こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step1 天国?地獄?のスローライフスタート!

便利な雲隠れ先

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「追放、か…。あのバカ皇太子も、最後にいい仕事をしてくれたじゃないか。」


 キシムの中心にある、ナビア子爵邸。
 子爵家当主であるジェアンは、褒めているとは到底思えないいかつい顔でひげをなでた。


「ってか、愛妾あいしょうを断ったから追放って、短絡的なザ・王道クソ貴族だよなぁー。」
「まあ、いいじゃない。そのおかげで、念願の自由を手に入れられたんだから。」


 不敬罪上等のアイザックの物言いに、フィレオトールはのほほんと返す。


 ノクスはまだ怒りが収まらないらしく、無言で紅茶をガバ飲み。
 いつものごとく、セレンが隣でやんわりとなだめてくれている。


「でも、問題は陛下が視察から戻った後なんだよねぇ。絶対に僕とノクスを呼び戻しに来るのが目に見えてるもん。」


「ハッ、好きにさせておけ。誰が来ようと返り討ちにしてくれるわ。」


「ヴァリアには未練がないから止めはしないけど、ほどほどにしてよ? まあ、鬼将軍と恐れられるお祖父様に武力行使はしないだろうけどさ。」


「くそ…っ。いくら友好の証とはいえ、ソフィアをヴァリアに嫁がせるんじゃなかった。」


 ノクス並みの殺気をほとばしらせ、ジェアンは忌々いまいましげにそう吐き捨てた。


 互いに魔領に隣接する国どうし、ヴァリア帝国とハドセン公国は古くから固い同盟関係を築いてきた。


 自分の両親は、そんなお国事情で政略結婚をいられた関係。


 どこぞの物語のように愛なんかが生まれるはずもなく、二人の仲は事務的なパートナーという感じだった。


 しかし、その関係も自分が五歳の時に変態に誘拐されるという事件が起こったことで激変。


 息子の一大事に親としての態度を示さない父に激怒した母は、自分を連れてキシムに戻ったのである。


 それから数年はキシムで母家族と共に過ごした自分だけど、十二歳の時に母が病死するや否や迎えが来てしまい、半強制的にヴァリアへ。


 それから今までは、とうの後継者教育とバカ皇太子の補佐でてんやわんや。


 そして、今に至るというわけである。


「とはいえ、このままキシムにいて、きな臭い事情に町の人を巻き込むのは嫌だなぁ…。これまで商会を通して稼いだお金もあるし、しばらくはキシムからも出奔して身を隠そうかな。」


「行く宛はあるのか?」


「え? 雲隠れするにうってつけの場所があるじゃない。」


 ジェアンの問いかけに可愛らしく小首を傾げたフィレオトールは、迷わずにとある方向を指差す。


 その指が示す先にあるのは―――魔領である。


「はあぁっ!? フィル、お前…っ。よりによって魔領に住む気か!?」


「だって、キシムに近くて人間が近寄らないなんて、都合がよくない? 幻惑の花園辺りなら大きな湖と川があるし、土地も広いから畑も作り放題だし、自給自足にピッタリだと思うんだよね。」


「いや、しかしだな! いくら魔王が討伐されたといっても、魔領には危険な魔族やモンスターが数多くいるんだぞ!?」


「大丈夫だって。実際のところ、生き残ってる魔族の皆さんは話が通じる人がほとんどだから。それに……」


 するり、と。
 フィレオトールが視線を滑らせた先にいるのはノクス。


「ノクス。僕が魔領に住むって言ったら、一緒に来る?」
「当たり前だ。」


「んじゃあ、モンスターが来たら追い払ってくれる?」
「追い払うどころか、抹殺してやるよ。」


「ね? 最強の番人もいるから安全。」


 ノクスが一緒についてくるという点が大きかったのだろう。


 それまで態度で〝絶対に反対〟と訴えていたジェアンが、途端に言葉を詰まらせた。


 確かにノクスの強さは折り紙つきだけど、僕だって魔法一発で軽く数百は吹き飛ばせるんだけどな。


 剣や弓も上級者レベルには至っているというのに、お祖父様は何が心配なんだか。


 とまあ、そんなことは置いといて……いざ魔領に住むと考えたら、途端にワクワクしてきた。


 大自然に囲まれた場所で自給自足のスローライフって、ヴァリアに戻ってからの憧れだったんだよね。


 ヴァリアではくそ食らえってくらい働き詰めだったし、魔王だって倒したんだし、一~二年くらい悠々自適に暮らしたってよくない?


 畑仕事の合間は何をしようかな。
 絵画? 彫刻? はたまた陶芸?
 色々とやってみたいから、家を建てる時はアトリエと工房を併設しようっと。


「想像だけの時点で楽しそうね。」


「ここで派手にバカンスとは行かずに魔領で自給自足って言うのが、どこかずれてて無欲なフィルらしいよな。」


「……仕方ない。魔領がある意味安全というもの事実だし、可愛い孫の望みだ。ドワーフどもを駆り出すか。」


 最終的に、おじいちゃんとしての愛情が決め手となったよう。
 折れたジェアンが、がっくりと肩を落とした。


「ところでよ……ノクス、お前大丈夫か?」


 フィレオトールとジェアンが今後について語り始める中、アイザックがこっそりとノクスにそう問いかけた。


「大丈夫かって、何がだ?」


 当然ながら、問われたノクスはきょとんと首を傾げる。
 それに対し、アイザックは複雑そうな表情でノクスの耳元に口を寄せる。


「いや、よく考えろって。今までとは状況が違うんだぞ? 当然のようにフィルについていく気みたいだけど、魔領で暮らすってなると、十中八九お前とフィルの二人暮らしなんじゃないの?」


「………っ」


 途端に強張るノクスの全身。
 しばしの無言を経た後、彼は……


「やべ…。普通にアイザックとセレンも一緒のつもりでいた。フィルと二人きりはまずい…っ」


 そう告げて、両手で頭を抱えてしまった。


「おいおい。魔王討伐は終わったんだから、いつまでも四人行動ってわけにはいかないぞ。オレたちもオレたちで、結婚式の準備で忙しいんだからさ。」


「そうだよな、そりゃそうだよな…。いつまで耐えられるかな、おれ…?」


「そう言う辺り、理性が危ないからって二人暮らしを拒否する気はないんだな。」


「少なくとも、一人にはさせん。あいつには、変なやからがうようよと寄ってくるから。」


「あ、そう。……ま、頑張れや。」


「はあぁー……」


 ノクスの重たい溜め息。
 その意味をフィレオトールが知るのは、まだまだ先の話である。

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