こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step6 事件発生!思いつきの船旅で大ピンチ!?

襲い来るトラウマ

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「くそ…っ。やっぱり、添乗員ってのは嘘だったな…っ」


 医務室ではなく男性の自室に連れ込まれたフィレオトールは、悔しさをにじませた声で抗議する。


「ふふ…。あなたもご友人もガードが固すぎて手こずりましたよ。せっかく人を使ってご友人を遠ざけたのに、酒に混ぜてもらった薬もいまひとつ効かないようですし。」


 なるほど。
 だから〝まだ動けますか〟と言ったのか。
 とんでもないクソ野郎のようで。


「何が目的だ…っ」
「それはもちろん、あなたと二人きりになりたくて。」


 フィレオトールをベッドに横たえた彼は、その額に浮かぶ汗を丁寧に拭う。
 そして、細い腕の先にはまっていたブレスレットに手をかけた。


「―――っ!?」


 まずいと思っても、今の状況では自分が抵抗するよりも彼がブレスレットを外す方が早かった。


「ああ…。これが本当のあなたですか。確かに、この美しさは隠したくもなりますね。」


 金色の髪をなでながら水色の瞳を見つめ、男性は恍惚こうこつとした表情で熱い吐息をつく。


「いつから、知って……」


「あなたが鳥とたわむれていた時でしょうかね。あなたがやたらと慌てていたので、これに何かある気はしていたんです。」


 まさか、そんなに前から目をつけられていたなんて。
 今日まで彼自身からの介入は一切なかったので、完全に警戒対象外だった。


「私はね、あなたみたいな清らかで純粋そうな人が大好きでして。そういう人を見ると、どうしてもこう……汚したくてたまらなくなるんです。」


 すっと伸びた男性の手が、フィレオトールの腰をやんわりとなでる。


「―――っ!!」


 そこから走った衝撃のような電流に、フィレオトールは大きく体を震わせた。


 今のことだけで、自分がどんな薬を盛られたのかがはっきりと分かった。
 そして、彼がこの後どういう行為に及ぼうとしているのかも。


 とっさに口から零れた、なんとか押し殺したような小さな悲鳴。
 それに、男性はにたりと笑みを深める。


「ああ……予想どおり、いい声ですね。もっと啼かせたくなる。」
「~~~っ!!」


 男性の手がまた体の輪郭をなぞれば、そこから普段の刺激を何倍にも凝縮したような爆裂的なしびれが全身を襲う。


 フィレオトールは両手で口を塞ぎ、必死にその刺激をやり過ごした。


「頑張りますねぇ…。ここまで薬漬けになれば、まともな意識を保つのも大変でしょうに。」


 楽しそうに言う男性が、シャツにかかるループタイをほどいてくる。


 そのままの流れで躊躇ためらいなくシャツのボタンを二つほど外され、頭が真っ白になった。


「やめ…っ」


 口から漏れる声なんてどうでもよくなって、必死に両手を突っぱねたフィレオトールは男性から逃げようと身をよじらせた。


 しかし、危機感にかされるのは気持ちだけ。
 体に入る力なんて、たかが知れている。


 そして、怯えて逃げようとする自分の姿は、彼の欲情を増幅させる興奮剤にしかなり得なかったようだった。


「ふふ…。いつもみたいに優しく丸め込むのもいいですが、こうして怯えて嫌がられるのもまた一興ですね。」


「くっ……触る、な…っ」


「それは無理な相談だ。こんなにも愛らしいものには、誰だって触れたくなるものでしょう?」


「―――っ!?」


 その言葉が耳朶じだを打った瞬間、視界に映る全てが凍りついたような気がした。




 ―――――ああ、なんて愛らしい。




 甘い砂糖菓子のようにとろけた優しい声。
 深い記憶の海底から手を伸ばしてきたそれが、脳裏を激しく揺らす。




 ―――君は本当に魅力的だ。
 ―――――可憐な君には、誰もが触れたがる。
 ―――だから、誰かに手折られる前に……
 ―――――涙も真珠のようだね。
 ―――私だけの愛しい子……




 容赦なく心を切り裂く、記憶の欠片かけらたち。
 もうおぼろげな誰かの面影が全身を縛って、抵抗する意思を粉々に砕いていく。


「そんなに怯えなくていいんですよ? 私は優しいですから。―――抵抗さえしなければ、ね?」


 気付けば、男性が自分の上に覆い被さってきていた。


 興奮と愉悦で歪んだ唇と、自分に伸びてくる大きな手。
 それは、過去の自分をむしばんだ悪魔と全く同じで―――


「やだ……」


 怖い。
 気持ち悪い。


 体は熱いのに、胸の奥がどんどん冷えていく。


 じわりと目の端に涙を浮かべるフィレオトールを眺める男性が、上ずった息と共に自身の唇を舐める。


「大丈夫。どうせ、すぐに何も分からなくなりますから。」


 欲にまみれたその言葉を聞いて、極限にまで張りつめていた糸がプツンと切れた。




「嫌だぁっ! ―――ノクス!!」




 無我夢中でその名を叫ぶ。
 次の瞬間、ドアが大きな音を立てて開かれた。


「ぐあっ!!」


 自分の上に馬乗りになっていた男性が、まばたき一つの間にどこかへ吹っ飛んでいく。


 それと入れ替わるように近付いてきた気配が自分の体を起こして、その胸の中に強く抱き寄せてくれる。


「悪い、遅くなった。」


 必死に求めたその声とぬくもりに、心底ほっとした。


 間一髪のところに飛び込んだノクスは、片手でフィレオトールをぐっと抱き締め、もう片方の手で剣を構えた。


 そして、思い切り壁に叩きつけてやった狼藉者を鋭く睨みつける。


「つっ……なんで……人は十分配備してあったはず…っ」


「あの程度でおれを足止めできると思ったのか? あんまり舐めてくれるなよ。」


 底冷えする声音で言い放ったノクスの全身から、強烈な殺気と魔力が爆発する。


「てめぇ……楽に死ねると―――」


 その処刑宣言は途中で切れる。
 フィレオトールが手を伸ばし、ノクスの首にしがみついたからだ。


「ノクス……もういいから……」
「でも…っ」
「お願い。そんな悠長なことをしてる場合じゃない…っ」


 訴えるフィレオトールは、小動物のようにぶるぶると震えていた。


「………ちっ!」


 苛立たしげに舌を打ったノクスは、乱暴な仕草で剣を掲げる。


 すると剣からまばゆい光が放たれて、それにさらされた男性が茫然として床に膝をついた。


「我が姿をかいし者よ。なんじが見たるものは泡沫うたかたの夢。それを心に刻むことは、傲慢なる大罪と知れ。」


 厳かな口調でつむがれる呪文。
 それが進むにつれて光が強くなり、光を直視できなくなった男性が床に平伏する。


 男性が光に飲まれたことを確信したノクスは片腕でフィレオトールを抱いて立ち上がり、部屋の出入り口へと向かう。


 その道中、男性の側を通り過ぎるノクスがさりげない動きで男性の首を剣で切り払った。


 しかし、剣は男性の肉体を傷つけることはせず、男性は糸が切れた人形のように床へと崩れ落ちるだけ。


 ノクスが唱えた前呪文は、勇者や聖女といった神の化身たる者にしか扱えない聖属性魔法の一つである〝白き忘却〟。


 通常ならこの後に発動句が必須だが、ノクスの場合は聖剣で相手を切りつけることを発動句の代わりとすることができる。


 今首を切られた男性は、自分たちに関する記憶の全てを失うだろう。


「とりあえず、部屋に戻るぞ。」


 聖剣をしまったノクスが、両腕でしっかりと抱え直してくれる。




 全身を包む力強い腕の感触と心地よい揺れに、ようやく緊張感が薄れていく気がした―――



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