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Step6 事件発生!思いつきの船旅で大ピンチ!?
唐突な危機
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ノクスが言ったとおり、自分にしては飲みすぎたのかもしれない。
バーラウンジを出て雑踏が遠退いた瞬間、緊張がほぐれたのか一気に酔いが回ってきてしまった。
このまま自室に戻れる自信もなくて、酔いざましがてら甲板に出て柵に突っ伏すことに。
「プライベートの人付き合いって、こんなにしんどいのね……」
二十一年生きてきて何を今さらという話だけど、それが偽らざる本音だ。
キシムでもヴァリアでも修行と勉強に明け暮れ、途中からは仕事で朝から夜までバタバタで。
プライベートなんて言っても、ヴァリアでは家ですらも敵の巣窟といった感じで、隙を見せないために気を張り巡らせているのが常だった。
貴族口調も忘れるほど気楽でいられたのは、母方の家族や勇者パーティーの面々だけで過ごす時くらいだ。
思い返してみると、自分は素の状態で過ごせた時間が本当に少ない。
しかも、常に修行や仕事に追われていることに甘えて、プライベートの交流を都合よくスルーしている節があった。
そのせいか、仕事という免罪符がない状況での立ち回り方を掴めなくてかなり戸惑っている。
このままスローライフに興じてばかりいると、幼い頃のような引きこもりに戻ってしまいそうだ。
そんなことになる前に、新しい環境での人付き合いに慣れていかなければ。
ノクスがいないと外を出歩けないとなっては、そう望んでいなくても彼を束縛することになってしまう。
「はあぁー、情けない…。僕はどんだけノクスに甘えてたんだろう。」
船に乗ってから何度目かも分からない自己嫌悪。
漏れた溜め息につられて、体がずんと重くなるようだ。
「危ない!」
突然大声が響いて肩を掴まれたのは、さらに溜め息をついて脱力した時のことだった。
「へ…?」
ゆっくりとしか動かない頭を巡らせると、添乗員の制服に身を包んだ男性がどこか慌てた表情をしてこちらを見ていた。
彼はこちらと目が合うと、ほっとしたような息をつく。
「よかった、意識はあるようですね。たまにいらっしゃるんですよ。酔いを覚まそうとして甲板に出て、海に落ちそうになるお客様。」
「あ、ああ…。ご心配させたようで申し訳ありません。」
「いえ、これも仕事ですから。かなりお酒を飲んだように見受けられますが、大丈夫ですか?」
「………」
その問いには答えず、フィレオトールはさりげなく視線を周囲へ。
(人がいない……)
なんだか、状況がおかしい。
自分が甲板に出てきた時は、まばらとはいえ他にも人がいた。
ここ数分でその全員がバーラウンジか自室に戻るわけがない。
ということは、自分が甲板に出てきたのを確認してすぐに人払いがかけられたということ。
この男、本当に添乗員なのか?
「大丈夫ですから、離していただけます?」
「本当ですか? 少しふらついているようですが、一度医務室にでも……」
「結構です。この程度の酔いで医務室に行ったら、医務室の人が可哀想ですよ。」
こんな状況で暢気に酔っていられるか。
そちらが離さないなら、こちらから離れるまで。
フィレオトールは男性の手を払い、船内に向けて一歩踏み出す。
しかし―――その足が床についた瞬間、がくりと膝が砕けてしまった。
(え…?)
先ほどまでのものを何倍にも凝縮したような眩暈が全身を襲う。
間一髪のところで柵を掴み、床に崩れ落ちることは阻止したのだが……
「ふむ…。まだ立てますか。」
低い声が背後で呟く。
次の瞬間、首筋に微かな痛みが走った。
「―――っ!?」
とっさに身を翻して男性を突き飛ばす。
振り向きざまに見えたのは、男性の手に持たれた注射器。
そして、それを見たと同時により強烈な眩暈が頭を揺さぶってくる。
(こいつ、どんだけ強い薬を使いやがった…っ)
自分だって、この容姿と魅了作用について回るデメリットは理解している。
もちろん薬を盛られる可能性は考えていたので、あらゆる薬に対する耐性はつけてきた。
それなのにここまで効き目が出るということは、使われた薬が未知のものか違法なものだということだ。
「ああ、ほら…。やっぱり、歩くのもつらいようですね。」
大きくよろけて倒れかけたフィレオトールを難なく支えて、男性が微笑む。
その時、小さな雷鳴と共に船が大きく揺れた。
(みんな、だめ…。船を沈めたら、他の人も死んじゃう。)
自分を助けてくれようとしてくれる精霊たちに、心の中だけで訴える。
彼女たちの好意は揺るぎなくて頼もしい限りだけど、時に自分以外の人間を度外視するのが痛いところだ。
(お願い……ノクスに、伝えて……)
体が思うように動かせない。
思考が拡散して意識が遠退きそうだ。
このままだと、割と本気で危ないかもしれない。
(ノクス…っ)
男性に抵抗できない今は、そう願う他にできることがなかった。
バーラウンジを出て雑踏が遠退いた瞬間、緊張がほぐれたのか一気に酔いが回ってきてしまった。
このまま自室に戻れる自信もなくて、酔いざましがてら甲板に出て柵に突っ伏すことに。
「プライベートの人付き合いって、こんなにしんどいのね……」
二十一年生きてきて何を今さらという話だけど、それが偽らざる本音だ。
キシムでもヴァリアでも修行と勉強に明け暮れ、途中からは仕事で朝から夜までバタバタで。
プライベートなんて言っても、ヴァリアでは家ですらも敵の巣窟といった感じで、隙を見せないために気を張り巡らせているのが常だった。
貴族口調も忘れるほど気楽でいられたのは、母方の家族や勇者パーティーの面々だけで過ごす時くらいだ。
思い返してみると、自分は素の状態で過ごせた時間が本当に少ない。
しかも、常に修行や仕事に追われていることに甘えて、プライベートの交流を都合よくスルーしている節があった。
そのせいか、仕事という免罪符がない状況での立ち回り方を掴めなくてかなり戸惑っている。
このままスローライフに興じてばかりいると、幼い頃のような引きこもりに戻ってしまいそうだ。
そんなことになる前に、新しい環境での人付き合いに慣れていかなければ。
ノクスがいないと外を出歩けないとなっては、そう望んでいなくても彼を束縛することになってしまう。
「はあぁー、情けない…。僕はどんだけノクスに甘えてたんだろう。」
船に乗ってから何度目かも分からない自己嫌悪。
漏れた溜め息につられて、体がずんと重くなるようだ。
「危ない!」
突然大声が響いて肩を掴まれたのは、さらに溜め息をついて脱力した時のことだった。
「へ…?」
ゆっくりとしか動かない頭を巡らせると、添乗員の制服に身を包んだ男性がどこか慌てた表情をしてこちらを見ていた。
彼はこちらと目が合うと、ほっとしたような息をつく。
「よかった、意識はあるようですね。たまにいらっしゃるんですよ。酔いを覚まそうとして甲板に出て、海に落ちそうになるお客様。」
「あ、ああ…。ご心配させたようで申し訳ありません。」
「いえ、これも仕事ですから。かなりお酒を飲んだように見受けられますが、大丈夫ですか?」
「………」
その問いには答えず、フィレオトールはさりげなく視線を周囲へ。
(人がいない……)
なんだか、状況がおかしい。
自分が甲板に出てきた時は、まばらとはいえ他にも人がいた。
ここ数分でその全員がバーラウンジか自室に戻るわけがない。
ということは、自分が甲板に出てきたのを確認してすぐに人払いがかけられたということ。
この男、本当に添乗員なのか?
「大丈夫ですから、離していただけます?」
「本当ですか? 少しふらついているようですが、一度医務室にでも……」
「結構です。この程度の酔いで医務室に行ったら、医務室の人が可哀想ですよ。」
こんな状況で暢気に酔っていられるか。
そちらが離さないなら、こちらから離れるまで。
フィレオトールは男性の手を払い、船内に向けて一歩踏み出す。
しかし―――その足が床についた瞬間、がくりと膝が砕けてしまった。
(え…?)
先ほどまでのものを何倍にも凝縮したような眩暈が全身を襲う。
間一髪のところで柵を掴み、床に崩れ落ちることは阻止したのだが……
「ふむ…。まだ立てますか。」
低い声が背後で呟く。
次の瞬間、首筋に微かな痛みが走った。
「―――っ!?」
とっさに身を翻して男性を突き飛ばす。
振り向きざまに見えたのは、男性の手に持たれた注射器。
そして、それを見たと同時により強烈な眩暈が頭を揺さぶってくる。
(こいつ、どんだけ強い薬を使いやがった…っ)
自分だって、この容姿と魅了作用について回るデメリットは理解している。
もちろん薬を盛られる可能性は考えていたので、あらゆる薬に対する耐性はつけてきた。
それなのにここまで効き目が出るということは、使われた薬が未知のものか違法なものだということだ。
「ああ、ほら…。やっぱり、歩くのもつらいようですね。」
大きくよろけて倒れかけたフィレオトールを難なく支えて、男性が微笑む。
その時、小さな雷鳴と共に船が大きく揺れた。
(みんな、だめ…。船を沈めたら、他の人も死んじゃう。)
自分を助けてくれようとしてくれる精霊たちに、心の中だけで訴える。
彼女たちの好意は揺るぎなくて頼もしい限りだけど、時に自分以外の人間を度外視するのが痛いところだ。
(お願い……ノクスに、伝えて……)
体が思うように動かせない。
思考が拡散して意識が遠退きそうだ。
このままだと、割と本気で危ないかもしれない。
(ノクス…っ)
男性に抵抗できない今は、そう願う他にできることがなかった。
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