幽霊屋敷

黒餡

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幽霊屋敷(前編)

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お化け屋敷に入った瞬間だんだん怖くなってきた私は入り口から離れようとしなかった。
普通のお化け屋敷のように入って急に通路ではなく、少し狭い部屋で注意事項を軽く説明しつつも怖い動画を見て、その世界観にどっぷり浸った後に見る通路は普通のお化け屋敷より何倍も暗くて恐ろしくなってきた。
「これ、戻れないやつだからさ。とりあえず進も?」 
そう何度も空音に言われたが足がすくんで動かない。
係員の人にアナウンスで「先に進んでください。」
と言われゆっくりゆっくり進み始めた通路はお化け屋敷特有の涼しさがあって、私の恐怖感をより煽った。
バンッ!!
勢いよくしまった扉の音が暗闇に響く。
そっと後ろを振り返るとそこに扉はなく目の前に広がっていた景色と同じ畦道があった。
「え?」
よほど間抜けな声だったのだろう空音の足が止まった。
「後ろが扉じゃなくて道続いてるんだけど。」
「扉に描いてあるんじゃない?ほら、最近こういうの多いし。」
怖いから。そういう理由で繋いだ手が今はもどかしい。
本当に扉があるか確かめようと手を伸ばす。たった30センチ。少し手を伸ばせば感じるはずの扉の存在はなく、その手は空を切った。
私の驚きをよそに、空音はぐんぐん道を進んで行く。
畦道を少し進むと小さな神社があった。
ようやく暗闇に慣れてきた目に映った鳥居はいつもより深い紅色をしていた。
『早く通り過ぎよう。』
そんなことを考えた時、空音が足を止めた。
「この神社の中通るっぽい。ほら、ここに壁がある。すごいね。こんなに見分けがつかないんだね。」
最近の技術ってすごいね。
呑気な空音の言葉にふっと怖さが和らぎそうだねと言おうと横を向いた瞬間、背筋が凍った。
空音の髪に何かが手を伸ばしている。
少女のような体から伸ばした手は腐っていて、肉がなくなってしまったであろう所からは白い骨が見えていた。
「早く行こ!」
空音の手を引くと、今まさに髪を掴もうとしていた手は肩から抜け落ち、肉の潰れたような音を私の耳に残しながらさっきまでのことが嘘のように消えていた。
「さっきまで先に進みたがらなかったのはどこの誰ですか~」
もう空音の言葉で怖さが和らぐ余裕なんて私にはなかった。
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