こんなスローライフは想定外!~いつの間にか、親友を虜にしてしまっていたようで!?~

うみくも

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Step11 勇者沈没!? ドキドキの看病タイム!

二人で〝答え〟を〝正解〟に

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 瘴気病にかかった魔族が正気を失いがちなのは、体が頑丈すぎるが故に体調不良に免疫がないという理由が一つ。


 そして、余計な瘴気を体外に追い出そうとする防衛本能が強く作用しすぎることがもう一つの理由だという。


 瘴気を放出する方法は、魔族それぞれ。


 自身の魔力に乗せて瘴気を押し流したり、瘴気を分解する能力を上げたりと、各々おのおのが最も慣れている手法で一刻も早く瘴気を吐き出そうとする。


 しかし、そこにセーブをかける理性は熱で機能せず。


 結果、見境なく周囲を破壊したり、通常の生命活動に使う力まで消費して昏倒したりしてしまうわけだ。


 ノクスはそこまで大袈裟なことになっていないが、瘴気を吐き出したいという防衛本能は同じであるはず。


 そこに都合よく瘴気を己の魔力に変換できるお前がいるのだから、お前が瘴気を引き取ってやるのが早いし確実だろう。


 幾分いくぶんかパニックが落ち着いた自分に、ジノンはそう説明した。


 なるほど。


 そういう理屈のもとなら、彼女があんなぶっ飛んだ提案をしてきた理由も分かる。


 ノクスなら自身の力で瘴気を浄化するかもしれないけど、体内に蓄積した瘴気に当てられて聖力が弱っていたとしたら、予想外の事態に陥る可能性は否めない。


 人間が瘴気病にかかった事例がないだけに、ゼクもジノンの見立ても推測でしかないのだ。


 そんな推測に運を任せるよりは、ゼクも自分も確実視できているこの体質に頼るのが一番安全と言える。


 だけど……どうして、その方法がよりによってそれなの!?


 そう思ってしまうのは、果たしていけないことだろうか。


 ノクスには悪いけど、ここは汗と熱でどうにか瘴気を発散していただきたい。


 そう思ってジノンの提案を忘れようとしても、苦しそうなノクスを見ると、どうしてもあの提案が頭にちらつく。


 この状況でそわそわするなって?
 無茶を言わないでください。


(あ…。言われてみて分かったけど、確かに少し瘴気が流れてきてる……)


 熱のせいで体が上手く動かなくて、ノクスの舌使いが緩やかだからだろう。


 精神に余裕があるおかげで、無意識で吸い取っていたらしい瘴気の存在を感じることができた。


「は…。大丈夫? 無理してない…?」


 この状態のノクスに流されるのはさすがによろしくないので、隙を見てキスからのがれる。


 ノクスの回答はというと……


「ん…。なんか、逆に少し楽になったかも。」


 これであった。


(本当に、効果あるのおぉ…っ)


 内心ジノンの推測が外れていたらと期待したのに、どうしてこれで楽になっちゃうんですか。


 これは、恥ずかしがり屋すぎる自分への試練だとでも?


 思わず顔を覆い、赤面して震えるフィレオトール。
 それを見つめていたノクスが、ふと息をついた。


「……やっぱり、困らせてるか?」
「へ…?」


 まさかそう問われるとは思っていなくて、顔を覆っていた手をどける。
 開けた視界に映るノクスは、どこか不安そうな表情をしていた。


「お前を押し負かすのも、お前で遊ぶのも楽しいけどさ……お前って本当に何も言わないから、ふとした拍子に、どうしようもなく不安になるんだよ。」


「ノクス……」


「人生で一番長くフィルを見てきたんだ。何も言われなくとも、表情や雰囲気でどう思ってるかは分かる。そう言うのは簡単だけどさ……それって結局、おれの解釈でしかねぇだろ?」


 訥々とつとつと胸中を語るノクスは、静かに顔をうつむける。


「常にフィルの一番でいたくて、ずっと頼ってもらいたくて、色んな知識や技術を勉強した。でも、フィルは元々おれがいなくても立てるくらい強くて、貴族として一人で戦う場面も増えていって……近くにいるはずなのにどんどん遠ざかっていくようで……おれとフィルは生きる世界が違うんだって思い知らされるようで怖かった。」


「うん……それで?」


「だから、必死に甘やかしまくった。どんなに離れても、最後にはおれの傍に帰ってきてもらえる。帰ってくることが普通だと思わせちまえって。だけどな……この行動が、もしも間違っていたら? おれのわがままで、他にあったはずのフィルの幸せを潰してたら? そう考え始めたら、きりがなくてさ……」


「………」


 すぐには何も言えなかった。


 どんなに近しい存在だろうと、自分と全く同じ存在にはなれない。


 答えは相手の中にしかなくて、それを教えてもらえるとは限らないから、いつだって想像で自分の行動を決めるしかない。


 仮に答えを求めたとして、そこで相手に嘘をつかれたら、その嘘が自分の正解になってしまう。


 他人と接してつむぐ世界は、なんとも曖昧あいまいだ。


 だからこそ……


「結局は衝動に負けて押し流したくせに、馬鹿みたいだろ…?」


 こちらの無言に耐えられなくなったのか、ノクスが再び口を開く。


「こうして過去を振り返ると、フィルがいなきゃダメなのはおれの方なんだよな…。フィルがおれを求めてくれたら嬉しいけど、それが叶わないなら……せめて、傍にいることだけは許してほしい。そうでないと、まともに息もできないんだ……」




 だからこそ―――曖昧あいまいでも愛しい世界が壊れるのが怖くて、どうしようもなく不安になるのだろう。




「他に不安なことは?」


 少しの間を置いて、フィレオトールはそっと訊ねる。


「今は……これだけ。フィル以外の奴なんかどうでもいいから、フィルが困ってたり嫌になってなきゃいい。」


「そう……」


 その答えを聞いたフィレオトールは、嬉しそうに表情をなごませた。


 こんな風に弱音を吐いてもらえて嬉しいと感じるのは、自分が変わっているからだろうか。


 でも、事実として嬉しいんだから仕方ない。


 いつもは不安な気持ちを受け止めてもらってばかりなんだから、少しくらいは自分にも不安な気持ちを受け止めさせてくれなきゃ困る。


 フィレオトールは優しくノクスを抱き締めると、その頭を何度もなでた。


「そうだよね。自分だけじゃ、他人の正解は分からないよね。さすがに、今までの全部が全部正解だったとは言ってあげられないけど……少なくとも、僕が見てきたノクスは正しかったと思うな。」


「そうかな…?」


「うん。それに、僕に関してのことは正答率百パーセントだったって断言できる。ノクスには嘘も強がりも通じないから、ノクスの前では素のままでいいやって開き直っちゃったくらいだもん。」


「………」


「あー? 疑ってるね? ちょっと顔を上げてみて。」


 そう言いながら、ノクスの頬をそっと挟む。
 顔を上げた彼と目を合わせて、フィレオトールはにっこりと笑った。


「僕は今、本当に幸せ。僕に対するこれまでの行動は正解だったんだって、そう安心してくれたら嬉しいな。」


 自分には、彼と同じ立場と考え方で答え探しをすることはできない。
 でも、答え合わせをすることならいくらでもできる。


 ノクスが自分で導き出した〝答え〟に自信を持てなくて不安になるなら、二人でその〝答え〟を〝正解〟にしていけばいい。


 いくらでも、くどいくらいに検証しようよ。
 それで、何度でもその不安を取り去ってあげるから。


「……それでいいんだな?」


「うん。」


「本当に、困ってないんだな?」


「もちろん。というか、ノクスが押し負かしてくれるから、僕もその流れで甘えられて助かってるっていうか。」


「んなこと言ったら、もっと厚かましくなるぞ。」


「いいよ。ノクスがいつもそうしてくれてるみたいに、僕だってノクスを甘やかしたいもん。」


「じゃあ……」


 すみれ色の瞳が、先ほど以上の熱を帯びる。


「もっと、キスがしたい。」


 ささやかれるのは、愛しくてたまらなくなるお願い。


「喜んで。」


 答えなんて、一つしかなかった。

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