こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

文字の大きさ
37 / 125
Step4 辿る歩みはどこに至る…?

その可愛さ、危険物

しおりを挟む
 それからしばらく経った頃、フィレオトールはずびずびと鼻をすすっていた。


「落ち着いたか?」


 そんなフィレオトールを胸に抱き、ノクスは静かにそう訊ねる。


「うん……ごめん……」


 真っ赤に泣き腫らした目で頷くフィレオトールは、気まずげな表情でノクスを見上げた。


「あの……ノクス……」
「ん?」


「その……だ、大丈夫…?」
「何が?」


 フィレオトールに問われたノクスは、げんそうに首を傾げるだけ。
 一方のフィレオトールは、ほんのりと頬を染める。


「だから……色んな意味で大丈夫かなって……生殺しとか言ってたから……」


 自分が泣き出してしまったせいなのは分かっているのだけど、ノクスはキス以上の行為に及んでこない。


 そのキスだって、普段とは違ってこちらをあやすような軽いもの。


 いつものノクスなら、こんなレベルじゃ終わらないはずなのに。


 今日に関しては自分がノクスを煽った自覚がある手前、これまた自分のせいでノクスにお預けを食らわせているのではと思うと、気まずさばかりがかさんでいく。


「あー…」


 複雑極まりない声音でうめいたノクスは、仰向けになって天井を見つめ、片腕を自身の目の上に乗せた。


「大丈夫だ。……つーか、それどころじゃなくなった。」


 薄く開いた唇から深い、本当に深い溜め息が零れる。
 それに、フィレオトールはきょとんと目をしばたたかせる。


「それどころじゃなくなったって?」
「不意打ちであんなこと言われたら、煩悩も余裕も何もかも吹っ飛ぶわ!!」


 確かに本人が言うとおり、ノクスにしては珍しく混乱しているようだった。


「なあ……これって、夢じゃないよな? 一時いっときの気の迷いで好きって口走っちまったとか、そういうオチはやめろよ?」


「え…」


 ノクスの発言に、フィレオトールはパチパチとまばたきを繰り返す。


「僕、好き嫌いに関しては嘘つけないし、冗談や気の迷いで好きって言えるほど軽くないつもりだけど……」


「うん、知ってる……」


「じゃあ、なんでそんなこと言うの? さっきはこうなるように調教したとまで言ったくせに。」


「お前はおれをなんだと思ってる!? おれはお前ほどの策士じゃねぇし、ましてや恋愛熟練者でもねぇんだよ!!」


 わめいたノクスは、次にまた大仰に息をつく。


 なんだか、さっきから感情の起伏がものすごく激しい。
 こんなにあたふたとするノクスなんて、見たことがあっただろうか。


「あのな、おれはお前が初恋でお前一筋なの。それなのに、肝心のお前は〝今日もモテモテだねー〟なんて言って無自覚で恋心をえぐってくるばっかでよ…っ」


「あ、あはは~…」


「今だから余裕ぶって調教だ誘導だって言えるけど、実際はお前を離さないように必死だっただけなんだよ。でも、誰かにアプローチするなんて初めてで、これが正解なのかも分からなくて…。だから、好きだって言われてものすごく驚いたわ。」


「……嬉しくなかった?」


「アホか! 馬鹿みたいに嬉しいに決まってんだろ!? だから、これが都合のいい夢なんじゃないかって思って、今こんなにテンパってんだろうが! 察しろ!!」


 かたくなに顔を隠すノクスだけど、もう耳まで真っ赤なので、あまりその行為の意味はない。


 そっとノクスに触れてみると、その体は微かに震えていたし、心臓もかなり早く脈打っているのが伝わってきた。


 自分に好きだと言われたことが、そんなに嬉しかったのだろうか…?


 ちょっと戸惑ってしまったけれど、そこで考え方を変えてみる。


 自分だってノクスに好きだと言われて嬉しかったし、傍にいろと言われて泣くほど安心したわけだ。


 もしかしたら、ノクスも自分と同じようにずっと不安だったのかもしれない。


 というか、好きな人の気持ちがどっちつかずだったら、不安にならない方がおかしいだろう。


『ただでさえおれの気持ちで振り回してるんだから……』


 あの言葉がノクスの不安が表面に出てきたものだったなら、自分が好きだって言ったことでその不安は解消されただろうか。


 そうだったらいい。


 自分の傍にいてくれる愛しい人が幸せそうに笑ってくれるなら、こんなに幸せなことはない。


 なんだか、考えているうちにノクスがここまで嬉しそうにしていることが嬉しくなってきた。


「夢じゃないよ。」


 これが紛れもない現実だと伝えてあげたくて、フィレオトールは自分からノクスの体に身をすり寄せた。


「………っ」


 ノクスが小さく体を震わせる。
 その動揺を表すように、ノクスの鼓動がまた早さを上げた。


「あの……夢じゃないよなって訊いたおれが悪かった。おれが悪かったから、あんまり舞い上がらせないでくれ……」


 その言葉は、間違いなくノクスが喜んでくれている証拠。


 どうしよう。
 なんだか、ノクスがものすごく可愛いんだけど。


 ここで初めて知る、親友の新たな一面。
 そんな姿も、今はただただ愛しい。


「……えへへ。」


 ノクスの反応が嬉しいフィレオトールは、無邪気な笑顔を浮かべた。




(可愛さ倍増しとる!!)




 一方のノクスは、心の中で大絶叫。


 勘弁してくれ。


 こっちはまだフィレオトールからの告白に脳内処理が追いついていないのだ。


 フィレオトールが泣き止んでからというもの、彼からの告白が脳内で無限ループしている。


 その記憶をなぞる度に心臓が高鳴って、脳内は沸騰状態。
 おかげで、頭から見えない煙が立ちのぼっている気がする。


 こんな時にそんな可愛いことをしないでほしい。


(マジでやめてくれ…。おれは、お前みたいな聖人じゃねぇんだよぉ……)


 想いが通じ合った時のことくらい、恥ずかしさのない綺麗な思い出にしておいてやりたい。


 そう思うのに、このままでは精神が危ない。


 別に、告白を機にフィレオトールの行動が明確に変わったというわけではない。


 傍にいてくれるだけでいい。


 そう願ったように、彼は自分の傍にいられるだけで満足しているようだ。


 彼からキスをしてきたのも告白してきたあの時だけで、今はキスどころか抱きつくようなこともしてこない。


 ただ寄り添って、その幸せを噛み締めて笑うだけ。


 無欲なフィレオトールらしい純粋な行動。
 だが、その行動がたまらなく可愛くて、理性がどこかへ飛んでいきそうになる。


 ただでさえフィレオトールからの告白が嬉しくて舞い上がっているのに、その上こんな可愛い姿を見せられたら、嬉しさが暴走して自分に何をさせることやら。


(やめとけ…。今日はやめとけ…。くそ、覚えてろよこいつ…っ!)


 言葉には出さずに悶絶するノクス。
 それでも、ようやく手に入れた愛しい存在を手放すことはできなくて……


 ノクスは必死に衝動を押し殺しながら、フィレオトールをこれでもかというくらいに強く抱き締めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

処理中です...