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Step2 バグった距離感は、矯正不可のようで……
里帰り時の一幕
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それは、八年前の冬。
半年前にヴァリアに連れ戻されたフィレオトールが、キシムに里帰りしてきた時のことだった。
ドアベルが鳴らされたので外に出てみると、そこにはノクスが一人で立っていた。
「あれ、ノクスじゃん。フィルは?」
「じいちゃんと師匠に捕まってる。」
「ああ、なるほど。そりゃ長話になりそうだ。まあ入れよ。」
「悪いな。」
ノクスとその師匠がキシムに来て四年。
最初の使徒としてフィレオトールが選ばれ、その後自分やセレンが加わった。
まさか一つの町で勇者パーティーが揃うと思っていなかったノクスの師匠は拍子抜けしたが、これ幸いと考え直してキシムに住み着いてしまった。
そのおかげで、自分たち四人は幼少期からジェアンとノクスの師匠にえらくしごかれることになったわけだが……まあ、そんな日々があったからこそ、自分たちの仲は揺るぎないものになったのだろう。
今では、ノクスもお師匠さんも立派なキシムの一員である。
「どうよ、向こうでの生活は。」
「完全に冷めきってる。どいつもこいつも上辺だけの笑顔で腹の探り合いだ。その中で主導権を渡さずに張り合ってるんだから、やっぱりフィルは貴族なんだって実感するよ。」
「えーっと……ごめん。貴族モードのフィルが想像できない。」
あのフィルが、上辺の笑顔で腹の探り合い?
ご冗談を。
子爵邸に帰ってくるや否や、挨拶するより先に修練場に直行して、罵詈雑言を吐きながら魔法をぶっ放しまくってたけど?
思うところを率直に言うと、ノクスは同情的な溜め息を一つ。
「それだけストレスを溜めてたってことだよ。普段の半分以下程度のフィルの魔法に、伯爵家の奴らが顔を真っ青にしてな。あれ以降、質問に答えるのが面倒で魔法を使うのを控えてたんだ。とはいえ、あれでフィルの有能さはバッチリとばれただろう。伯爵家の奴らは、今頃フィルをどこに売り込むか画策してるんじゃないか?」
「貴族って、えげつなぁ…。で、お前はどうなん? フィルの専属護衛としてついてくるお前のこと、あちらさんはかなり煙たがってたみたいだけど。」
「屋敷の騎士を全員叩きのめしたら、表立って文句は言ってこなくなったぞ? あの程度の実力で、よくエリートを気取って偉ぶれたもんだぜ。」
「へえー。帝国の騎士って、大したことないんだな。で? で? 女子のレベルは?」
正直、貴族社会なんて縁のない世界のことはどうでもいいので、一番興味があることを質問する。
すると、ノクスが途端に半目になってしまった。
「セレンが聞いたら怒るぞ。」
「だから今のうちに訊いてんじゃんかよ! なあ、教えてくれよー。男としての興味ってだけじゃーん。」
「うーん……貴族の女は、見てくれがよくても中身がクソって奴が多かったな。プライドばかり高くて、庶民を見下す思想が強い。そのくせ、男には家柄と顔と誠実さの全部を求めるんだ。お茶会の度に囲まれるフィルが愛想笑いの裏でどんどん不機嫌になっていくもんだから、おれは精霊たちをなだめるのが大変だよ。」
「うっわ、それはお疲れさん。じゃあ、この辺りではモテるノクスも、都会では微妙って感じか。」
「……いや。」
そう答えたノクス、心底げっそりした顔へ。
「フィルの奴、おれが屋敷の騎士を叩きのめしたことを使って、父親に騎士の叙勲を約束させやがってよ。おかげで、未来の伯爵の右腕ってことで、おれまで囲まれることに……」
「あれ? フィルって、そんなに計算高い奴だっけ? 人格変わってない?」
「どうやら、おれたちの知らないところで、じいちゃんやおばさんから貴族としての立ち回り方はきっちりと仕込まれてたようだな。キシムでは、それを使う必要がなかったってだけなんだろ。」
「なるほどなぁー…。場所が変わったところで、お前ら二人がツートップでモテるのは変わらないのか。」
これは世辞でもなんでもなく、単なる事実だ。
金髪に水色の瞳を持った美麗な顔に、華奢な体つきをしたフィレオトール。
黒髪に菫色の瞳を持った精悍な顔に、細いながらも筋肉質な体つきをしたノクス。
多くの部分で対比的な二人が並ぶと、幼馴染みの自分から見ても絵になると思えるまぶしさを放つもんで。
キシム周辺では、フィレオトール派かノクス派かで真っ二つになるほどの人気を誇っているのだ。
「で、どうなんよ?」
「何が?」
「何って、よさげな女子はいなかったの? 全員が全員クソってわけじゃないんだろ?」
ノクスも十四歳だ。
そろそろ、女子に興味が出てくるお年頃ってやつでしょう。
からかう気満々でノクスの答えを待つオレ。
しかし……
「女子、なぁ……」
そう呟いたノクスは、ものすっごく重たい溜め息をついてうなだれてしまった。
半年前にヴァリアに連れ戻されたフィレオトールが、キシムに里帰りしてきた時のことだった。
ドアベルが鳴らされたので外に出てみると、そこにはノクスが一人で立っていた。
「あれ、ノクスじゃん。フィルは?」
「じいちゃんと師匠に捕まってる。」
「ああ、なるほど。そりゃ長話になりそうだ。まあ入れよ。」
「悪いな。」
ノクスとその師匠がキシムに来て四年。
最初の使徒としてフィレオトールが選ばれ、その後自分やセレンが加わった。
まさか一つの町で勇者パーティーが揃うと思っていなかったノクスの師匠は拍子抜けしたが、これ幸いと考え直してキシムに住み着いてしまった。
そのおかげで、自分たち四人は幼少期からジェアンとノクスの師匠にえらくしごかれることになったわけだが……まあ、そんな日々があったからこそ、自分たちの仲は揺るぎないものになったのだろう。
今では、ノクスもお師匠さんも立派なキシムの一員である。
「どうよ、向こうでの生活は。」
「完全に冷めきってる。どいつもこいつも上辺だけの笑顔で腹の探り合いだ。その中で主導権を渡さずに張り合ってるんだから、やっぱりフィルは貴族なんだって実感するよ。」
「えーっと……ごめん。貴族モードのフィルが想像できない。」
あのフィルが、上辺の笑顔で腹の探り合い?
ご冗談を。
子爵邸に帰ってくるや否や、挨拶するより先に修練場に直行して、罵詈雑言を吐きながら魔法をぶっ放しまくってたけど?
思うところを率直に言うと、ノクスは同情的な溜め息を一つ。
「それだけストレスを溜めてたってことだよ。普段の半分以下程度のフィルの魔法に、伯爵家の奴らが顔を真っ青にしてな。あれ以降、質問に答えるのが面倒で魔法を使うのを控えてたんだ。とはいえ、あれでフィルの有能さはバッチリとばれただろう。伯爵家の奴らは、今頃フィルをどこに売り込むか画策してるんじゃないか?」
「貴族って、えげつなぁ…。で、お前はどうなん? フィルの専属護衛としてついてくるお前のこと、あちらさんはかなり煙たがってたみたいだけど。」
「屋敷の騎士を全員叩きのめしたら、表立って文句は言ってこなくなったぞ? あの程度の実力で、よくエリートを気取って偉ぶれたもんだぜ。」
「へえー。帝国の騎士って、大したことないんだな。で? で? 女子のレベルは?」
正直、貴族社会なんて縁のない世界のことはどうでもいいので、一番興味があることを質問する。
すると、ノクスが途端に半目になってしまった。
「セレンが聞いたら怒るぞ。」
「だから今のうちに訊いてんじゃんかよ! なあ、教えてくれよー。男としての興味ってだけじゃーん。」
「うーん……貴族の女は、見てくれがよくても中身がクソって奴が多かったな。プライドばかり高くて、庶民を見下す思想が強い。そのくせ、男には家柄と顔と誠実さの全部を求めるんだ。お茶会の度に囲まれるフィルが愛想笑いの裏でどんどん不機嫌になっていくもんだから、おれは精霊たちをなだめるのが大変だよ。」
「うっわ、それはお疲れさん。じゃあ、この辺りではモテるノクスも、都会では微妙って感じか。」
「……いや。」
そう答えたノクス、心底げっそりした顔へ。
「フィルの奴、おれが屋敷の騎士を叩きのめしたことを使って、父親に騎士の叙勲を約束させやがってよ。おかげで、未来の伯爵の右腕ってことで、おれまで囲まれることに……」
「あれ? フィルって、そんなに計算高い奴だっけ? 人格変わってない?」
「どうやら、おれたちの知らないところで、じいちゃんやおばさんから貴族としての立ち回り方はきっちりと仕込まれてたようだな。キシムでは、それを使う必要がなかったってだけなんだろ。」
「なるほどなぁー…。場所が変わったところで、お前ら二人がツートップでモテるのは変わらないのか。」
これは世辞でもなんでもなく、単なる事実だ。
金髪に水色の瞳を持った美麗な顔に、華奢な体つきをしたフィレオトール。
黒髪に菫色の瞳を持った精悍な顔に、細いながらも筋肉質な体つきをしたノクス。
多くの部分で対比的な二人が並ぶと、幼馴染みの自分から見ても絵になると思えるまぶしさを放つもんで。
キシム周辺では、フィレオトール派かノクス派かで真っ二つになるほどの人気を誇っているのだ。
「で、どうなんよ?」
「何が?」
「何って、よさげな女子はいなかったの? 全員が全員クソってわけじゃないんだろ?」
ノクスも十四歳だ。
そろそろ、女子に興味が出てくるお年頃ってやつでしょう。
からかう気満々でノクスの答えを待つオレ。
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そう呟いたノクスは、ものすっごく重たい溜め息をついてうなだれてしまった。
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