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Step4 辿る歩みはどこに至る…?
その可愛さ、危険物
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それからしばらく経った頃、フィレオトールはずびずびと鼻をすすっていた。
「落ち着いたか?」
そんなフィレオトールを胸に抱き、ノクスは静かにそう訊ねる。
「うん……ごめん……」
真っ赤に泣き腫らした目で頷くフィレオトールは、気まずげな表情でノクスを見上げた。
「あの……ノクス……」
「ん?」
「その……だ、大丈夫…?」
「何が?」
フィレオトールに問われたノクスは、怪訝そうに首を傾げるだけ。
一方のフィレオトールは、ほんのりと頬を染める。
「だから……色んな意味で大丈夫かなって……生殺しとか言ってたから……」
自分が泣き出してしまったせいなのは分かっているのだけど、ノクスはキス以上の行為に及んでこない。
そのキスだって、普段とは違ってこちらをあやすような軽いもの。
いつものノクスなら、こんなレベルじゃ終わらないはずなのに。
今日に関しては自分がノクスを煽った自覚がある手前、これまた自分のせいでノクスにお預けを食らわせているのではと思うと、気まずさばかりがかさんでいく。
「あー…」
複雑極まりない声音で呻いたノクスは、仰向けになって天井を見つめ、片腕を自身の目の上に乗せた。
「大丈夫だ。……つーか、それどころじゃなくなった。」
薄く開いた唇から深い、本当に深い溜め息が零れる。
それに、フィレオトールはきょとんと目をしばたたかせる。
「それどころじゃなくなったって?」
「不意打ちであんなこと言われたら、煩悩も余裕も何もかも吹っ飛ぶわ!!」
確かに本人が言うとおり、ノクスにしては珍しく混乱しているようだった。
「なあ……これって、夢じゃないよな? 一時の気の迷いで好きって口走っちまったとか、そういうオチはやめろよ?」
「え…」
ノクスの発言に、フィレオトールはパチパチとまばたきを繰り返す。
「僕、好き嫌いに関しては嘘つけないし、冗談や気の迷いで好きって言えるほど軽くないつもりだけど……」
「うん、知ってる……」
「じゃあ、なんでそんなこと言うの? さっきはこうなるように調教したとまで言ったくせに。」
「お前はおれをなんだと思ってる!? おれはお前ほどの策士じゃねぇし、ましてや恋愛熟練者でもねぇんだよ!!」
喚いたノクスは、次にまた大仰に息をつく。
なんだか、さっきから感情の起伏がものすごく激しい。
こんなにあたふたとするノクスなんて、見たことがあっただろうか。
「あのな、おれはお前が初恋でお前一筋なの。それなのに、肝心のお前は〝今日もモテモテだねー〟なんて言って無自覚で恋心を抉ってくるばっかでよ…っ」
「あ、あはは~…」
「今だから余裕ぶって調教だ誘導だって言えるけど、実際はお前を離さないように必死だっただけなんだよ。でも、誰かにアプローチするなんて初めてで、これが正解なのかも分からなくて…。だから、好きだって言われてものすごく驚いたわ。」
「……嬉しくなかった?」
「アホか! 馬鹿みたいに嬉しいに決まってんだろ!? だから、これが都合のいい夢なんじゃないかって思って、今こんなにテンパってんだろうが! 察しろ!!」
頑なに顔を隠すノクスだけど、もう耳まで真っ赤なので、あまりその行為の意味はない。
そっとノクスに触れてみると、その体は微かに震えていたし、心臓もかなり早く脈打っているのが伝わってきた。
自分に好きだと言われたことが、そんなに嬉しかったのだろうか…?
ちょっと戸惑ってしまったけれど、そこで考え方を変えてみる。
自分だってノクスに好きだと言われて嬉しかったし、傍にいろと言われて泣くほど安心したわけだ。
もしかしたら、ノクスも自分と同じようにずっと不安だったのかもしれない。
というか、好きな人の気持ちがどっちつかずだったら、不安にならない方がおかしいだろう。
『ただでさえおれの気持ちで振り回してるんだから……』
あの言葉がノクスの不安が表面に出てきたものだったなら、自分が好きだって言ったことでその不安は解消されただろうか。
そうだったらいい。
自分の傍にいてくれる愛しい人が幸せそうに笑ってくれるなら、こんなに幸せなことはない。
なんだか、考えているうちにノクスがここまで嬉しそうにしていることが嬉しくなってきた。
「夢じゃないよ。」
これが紛れもない現実だと伝えてあげたくて、フィレオトールは自分からノクスの体に身をすり寄せた。
「………っ」
ノクスが小さく体を震わせる。
その動揺を表すように、ノクスの鼓動がまた早さを上げた。
「あの……夢じゃないよなって訊いたおれが悪かった。おれが悪かったから、あんまり舞い上がらせないでくれ……」
その言葉は、間違いなくノクスが喜んでくれている証拠。
どうしよう。
なんだか、ノクスがものすごく可愛いんだけど。
ここで初めて知る、親友の新たな一面。
そんな姿も、今はただただ愛しい。
「……えへへ。」
ノクスの反応が嬉しいフィレオトールは、無邪気な笑顔を浮かべた。
(可愛さ倍増しとる!!)
一方のノクスは、心の中で大絶叫。
勘弁してくれ。
こっちはまだフィレオトールからの告白に脳内処理が追いついていないのだ。
フィレオトールが泣き止んでからというもの、彼からの告白が脳内で無限ループしている。
その記憶をなぞる度に心臓が高鳴って、脳内は沸騰状態。
おかげで、頭から見えない煙が立ち上っている気がする。
こんな時にそんな可愛いことをしないでほしい。
(マジでやめてくれ…。おれは、お前みたいな聖人じゃねぇんだよぉ……)
想いが通じ合った時のことくらい、恥ずかしさのない綺麗な思い出にしておいてやりたい。
そう思うのに、このままでは精神が危ない。
別に、告白を機にフィレオトールの行動が明確に変わったというわけではない。
傍にいてくれるだけでいい。
そう願ったように、彼は自分の傍にいられるだけで満足しているようだ。
彼からキスをしてきたのも告白してきたあの時だけで、今はキスどころか抱きつくようなこともしてこない。
ただ寄り添って、その幸せを噛み締めて笑うだけ。
無欲なフィレオトールらしい純粋な行動。
だが、その行動がたまらなく可愛くて、理性がどこかへ飛んでいきそうになる。
ただでさえフィレオトールからの告白が嬉しくて舞い上がっているのに、その上こんな可愛い姿を見せられたら、嬉しさが暴走して自分に何をさせることやら。
(やめとけ…。今日はやめとけ…。くそ、覚えてろよこいつ…っ!)
言葉には出さずに悶絶するノクス。
それでも、ようやく手に入れた愛しい存在を手放すことはできなくて……
ノクスは必死に衝動を押し殺しながら、フィレオトールをこれでもかというくらいに強く抱き締めた。
「落ち着いたか?」
そんなフィレオトールを胸に抱き、ノクスは静かにそう訊ねる。
「うん……ごめん……」
真っ赤に泣き腫らした目で頷くフィレオトールは、気まずげな表情でノクスを見上げた。
「あの……ノクス……」
「ん?」
「その……だ、大丈夫…?」
「何が?」
フィレオトールに問われたノクスは、怪訝そうに首を傾げるだけ。
一方のフィレオトールは、ほんのりと頬を染める。
「だから……色んな意味で大丈夫かなって……生殺しとか言ってたから……」
自分が泣き出してしまったせいなのは分かっているのだけど、ノクスはキス以上の行為に及んでこない。
そのキスだって、普段とは違ってこちらをあやすような軽いもの。
いつものノクスなら、こんなレベルじゃ終わらないはずなのに。
今日に関しては自分がノクスを煽った自覚がある手前、これまた自分のせいでノクスにお預けを食らわせているのではと思うと、気まずさばかりがかさんでいく。
「あー…」
複雑極まりない声音で呻いたノクスは、仰向けになって天井を見つめ、片腕を自身の目の上に乗せた。
「大丈夫だ。……つーか、それどころじゃなくなった。」
薄く開いた唇から深い、本当に深い溜め息が零れる。
それに、フィレオトールはきょとんと目をしばたたかせる。
「それどころじゃなくなったって?」
「不意打ちであんなこと言われたら、煩悩も余裕も何もかも吹っ飛ぶわ!!」
確かに本人が言うとおり、ノクスにしては珍しく混乱しているようだった。
「なあ……これって、夢じゃないよな? 一時の気の迷いで好きって口走っちまったとか、そういうオチはやめろよ?」
「え…」
ノクスの発言に、フィレオトールはパチパチとまばたきを繰り返す。
「僕、好き嫌いに関しては嘘つけないし、冗談や気の迷いで好きって言えるほど軽くないつもりだけど……」
「うん、知ってる……」
「じゃあ、なんでそんなこと言うの? さっきはこうなるように調教したとまで言ったくせに。」
「お前はおれをなんだと思ってる!? おれはお前ほどの策士じゃねぇし、ましてや恋愛熟練者でもねぇんだよ!!」
喚いたノクスは、次にまた大仰に息をつく。
なんだか、さっきから感情の起伏がものすごく激しい。
こんなにあたふたとするノクスなんて、見たことがあっただろうか。
「あのな、おれはお前が初恋でお前一筋なの。それなのに、肝心のお前は〝今日もモテモテだねー〟なんて言って無自覚で恋心を抉ってくるばっかでよ…っ」
「あ、あはは~…」
「今だから余裕ぶって調教だ誘導だって言えるけど、実際はお前を離さないように必死だっただけなんだよ。でも、誰かにアプローチするなんて初めてで、これが正解なのかも分からなくて…。だから、好きだって言われてものすごく驚いたわ。」
「……嬉しくなかった?」
「アホか! 馬鹿みたいに嬉しいに決まってんだろ!? だから、これが都合のいい夢なんじゃないかって思って、今こんなにテンパってんだろうが! 察しろ!!」
頑なに顔を隠すノクスだけど、もう耳まで真っ赤なので、あまりその行為の意味はない。
そっとノクスに触れてみると、その体は微かに震えていたし、心臓もかなり早く脈打っているのが伝わってきた。
自分に好きだと言われたことが、そんなに嬉しかったのだろうか…?
ちょっと戸惑ってしまったけれど、そこで考え方を変えてみる。
自分だってノクスに好きだと言われて嬉しかったし、傍にいろと言われて泣くほど安心したわけだ。
もしかしたら、ノクスも自分と同じようにずっと不安だったのかもしれない。
というか、好きな人の気持ちがどっちつかずだったら、不安にならない方がおかしいだろう。
『ただでさえおれの気持ちで振り回してるんだから……』
あの言葉がノクスの不安が表面に出てきたものだったなら、自分が好きだって言ったことでその不安は解消されただろうか。
そうだったらいい。
自分の傍にいてくれる愛しい人が幸せそうに笑ってくれるなら、こんなに幸せなことはない。
なんだか、考えているうちにノクスがここまで嬉しそうにしていることが嬉しくなってきた。
「夢じゃないよ。」
これが紛れもない現実だと伝えてあげたくて、フィレオトールは自分からノクスの体に身をすり寄せた。
「………っ」
ノクスが小さく体を震わせる。
その動揺を表すように、ノクスの鼓動がまた早さを上げた。
「あの……夢じゃないよなって訊いたおれが悪かった。おれが悪かったから、あんまり舞い上がらせないでくれ……」
その言葉は、間違いなくノクスが喜んでくれている証拠。
どうしよう。
なんだか、ノクスがものすごく可愛いんだけど。
ここで初めて知る、親友の新たな一面。
そんな姿も、今はただただ愛しい。
「……えへへ。」
ノクスの反応が嬉しいフィレオトールは、無邪気な笑顔を浮かべた。
(可愛さ倍増しとる!!)
一方のノクスは、心の中で大絶叫。
勘弁してくれ。
こっちはまだフィレオトールからの告白に脳内処理が追いついていないのだ。
フィレオトールが泣き止んでからというもの、彼からの告白が脳内で無限ループしている。
その記憶をなぞる度に心臓が高鳴って、脳内は沸騰状態。
おかげで、頭から見えない煙が立ち上っている気がする。
こんな時にそんな可愛いことをしないでほしい。
(マジでやめてくれ…。おれは、お前みたいな聖人じゃねぇんだよぉ……)
想いが通じ合った時のことくらい、恥ずかしさのない綺麗な思い出にしておいてやりたい。
そう思うのに、このままでは精神が危ない。
別に、告白を機にフィレオトールの行動が明確に変わったというわけではない。
傍にいてくれるだけでいい。
そう願ったように、彼は自分の傍にいられるだけで満足しているようだ。
彼からキスをしてきたのも告白してきたあの時だけで、今はキスどころか抱きつくようなこともしてこない。
ただ寄り添って、その幸せを噛み締めて笑うだけ。
無欲なフィレオトールらしい純粋な行動。
だが、その行動がたまらなく可愛くて、理性がどこかへ飛んでいきそうになる。
ただでさえフィレオトールからの告白が嬉しくて舞い上がっているのに、その上こんな可愛い姿を見せられたら、嬉しさが暴走して自分に何をさせることやら。
(やめとけ…。今日はやめとけ…。くそ、覚えてろよこいつ…っ!)
言葉には出さずに悶絶するノクス。
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