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血統鑑定士の災難【本編】
18 サヴォイ公爵の決断②
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リードとハロルドの出会いは10年以上も前に遡る。
今思えば、そんなことで・・・と困惑するような理由で夫婦喧嘩をしたチェレーアがまだ幼いハロルドとアンジェリカを連れてティヴラン皇国へ里帰りしてしまった時期があった。
ティヴラン皇国の姫が里帰りしたということもあり、近しい親戚が一堂に会し、幼子達の交流を目的にした昼食会が開かれた。
そこでリードはハロルドを一目見て恋に落ちたのだった。
あの子こそ僕の運命!とリード少年は雷に打たれた様な衝撃をその場にいた両親へ言葉にする事も出来ず、だがハロルドへ直接突撃する事もできない大変内気な子供だった。
ハロルドはぴったりとくっついて離れないアンジェリカの世話を何かと焼いていたため、リード少年の熱視線には一切気付かず、アンジェリカは幼いながらもその視線に本能で勘づき、決してハロルドを離すことなく、他の子息令嬢たちが近づこうものならギャン泣きして「うちの子、本当に人見知りなもので・・・困ったわねぇ」という母を防波堤にするとハロルド目当ての子供のみならず大人たちも決して近寄らせなかったのだった。
一度きりの昼食会で見かけただけだというのに、リード少年はハロルドへの恋心をひとつも色褪せさせることなく大人になっていく。
自国の学園に通えば良いではないかと渋る両親をなんとか説き伏せて、ハロルドの居るルベルバック王国への留学資格を捥ぎ取り、親戚筋という事でリードはサヴォイ公爵家へとまんまと入り込んだは良いが、再会一日目にして己の初恋が無残にも散ることが確定したのだった。
そう、リードがサヴォイ公爵家へ来訪した時には既にハロルドはオリヴィエ・ロズワルド次期侯爵という婚約者を持っていたのだった。
しかも二人の関係は良好。
ハロルドにオリヴィエ嬢を紹介されたとき、リードは人の好さそうな笑顔を張り付けたまま心の中で号泣することになった。
ハロルドが幸せなのならば、幸せになれるのならばと、この想いは決してハロルドへ明かすことなくいようとリードは決心した。
が、こんな事で簡単に諦められるものならば、たった一目見かけただけの相手を10年以上も想い続け、決して近くもない隣国にまで来たりはしない。
ハロルドがリードの想いに気付くことが無い限り、想いを告げることはしないが、ハロルドを前にして、想いが溢れて止まらなくなったら困らせてしまからと、アカデミー在学中にライナスへ相談したりもした。
時々溢れてハロルドへのスキンシップが過剰になりつつあったが、ライナスが機転を利かせてリードを止めていたおかげで事なきを得てはいたが、オリヴィエにはすっかり警戒されていたのは仕方のない事だろう。
留学期間中の三年間の思い出を胸に、この想いは今後も大切にしていきたい。
そう思い、リードは泣く泣くティヴラン皇国へと帰り、皇太子の側近として政務に携わってはいたが、ハロルドが近くに居ない生活に耐えられず、せめてハロルドの手記だけでも!と手紙を書いた事で始まったハロルドとの文通だったが、アンジェリカに時々邪魔をされ、数回やりとりした手紙は半年ほど経つとパタリと止んだ。
何度となく近況を伺う手紙を出してもハロルドからは返事が来ず、仕事に集中しないリードに業を煮やした皇太子がルベルバック王国で流れるサヴォイ公爵家関連の噂を伝えたのだ。
リードはその噂が信じられず、噂の精査をするためにルベルバック王国へ人を送ったり、密かに入国したりと、ハロルドを取り巻く現状を知っていく。
そうこうしている内に、オズワルド侯爵はハロルドを見限り、いくらサヴォイ公爵家でも今のハロルドを庇う事はできないだろうとリードは思った。
そしてリードの中の悪魔が囁いた。
それに耳を貸してしまったリードはハロルドにも、サヴォイ公爵家の誰にも会うことはせず、静かに自国へ戻ると以前の通り側近としての務めを果たしつつ、時が来るのを待ったのだ。
ハロルドが自ら堕ちてくるのを。
予定通り自爆したハロルドは婚約を白紙に戻され、サヴォイ公爵家で謹慎していると聞いたリードは直ぐ様サヴォイ公爵家へと手紙をしたためた。
手紙にはハロルドへの想いを嘘偽りなくこれでもかと詰め込み、決して自分の気持ちをハロルドへ押付ける事はないと誓ったうえで、ハロルドを預けてくれるのならばこの手紙をハロルドへ渡して欲しいと旅券を同封したハロルド宛の手紙も添えてサヴォイ公爵家へ送った。
手紙を読み、愛する妻チェレーアの言った通りハロルドがリードの魂の伴侶なのならば、サヴォイ公爵家で幽閉する事を選んだ瞬間、リードは狂うだろう。
狂い、そしてハロルドを力づくでも奪いに来てしまうだろうとリュシアンは容易に想像した。
リードが密かに入国しているのを知っていたサヴォイ公爵は、今回送られてきた手紙に綴られたハロルドへの強い想いに、愚かとはいえ、それでも可愛い息子の今後を想う。
失態を犯したハロルドに対し、サヴォイ公爵は当主として決断を下さなければいけない。
そして決断した。
理性を無くしたリードのハロルド略奪・監禁コースよりも、ティヴラン皇国で忠臣として皇太子に覚えの良いリードの保護下に入り、限りのある自由の中で生活して貰った方が幾分幸せだろうと判断し、勘当・放逐という形でハロルドを手放した。
王家やサヴォイ公爵、ロズワルド侯爵が関わっていない土地で生計を立てて暮らせ。と暗に国を出ろと伝え、リードの元へ行くよう誘導したのだった。
ハロルドに対する処罰を決断した夜、直ぐにリュシアンはティヴラン皇国で手ぐすねを引いて待つリードへと、ハロルドよりも早く着くように速達を出した。
決して無理強いはするな。手を出すのは、ハロルドの心をまず手に入れてからにしろ。という内容の手紙を。
リードの誓いも、リュシアンの願いも守られる事は無かったが・・・
今思えば、そんなことで・・・と困惑するような理由で夫婦喧嘩をしたチェレーアがまだ幼いハロルドとアンジェリカを連れてティヴラン皇国へ里帰りしてしまった時期があった。
ティヴラン皇国の姫が里帰りしたということもあり、近しい親戚が一堂に会し、幼子達の交流を目的にした昼食会が開かれた。
そこでリードはハロルドを一目見て恋に落ちたのだった。
あの子こそ僕の運命!とリード少年は雷に打たれた様な衝撃をその場にいた両親へ言葉にする事も出来ず、だがハロルドへ直接突撃する事もできない大変内気な子供だった。
ハロルドはぴったりとくっついて離れないアンジェリカの世話を何かと焼いていたため、リード少年の熱視線には一切気付かず、アンジェリカは幼いながらもその視線に本能で勘づき、決してハロルドを離すことなく、他の子息令嬢たちが近づこうものならギャン泣きして「うちの子、本当に人見知りなもので・・・困ったわねぇ」という母を防波堤にするとハロルド目当ての子供のみならず大人たちも決して近寄らせなかったのだった。
一度きりの昼食会で見かけただけだというのに、リード少年はハロルドへの恋心をひとつも色褪せさせることなく大人になっていく。
自国の学園に通えば良いではないかと渋る両親をなんとか説き伏せて、ハロルドの居るルベルバック王国への留学資格を捥ぎ取り、親戚筋という事でリードはサヴォイ公爵家へとまんまと入り込んだは良いが、再会一日目にして己の初恋が無残にも散ることが確定したのだった。
そう、リードがサヴォイ公爵家へ来訪した時には既にハロルドはオリヴィエ・ロズワルド次期侯爵という婚約者を持っていたのだった。
しかも二人の関係は良好。
ハロルドにオリヴィエ嬢を紹介されたとき、リードは人の好さそうな笑顔を張り付けたまま心の中で号泣することになった。
ハロルドが幸せなのならば、幸せになれるのならばと、この想いは決してハロルドへ明かすことなくいようとリードは決心した。
が、こんな事で簡単に諦められるものならば、たった一目見かけただけの相手を10年以上も想い続け、決して近くもない隣国にまで来たりはしない。
ハロルドがリードの想いに気付くことが無い限り、想いを告げることはしないが、ハロルドを前にして、想いが溢れて止まらなくなったら困らせてしまからと、アカデミー在学中にライナスへ相談したりもした。
時々溢れてハロルドへのスキンシップが過剰になりつつあったが、ライナスが機転を利かせてリードを止めていたおかげで事なきを得てはいたが、オリヴィエにはすっかり警戒されていたのは仕方のない事だろう。
留学期間中の三年間の思い出を胸に、この想いは今後も大切にしていきたい。
そう思い、リードは泣く泣くティヴラン皇国へと帰り、皇太子の側近として政務に携わってはいたが、ハロルドが近くに居ない生活に耐えられず、せめてハロルドの手記だけでも!と手紙を書いた事で始まったハロルドとの文通だったが、アンジェリカに時々邪魔をされ、数回やりとりした手紙は半年ほど経つとパタリと止んだ。
何度となく近況を伺う手紙を出してもハロルドからは返事が来ず、仕事に集中しないリードに業を煮やした皇太子がルベルバック王国で流れるサヴォイ公爵家関連の噂を伝えたのだ。
リードはその噂が信じられず、噂の精査をするためにルベルバック王国へ人を送ったり、密かに入国したりと、ハロルドを取り巻く現状を知っていく。
そうこうしている内に、オズワルド侯爵はハロルドを見限り、いくらサヴォイ公爵家でも今のハロルドを庇う事はできないだろうとリードは思った。
そしてリードの中の悪魔が囁いた。
それに耳を貸してしまったリードはハロルドにも、サヴォイ公爵家の誰にも会うことはせず、静かに自国へ戻ると以前の通り側近としての務めを果たしつつ、時が来るのを待ったのだ。
ハロルドが自ら堕ちてくるのを。
予定通り自爆したハロルドは婚約を白紙に戻され、サヴォイ公爵家で謹慎していると聞いたリードは直ぐ様サヴォイ公爵家へと手紙をしたためた。
手紙にはハロルドへの想いを嘘偽りなくこれでもかと詰め込み、決して自分の気持ちをハロルドへ押付ける事はないと誓ったうえで、ハロルドを預けてくれるのならばこの手紙をハロルドへ渡して欲しいと旅券を同封したハロルド宛の手紙も添えてサヴォイ公爵家へ送った。
手紙を読み、愛する妻チェレーアの言った通りハロルドがリードの魂の伴侶なのならば、サヴォイ公爵家で幽閉する事を選んだ瞬間、リードは狂うだろう。
狂い、そしてハロルドを力づくでも奪いに来てしまうだろうとリュシアンは容易に想像した。
リードが密かに入国しているのを知っていたサヴォイ公爵は、今回送られてきた手紙に綴られたハロルドへの強い想いに、愚かとはいえ、それでも可愛い息子の今後を想う。
失態を犯したハロルドに対し、サヴォイ公爵は当主として決断を下さなければいけない。
そして決断した。
理性を無くしたリードのハロルド略奪・監禁コースよりも、ティヴラン皇国で忠臣として皇太子に覚えの良いリードの保護下に入り、限りのある自由の中で生活して貰った方が幾分幸せだろうと判断し、勘当・放逐という形でハロルドを手放した。
王家やサヴォイ公爵、ロズワルド侯爵が関わっていない土地で生計を立てて暮らせ。と暗に国を出ろと伝え、リードの元へ行くよう誘導したのだった。
ハロルドに対する処罰を決断した夜、直ぐにリュシアンはティヴラン皇国で手ぐすねを引いて待つリードへと、ハロルドよりも早く着くように速達を出した。
決して無理強いはするな。手を出すのは、ハロルドの心をまず手に入れてからにしろ。という内容の手紙を。
リードの誓いも、リュシアンの願いも守られる事は無かったが・・・
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