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Step7 旅行なの?仕事なの?新天地は波乱続き!
一大事発生!
しおりを挟む「―――はあ。ゼク、本当にとんでもない方を連れてきたな。」
笑顔のフィレオトールと目を合わせ続けること十数秒。
肩の力を抜いたジオンドは、フィレオトールの後ろに立っているゼクにそう告げた。
一方のゼクは期待どおりの展開になって満足なのか、したり顔で口の端を吊り上げる。
「だろー? 伊達に十五で商会を立ち上げちゃいねぇんだ。こういう状況をも楽しめる豪胆さは折り紙つきだぜ?」
「そのようだ。フィリオルさん、失礼いたしました。あなたの人なりは分かったので、ここからは普通にお話を進めましょうか。」
「いいですよ。第一の信用はいただけたようで安心しました。」
元よりジオンドに試されていることは分かっていたので、フィレオトールは素直に口調を明るいものにした。
「それでは改めて…。あなた方の実力を疑うわけではないのですが、一部から問い合わせが上がっているので教えてください。」
ジオンドもジオンドで、フィレオトールたちに対する警戒を解いた上で話を次に転じる。
「あなた方が林に入った後に北西方向で光の筋が立ち上りましたが、あれは一体?」
「ああ…。それは、ノクスが吹き溜まりを浄化した時の光ですね。」
「吹き溜まりを、浄化…?」
「ええ。彼、こう見えても聖魔法の使い手なんですよ。吹き溜まりが自然消滅するまで魔獣を狩り続けるのも効率が悪いので、吹き溜まりがほどよく小さくなった頃に聖魔法で浄化するように頼んでおいたんです。」
この程度の質問なら想定内なので、フィレオトールはするすると答えを述べる。
彼が勇者だということだけは伏せただけで、別に嘘は言っていない。
聖魔法を扱える人は少なからずいるし、聖魔法で瘴気を浄化できることも事実だ。
ただ、瘴気の発生量に対して聖魔法の使い手が少なすぎるため、瘴気を浄化して根本を叩くよりも人海戦術を駆使しながら吹き溜まりの自然消滅を待つのが手っ取り早いというだけのことである。
「驚いた。聖魔法の使い手ともなれば、大抵は教会で神官を務めるでしょうに。」
ジオンドは、パチパチと目をまたたかせながらそう告げる。
これも想定内の反応だった。
「やはり、マキア大陸でもそんな感じなのですね。確かに、貴重な聖魔法を攻撃方面に特化させるのはノクスくらいかもしれません。とはいえ、だからといって治癒や防御が苦手というわけじゃないんですよ?」
「ふむ……」
フィレオトールの話を聞くジオンドはかなり悩ましげ。
眉間に寄ったしわが、その悩みの深さを物語っているようだった。
「申し訳ないのですが、あなた方のステータスを鑑定させていただいても? さすがに、口頭説明だけでは先方が納得するか分からないので。その代わり、あなた方の身分はこちらで保証しましょう。」
「えーっと……ノクス、あっちのギルドではステータスを鑑定させた?」
「もちろん。そうじゃなきゃ、指名依頼なんか来ないだろ。別に隠すほどのことでもねぇから、おれは構わないぞ。」
「ということですので、僕とノクスは全面的に協力させていただきます。身分の保証は、こちらとしてもありがたいですし。ただ、ゼクとレアルはご遠慮させてください。今回は人手が足りないので同行してもらいましたが、本来なら彼らは戦闘要員じゃないんです。ギルドに情報が登録されることで、いらぬ危険にはさらしたくない。」
鑑定の結果二人が魔族であることがばれるとまずいので、最低限の条件をつけておく。
それに対し、ジオンドはあっさりと頷きを返してきた。
「分かりました。こちらとしてはノクスさんが聖魔法を使えることを証明できれば十分ですので、それで問題ありません。」
「ありがとうございます。」
「では、鑑定は本日中に済ませてしまいましょう。鑑定技師を呼びますので、少々お待ちを。」
善は急げとばかりに、そそくさとソファーから立ち上がるジオンド。
そして、部屋のドアへと向かう彼がフィレオトールの側を通り過ぎようとした時―――
「ん…?」
何かに気付いたジオンドが、フィレオトールの頭に手を伸ばした。
彼が手に取ったのは、ふわふわとした何かの塊。
それに目を凝らしたと思いきや、眼鏡の奥にある飴色の双眸が鋭く光る。
「……フィリオルさん。まさかとは思いますが、祠の聖獣様にお会いしましたか?」
「祠の聖獣様………あっ!」
数秒遅れて、それが精霊の女王の呼び名であることを悟った。
「あ、えっと…。たまたま祠を見つけたので、お騒がせしたお詫びとご挨拶をと思ってお参りしたんです。そしたら、祠の裏からユキヒョウが出てきたんですけど……もしかして、聖獣様ってその方のことですか…?」
ここは、知らぬ存ぜぬ戦法に限る。
即でそう判断したフィレオトールは、戸惑った風を装って首を傾げる。
すると、ジオンドがやけに強張った顔でフィレオトールとの距離を詰めた。
「あああっ!? よく見ると、あっちにもこっちにも聖獣様の毛が…っ。あなた、まさか聖獣様に触ったんですか!?」
「すすす、すみません! 最初は向こうからじゃれてくるのを見てただけだったんですけど、あまりにも肌触りがよくてつい…っ。でも、ちゃんと許可は得ましたよ!? もしかして、いけないことでしたか!?」
こればかりは弁明の余地なし。
何か褒美をやると言われたので、ユキヒョウの姿になった女王様をガッツリもふらせていただいちゃったもの。
抜け毛という物証があっては、触ってませんと言ったところで嘘なのは丸分かりだ。
「いけなくはありませんが、これは一大事ですよ!!」
先ほどまでの冷静さはどこへ消えたのか。
ジオンドは大興奮といった様子でフィレオトールに詰め寄る。
「いいですか!? あのお方は、遥か古来より私たちを見守ってくださっている氷雪の化身なのです! 本来なら、正式な祭事の時にしか私たちの前にお姿を表しません! それ故に、祭事以外で聖獣様の姿をお見かけすれば、その年の安寧が約束されると言われているのです!! そんなお方に間近でお会いになったどころか、じゃれつかれて触ったですって…? あなた、一体何者なんですか!?」
「な、何者かと訊かれましても…っ。昔から、動物にはよく好かれてたなというくらいしか……」
「そんな曖昧な答えで済まされるわけないでしょう!! とにかく、ノクスさんよりもあなたのステータス鑑定の方が喫緊になりました。覚悟しててくださいよ。それと、聖獣様の毛がついたコートとマフラーはこちらで回収します。」
「ええっ!? そんな!!」
「当たり前です! 聖獣様の抜け毛は、大変貴重な幸運のお守りになると言い伝えられているんです。こんなのを全身につけて歩いていたら、襲撃か誘拐待ったなしですよ!?」
「ひ、ひええぇぇっ」
ぶっちゃけ、襲撃や誘拐よりも目の前のジオンドの方が怖くて、フィレオトールは頭を抱えて身を縮こまらせることに。
これが、長い夜が始まるきっかけであった。
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