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Step6 事件発生!思いつきの船旅で大ピンチ!?
きっかけは、ひょんなことから
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何気ない日常に落とされる非日常。
それは、代わり映えのない日々に新たな色を加え、全然想定していなかった展開を連れてくるものである。
「ノクス、おかえりー! とりあえず、こっちに来てくれる!?」
いつものように一仕事がてらの買い出しから帰ったノクスは、珍しくハイテンションのフィレオトールに驚いてしまった。
「ど、どうした…?」
「いいからいいから! ノクスも絶対に喜ぶって。」
戸惑うノクスには構わず、フィレオトールはその手を引いてキッチンに直行。
そこに広がっていたものを見たノクスは……
「うおっ!? なんだこりゃ!?」
菫色の瞳を丸くするしかなかった。
そこには、シンクに収まりきらない量の食材や調味料が。
しかも、この辺りでは見ないものばかりだ。
「今日ゼクが来て、商会の新しい拠点探しついでのお土産をくれたんだ。」
「あの野郎。またおれがいない間に…っ」
五大魔族の一員でありながら勇者パーティーに与し、魔王討伐後に新たな王として君臨したゼグリュオス・ドラジオン。
魔王にとどめを刺す間際までフィレオトールと結託していたことを隠していたことも気に食わなければ、それ以降も定期的に関わってくることも気に食わない。
しかも、商会で築いた信頼関係があるとはいえ、フィレオトールが割と気を許していることもムカつく。
本当なら見つけ次第つまみ出したいのに、こんな風に餌を放り込んでくるなんて。
とてもご機嫌になっているフィレオトールが目の前にいる以上、悪態をつくこともできないじゃないか。
「なんか、大陸の北端で別の大陸に渡る大型船が運行し始めたんだって。」
「ってことは、これは向こうの大陸にある食材たちか。」
「そうそう。物珍しいから、一通り買ってきたって言ってた。」
「いや、未知の食材だけぼんと渡されてもな……」
「ふふふ……ご心配なく。」
何故か自分が自慢げなフィレオトール。
いつの間にスタンバイしていたのか、背中から本を取り出す。
「ゼクの優秀さを舐めちゃいけないよ。食材や調味料と一緒に、向こうのレシピ本も持ってきてくれた。しかも、翻訳版と原文版をセットで! さらには辞書も用意済みなんだから、僕のことをよく分かってるよねー♪」
未知の食材に加え、未知の言語に触れられることに有頂天のフィレオトール。
恋人が喜んでいる様は可愛くていいのだけど、そのポイントを他人に稼がれたのは悔しい限り。
「ほら! ちょっと貸せ!!」
ゼク語りをやめさせたいノクスは、イラつきも露わに翻訳版のレシピを取り上げる。
それに目を通して数秒……
「ふむ……」
その表情が、瞬く間に真剣なものに変わった。
「あの野郎、しれっと食材の説明メモまで挟んでやがる…。助かるけど、やっぱり気に食わねぇ…っ」
なんてことをぼやきながらも、メモと食材を照らし合わせるノクスは料理人モードでレシピに夢中。
結局、二人そろって好奇心に負けた。
「……ん、なんだか新鮮な味。美味しいとは思うけど、食べ慣れてないからか不思議な感じもするね。」
できあがった料理を食べながら、フィレオトールはそんな感想を述べる。
相談した結果、とりあえずオーソドックスなものから料理して並べてみた今日の食卓。
美味しさを噛み締めたい気持ちより、この料理の特徴はなんだろうと分析したい気持ちが勝っているのが本音だ。
「うーん……」
ノクスもノクスで、何かが気に入らないご様子。
「ノクスは苦手な味だったかな? それとも、出来が微妙だった?」
「いや、味はよくまとまってて、普通に食べられる範囲だとは思うんだが……何せ、本場の味を知らないからな。そもそも、これが失敗なのか成功なのか分からん。」
「あ……言われてみれば。」
なるほど、確かに。
ノクスが微妙そうな表情になっているのは、作った手前この曖昧な状態が気持ち悪いということか。
「……フィル、世界地図って持ってきてあるか?」
「あ、はいはい。」
ノクスに訊ねられたフィレオトールは、そそくさと本棚に向かって地図を取り出す。
なんとなく意図は察したのでソファー前のテーブルに地図を広げると、ノクスが興味深そうな様子でそれを覗き込んできた。
「大型船が運行してる港、どこ?」
「ルルウェル王国のスーデ港だよ。ここから北西方向に船が通ってて、マキア大陸南東のブルペノンって国に向かうの。今回ゼクが買ってきたのは、全部ブルペノンの食べ物だって。」
「ほう……」
「スーデ港に偵察でも行くつもり?」
「いや、船が出てるっていうならブルペノンまで行こうかなって。お前も興味があるんだろ?」
「……え?」
それは、自分にとってまさかの展開。
瞬間的に頭が真っ白になってしまった。
「それって……僕も一緒に行くってこと…?」
「当たり前じゃん。」
どこか不思議そうに首を傾げたノクスは、地図に指を這わせる。
「ルルウェルはヴァリアと正反対。しかも、ハドセンから一つ国を跨いだ位置にあるだろ? さすがにヴァリアの監視も撤退してる場所のはずだ。」
「確かに。お世辞にも裕福な国ではないし、予算的にルルウェルへの長期滞在はきついでしょうね。」
「ハドセンにはヴァリアから嫁いできた奴らが多いからまだ油断できないけど、おれたちの場合はこんな風に魔領を突っ切っていけば……」
「確実に人間の目に触れることなくルルウェルまで移動できる、と。」
「まあ、こっちはこっちで旧魔王派の逆恨みをなぎ倒しながらの道のりになるが、弱体化が進んでる派閥の奴らなんか、大した脅威でもないだろ。」
そこまで告げたノクスは、次に楽しげな笑みをたたえてフィレオトールを見つめる。
「ってなわけで、そろそろ引きこもり生活も退屈になってきただろうし、新境地開拓も兼ねたブルペノン旅行なんてどうだ?」
「………っ」
ノクスの提案を受けたフィレオトールの表情が輝くのは、一瞬の出来事だった。
「答えは……聞くまでもないな。」
なんだろう。
周囲の空気に大量の花をまき散らし、耳をぴょこぴょことさせて尻尾をぶんぶんと振りまくっている幻想が見える。
行きたい、行きたい、行きたい……
言葉以上に、表情と雰囲気の全てがそんな気持ちを訴えてきていた。
とにもかくにも、国どころか大陸を越える大旅行の計画は、こうして始まったのである。
それは、代わり映えのない日々に新たな色を加え、全然想定していなかった展開を連れてくるものである。
「ノクス、おかえりー! とりあえず、こっちに来てくれる!?」
いつものように一仕事がてらの買い出しから帰ったノクスは、珍しくハイテンションのフィレオトールに驚いてしまった。
「ど、どうした…?」
「いいからいいから! ノクスも絶対に喜ぶって。」
戸惑うノクスには構わず、フィレオトールはその手を引いてキッチンに直行。
そこに広がっていたものを見たノクスは……
「うおっ!? なんだこりゃ!?」
菫色の瞳を丸くするしかなかった。
そこには、シンクに収まりきらない量の食材や調味料が。
しかも、この辺りでは見ないものばかりだ。
「今日ゼクが来て、商会の新しい拠点探しついでのお土産をくれたんだ。」
「あの野郎。またおれがいない間に…っ」
五大魔族の一員でありながら勇者パーティーに与し、魔王討伐後に新たな王として君臨したゼグリュオス・ドラジオン。
魔王にとどめを刺す間際までフィレオトールと結託していたことを隠していたことも気に食わなければ、それ以降も定期的に関わってくることも気に食わない。
しかも、商会で築いた信頼関係があるとはいえ、フィレオトールが割と気を許していることもムカつく。
本当なら見つけ次第つまみ出したいのに、こんな風に餌を放り込んでくるなんて。
とてもご機嫌になっているフィレオトールが目の前にいる以上、悪態をつくこともできないじゃないか。
「なんか、大陸の北端で別の大陸に渡る大型船が運行し始めたんだって。」
「ってことは、これは向こうの大陸にある食材たちか。」
「そうそう。物珍しいから、一通り買ってきたって言ってた。」
「いや、未知の食材だけぼんと渡されてもな……」
「ふふふ……ご心配なく。」
何故か自分が自慢げなフィレオトール。
いつの間にスタンバイしていたのか、背中から本を取り出す。
「ゼクの優秀さを舐めちゃいけないよ。食材や調味料と一緒に、向こうのレシピ本も持ってきてくれた。しかも、翻訳版と原文版をセットで! さらには辞書も用意済みなんだから、僕のことをよく分かってるよねー♪」
未知の食材に加え、未知の言語に触れられることに有頂天のフィレオトール。
恋人が喜んでいる様は可愛くていいのだけど、そのポイントを他人に稼がれたのは悔しい限り。
「ほら! ちょっと貸せ!!」
ゼク語りをやめさせたいノクスは、イラつきも露わに翻訳版のレシピを取り上げる。
それに目を通して数秒……
「ふむ……」
その表情が、瞬く間に真剣なものに変わった。
「あの野郎、しれっと食材の説明メモまで挟んでやがる…。助かるけど、やっぱり気に食わねぇ…っ」
なんてことをぼやきながらも、メモと食材を照らし合わせるノクスは料理人モードでレシピに夢中。
結局、二人そろって好奇心に負けた。
「……ん、なんだか新鮮な味。美味しいとは思うけど、食べ慣れてないからか不思議な感じもするね。」
できあがった料理を食べながら、フィレオトールはそんな感想を述べる。
相談した結果、とりあえずオーソドックスなものから料理して並べてみた今日の食卓。
美味しさを噛み締めたい気持ちより、この料理の特徴はなんだろうと分析したい気持ちが勝っているのが本音だ。
「うーん……」
ノクスもノクスで、何かが気に入らないご様子。
「ノクスは苦手な味だったかな? それとも、出来が微妙だった?」
「いや、味はよくまとまってて、普通に食べられる範囲だとは思うんだが……何せ、本場の味を知らないからな。そもそも、これが失敗なのか成功なのか分からん。」
「あ……言われてみれば。」
なるほど、確かに。
ノクスが微妙そうな表情になっているのは、作った手前この曖昧な状態が気持ち悪いということか。
「……フィル、世界地図って持ってきてあるか?」
「あ、はいはい。」
ノクスに訊ねられたフィレオトールは、そそくさと本棚に向かって地図を取り出す。
なんとなく意図は察したのでソファー前のテーブルに地図を広げると、ノクスが興味深そうな様子でそれを覗き込んできた。
「大型船が運行してる港、どこ?」
「ルルウェル王国のスーデ港だよ。ここから北西方向に船が通ってて、マキア大陸南東のブルペノンって国に向かうの。今回ゼクが買ってきたのは、全部ブルペノンの食べ物だって。」
「ほう……」
「スーデ港に偵察でも行くつもり?」
「いや、船が出てるっていうならブルペノンまで行こうかなって。お前も興味があるんだろ?」
「……え?」
それは、自分にとってまさかの展開。
瞬間的に頭が真っ白になってしまった。
「それって……僕も一緒に行くってこと…?」
「当たり前じゃん。」
どこか不思議そうに首を傾げたノクスは、地図に指を這わせる。
「ルルウェルはヴァリアと正反対。しかも、ハドセンから一つ国を跨いだ位置にあるだろ? さすがにヴァリアの監視も撤退してる場所のはずだ。」
「確かに。お世辞にも裕福な国ではないし、予算的にルルウェルへの長期滞在はきついでしょうね。」
「ハドセンにはヴァリアから嫁いできた奴らが多いからまだ油断できないけど、おれたちの場合はこんな風に魔領を突っ切っていけば……」
「確実に人間の目に触れることなくルルウェルまで移動できる、と。」
「まあ、こっちはこっちで旧魔王派の逆恨みをなぎ倒しながらの道のりになるが、弱体化が進んでる派閥の奴らなんか、大した脅威でもないだろ。」
そこまで告げたノクスは、次に楽しげな笑みをたたえてフィレオトールを見つめる。
「ってなわけで、そろそろ引きこもり生活も退屈になってきただろうし、新境地開拓も兼ねたブルペノン旅行なんてどうだ?」
「………っ」
ノクスの提案を受けたフィレオトールの表情が輝くのは、一瞬の出来事だった。
「答えは……聞くまでもないな。」
なんだろう。
周囲の空気に大量の花をまき散らし、耳をぴょこぴょことさせて尻尾をぶんぶんと振りまくっている幻想が見える。
行きたい、行きたい、行きたい……
言葉以上に、表情と雰囲気の全てがそんな気持ちを訴えてきていた。
とにもかくにも、国どころか大陸を越える大旅行の計画は、こうして始まったのである。
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