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【Chapter1】転機に事故はつきもので……
Episode2 魔法国家ガルデニア
「風よ。細き道を作りて、我に知恵を授けたまえ。」
心を静めて、呪文を詠唱。
すると、意識を向けた方角からいくつもの声が聞こえてきた。
「……ははぁ。あのじいさんの機嫌が悪いのは、こういうことか。」
十分ほど経ったところで、ロマノアは納得の声をあげて腕を組んだ。
ザイードの隣にある、魔法国家ガルデニア。
そこの新しい魔塔主の機嫌を盛大に損ねてしまったらしい。
もはや、戦争一歩手前の状態だと。
完全に外界から隔離された尖塔。
そこで育った自分がそれなりに知識を備えられたのは、母が残してくれた大量の本と、人知れず磨いてきたこの力のおかげである。
『いいこと? 今のあなたはせいぜい中級程度までの魔法しか扱えないけれど、ここに書いてある魔法は全て覚えなさい。何かと、あなたを助けてくれるはずですから。』
そんな言葉と共に手渡された、魔法の教科書。
今思うに、あれは母が手ずから書いたものだったのだろう。
小さい頃は、呪文を唱えると不思議な現象が起こることが楽しくて、一生懸命に魔法を学んだ。
そして母が言ったとおり、魔法の力は自分の身を守ることに何役も買っている。
城の情報を探ることも簡単にできるし、八つ当たりで受けるダメージも半減だ。
「ガルデニアと戦争なんて、まず勝ち目はないよね……」
魔法国家ガルデニア。
一定以上の魔力を持った者しか迎え入れない、超閉鎖的な国である。
保温装置や雨避けといった使い捨ての魔道具を国外に出荷して生計を立てているのだが、生活を豊かにしてくれる魔道具の需要は高く、使い捨て故にそれらを買い求める人はゼロにならない。
国土は巨大な魔塔と、北端の海に面する霊山を含めたその周辺の土地のみ。
ザイードの領二つ分くらいの面積しかないので、魔塔主が君主としての役割も兼任しているのだとか。
その土地に住める人数しか国民もいないわけだけど、魔法国家の力を侮っちゃいけない。
あの国はゴリゴリの実力主義。
魔塔主も世襲制ではなく、その時一番強い魔力を持っている者がその地位に就くそうだ。
それ故に、国民一人ひとりの実力が桁違いなのである。
あの国を手中に収めようと進軍した結果、数十のガルデニア軍に何万もの軍が壊滅させられたという話が、歴史書にいくつも残されている。
特に、二年前に誕生した新しい魔塔主は、父親である先代と兄弟を皆殺しにして地位を簒奪したという暴君。
その後も周辺国に出征しては、その国の王家を後継者を残して血の海に沈めているらしく、ついた二つ名は〝血濡れ魔塔主〟。
そんなお方に目をつけられたとあっては、あのじいさんも生きた心地がしないだろう。
だって、死刑宣告を受けたのとほぼ同義という状況なのだから。
「うーん…。これは、本格的にここから逃げる算段を立てないとまずいかなぁ……」
迎えが来るまで、何もせずにじっと耐えろ。
母はそう言っていたけど、このままだと巻き込まれで自分も人生終了になる。
いくら王家の戸籍に入っていないとはいえ、この見た目だもの。
自分は無関係だと言って命乞いをするだけ無駄でしょ。
(囚われのお姫様が助けてもらえるのは、絵本の中だけだもんね……)
そんなことを思うロマノアは、すでに半分諦めたような表情を浮かべていた。
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