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うみくも

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8thアクシデント 仕掛け合い!?嫉妬とスリルの初デート!!

もしかして……

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 それからまた十分ほどが経った頃、亮はたまたま通りかかったトイレに吸い込まれていった。


 本音は座って待ちたいところだが、この混みようだ。
 当然ながら、椅子はご老人と子供でぎっしりと埋まっている。


 仕方ないので、トイレから少し離れた壁際で存在感を消しておくことにしたんだけど……


「あのー、すみません。」


 やたらと高く弾んだ声が、俺のささやかな休息に終止符を打った。


 携帯電話から顔を上げると、若い女性の二人組がこちらに熱いまなしを向けている。
 どうやら、人違いで声をかけたわけじゃなさそうだ。


「何か?」
「いえ…。たまたま見かけたので、つい声をかけちゃいました。」


 うん、だろうな。
 この手の視線なら、過去に何度も経験済みだ。
 今すぐ回れ右してどこかへ行け。


 ナンパであることを察した俺は、すぐさま携帯電話に視線を落として無関心を装う。


「もしかして、お友達を待ってるんですか?」
「まあ、そんなところです。」


「二人でお出かけなんて、仲がいいんですね。学生時代からの親友とか?」
「いえ。会社の先輩後輩です。」


 ん?
 なんで、こいつらは俺と亮が二人って知ってるんだ?
 まさか、結構前からマークされてたか?


 ここはさっさと退散するのが吉だな。
 亮にはメッセージを飛ばしておけば、どこかで合流できるだろう。


 そんなことを考えて壁から背中を離した矢先―――


「あ、いたいた!」


 タイミングよろしく、亮が戻ってきた。


「あれ? その子たち……」


 亮は彼女たちに見覚えがあったようだ。
 ちょっと目を大きくしたと思ったら、その眉がほんの少し不愉快そうに寄った。


「あ、お友達も来ましたね!」


 そこで表情を変えたのは、これまでは黙っていたもう一人。
 彼女は亮に駆け寄るや否や、その腕をがっしりと捕まえる。


「うわぁ、お兄さんってばいい筋肉ですね。何かスポーツやってました?」
「え? いや、特には…。定期的にジョギングして、弟の練習に付き合うくらい……」


 へぇ、そうなんだ。
 どうりで俺を軽々抱き上げるわけだ。


 というか、ものすごい食いつきだな。
 あちらの狙いは亮だったのか。


 そんでもって、友達が離れた瞬間、こちらは急に大人しくなったな。
 さっきまでは、友達に背中を押されてたから話せたのか。
 ……まあ、俺を見て惚けている辺り、無理に声をかけたわけじゃなさそうだけど。


「おい、亮。俺は先に行くぞー。」


 話しかけてこないなら好都合。
 亮は大変そうだが、俺は遠慮なく逃げる。


「ちょっ…!? 待ってくださいよー!!」


 俺がスタスタと順路に戻る道を行くのを見て慌てた亮が、彼女の腕からのがれて追いかけてくる。


 その後、完全に予想外の事態が俺を襲うことになる。


「あ! どうせなら、この後は一緒に―――」


 亮をターゲットにしていた彼女がそう言った瞬間、ぐいっと腰を引かれた。
 特に身構えていなかった俺は、そのまま亮に寄り添うことに。


「お誘いはありがたいんだけど……―――察して?」


 どこかあやしげな微笑みを浮かべて、亮は口の前で人差し指を立てる。
 それで体どころか意識まで硬直した彼女たちを背に、亮は俺を連れて人混みに紛れた。


「……ふぅ。けてよかった。」


 彼女たちが追いかけてこないことを十分に確認し、亮はほっと溜め息。


「お疲れ。無駄にモテる奴は大変だな。」


「ホントですよねー……って、なに他人事のように言ってんですか。さっきのナンパのきっかけは悟さんですよ?」


「え? 俺?」


「覚えてないんですか? さっきの子、チケット売り場で悟さんとぶつかった子ですよ?」


「……悪い。全然覚えてない。」


「マジですか? 普段はあんなに記憶力がいいのに。……ま、そこまで周りに無関心なら、オレとしてはある意味安心ですけどー。」


 トイレに行く前までのハイテンションはどこへ消えたのか。
 足早に人波を縫っていく亮は、どことなく不機嫌そうだ。


「なに怒ってるんだよ。さっきのは、俺のせいじゃないぞ?」
「そんなことは分かってますよ。」


「じゃあ、なんでそんなに?」
「多感な男は、色々と複雑なんです。」


 言葉どおり、亮は何かが煮え切らない様子。


 多感なんて単語は中学生の時点で捨て去っていた俺には、亮の思うところがとんと分からない。


「んー……よく分からないけど、ナンパで気分が悪くなったなら帰るか?」


「いえ! せっかく来たんですから、せめてイルカショーは見てから帰ります!」


「それはそれで見たいのか……わっ!?」


 その時、後ろから歩いてきた誰かが追い抜き様に肩にぶつかってくる。


 たたらを踏んだ俺は、条件反射のように広げられた亮の腕にすっぽりと収まることになった。


「一言くらい謝っていけよ……」


 相手が進んでいった方向を見やり、低い声で毒づく亮。
 俺を抱き締めるその腕に、ぐっと力がこもった。


 なんか、さらにスキンシップがレベルアップしたな。
 ナンパを振り切るために思わせぶりな態度を取って、タガでも外れたか?


(それとも……もしかして、スリルでも楽しんでるのか?)


 最近はジェンダーレスなどと言って様々な性の価値観が寛容に受け入れられつつあるが、そういった人々が堂々としていられるかと言えば、また違うのが現実。


 薄暗いとはいえ、人が密集しがちな水族館。


 徐々にスキンシップのレベルを上げながら、周りにばれるかばれないかの瀬戸際を楽しんでいるのだろうか。


(変わった楽しみ方だな。)


 当然ながら、この時の俺は自分の認識が盛大にずれていることを知らなかった。

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