノは渡りの時期でも無いのに、方々へ飛び去った
川の水が生暖かくなった
四月はひと月も後だというのに、『桜』が満開になった
いや、四季の理りを無視して、菖蒲、紫陽花、向日葵、秋桜、様々な花が咲き始めた
寒波が襲来してるというのに!?
井戸水が塩辛くなったり、涸れ井戸が復活したり、湧き水からお湯が沸き出したりと
天変地異を匂わせる異変がお茶の間を賑わせていた、その頃
東北のとある波除け観音像が安置されている御堂では、代替わりの継承式が執り行わようとしていた
由緒正しき観音像と言われてはいるが、いつから此処に安置されていたかは、誰も知らないのだが
弘法大師が安置したとか、行基が安置したとか、役小角が安置したとか、諸説いろいろあるが
どれが正解かは、誰も知り得ない
凡ゆる測定法を持ってしても、年代を特定出来無いからだ
古文書には、ヒヒイロカネ、アポイタカラとも書かれてはいる
だが、この観音様は、仄かに蒼がかった銀像なのだ!
そう、ラノベが好きな者ならば、分かるだろう、あの金属ミスリルだ
だが、傷を付ける事も動かす事も出来ない、まさにオーパーツである
僕としては、ヴィシュヌ神やラクシュミー神を日本に顕現させたら、こんな感じかと思っているが
爺様達に言わせると「なんと、罰当たりな!」よく言われる
蒼い肌を持つ古代五色人のひとりだと思う
そんな感じだからだろうか?
毎日の日課となっている本堂の掃除とご本尊である観音様のお清めも、飽きっぽい僕だが苦にならない
『不思議な感じだな、母さんみたいな温もりを感じる』って、何時も思う
僕には、親がいない
赤子の時に、本堂の前に捨てられていた、僕を三人の爺様達は育ててくれた
母を思うこいしさは、観音様を見て育った感じだった
小さい頃、親こいしさに咽び泣くと、決まって観音様の傍らで眠った
とても安心するのだ、白銀のお月様に照らされた観音様は、とても優しげでまるで母の様な表情をしている
仄かに蒼く白銀に輝く観音様
そんな事を思い出しながら、お清めして磨いていく
「観音様?今日は心配事でもあるの?」
なんだかいつもと表情が曇っている様な気がする
(やっぱり観音様も天変地異に、御心を傷めてるのかな?)
「なんだ、亜樹兎?お前でも継承式は不安か?」
「亜梵爺ちゃん、違うよ!観音様が心配事あるみたいなんだ」
この爺様は、亜梵(アボン)和尚、私を育ててくれた爺様達の一人だ
和尚じゃないけどね(笑)
「そうかの?亜樹兎?お前程観音様と接して無いからだろうか?分からぬな」
「緑樹爺様と白兎爺様は?」
まるで狸和尚の様な亜梵爺様は、ニコニコしながら
「緑は、真榊を採りに行っている、白は、宴の準備をしているぞ!」
ん?
「亜梵爺ちゃんは何してるの?」
「亜樹兎の様子を見てから、神祇官のお迎えだ」
アレ?
「爺ちゃん達の時って、三等神祇官でお迎え無しって言ってたよね??」
(爺ちゃん、今、目逸らしたね!)
「爺ちゃん?何か隠してな~い?」威圧を掛けながら問うと
「いや~~、亜樹兎~、前にお前が台風で折れた御神木の太枝から、観音様を彫ったろう?………」
数年前の夏に大型台風の影響で御神木の楠の木が被害を受けた
太い枝が数本、幹元から折れたのだった
僕は、木の柾目の良い所を何本か手頃な大きさに切り、三年程乾燥して
御神輿用の観音様とご本尊の観音様の周りに梵天様達を彫りあげた
「ソレがどうしたの?」
なんとも歯切れの悪い亜梵爺ちゃん
「どうもその像がある方の目に留まったらしいんだ……。」
頭の汗を拭きつつ、慌てたフリをしながら、
「亜樹兎すまん、お迎えに行かないと間に合わん、話しは後だ」
自慢の青いランドクルーザーに乗り込んで、逃げて行く爺ちゃん
「あッ!逃げられた!」
「亜樹兎?」
真榊の好い香りと共に、呼ばれた
「緑樹爺ちゃん!」
この人は、緑樹(ロクジュ)爺ちゃん、僕を育ててくれた爺様のひとりだ
まるでエルフの様な長い耳で、長い髪を一つに結う姿は髪の色が緑なら、エルフにしか見えないはず
「緑樹爺ちゃん、亜梵爺ちゃん酷いんだよ!話しの途中で逃げちゃった」
僕をみる目が細く微笑んでいる
「御神木の彫刻の事かい?」
(も~~!緑樹爺ちゃん、反則だよ~!そんな風に微笑まれたら、気抜けちゃったよ)
「うん」
風の向きが変わって、台所から白兎爺ちゃんの作る料理の匂いが
僕の気を更に抜いていく『キュ~~コロコロ~~ッ!』
「ふふッ!」と緑樹爺ちゃんが笑う
顔を多分、真っ赤にして、僕は俯く
「緑樹爺ちゃんのイジワル~~」
『キュ~~キュ~~』言う胃の腑がまだ騒いでる
「亜樹兎、儀式の前に落ち着ける様に、白兎に小腹を満たす物を出してもらっているから、台所に行って来なさい、此処は引き継ぐから」
(も~~!緑樹爺ちゃんには勝てないや)
「うん!行ってくる、緑樹爺ちゃん!」
「行っておいで」
いい匂いに、鼻をヒクヒクさせながら、台所へと向かう僕だった
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