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かけ違えたボタンホールを、今(下)
かけ違えたボタンホールを、今.8
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瑠璃を不安にさせている自覚はある。
千鶴は、数年前に父が建て直したばかりの家のお風呂にじっくりと肩まで浸かりながら、不安と苛立ちをかき混ぜたような顔をしていた瑠璃のことを思い浮かべていた。
瑠璃の両目が、夜の海に浮かぶ小舟みたいに揺れていた。異様なまでに自我が強い彼女のことを考えれば、酷く珍しいことだ。
「…私が中途半端だから、だよなぁ…」
瑠璃が抱えている不安の原因くらい、容易に想像できた。だからこそ、千鶴は自分の不甲斐なさに大きなため息を漏らすしかない。
試しに、お風呂から上がって、テレビを観ながら歓談している父と母に瑠璃のことを話す自分を想像してみる。
女性と付き合っている。そんなふうに口にすれば、二人は手にしたマグカップを揃って床に落とすかもしれない。楽しみにしているドラマの内容も右から左へと流れていくに違いない。
両親は娘の自分が言うのもなんだが、おしどり夫婦だ。男女の結婚における美談を詰め込んだみたいに幸せな家庭を築いた二人が、それとは異なる道を選ぶことに賛成してくれるなんてとても思えない。
「…無理だって…」
ちゃぽんと、つむじまでお湯に浸かる。
入浴剤の影響で真っ白に染まったお湯は、瑠璃と“これから”のやり取りをするときに身に着ける仮面くらいに嘘っぽい。
しばらく体を温めてから、お風呂を上がる。それから髪を乾かしたり、肌の手入れをしたりだとかした後でリビングに出ると、先ほど想像したとおりに両親揃ってソファに座っていた。
「お風呂、上がったよ」
「はーい」
聞こえているのかどうかも怪しい返事を並んで口にする二人。
千鶴はそのままキッチンに入ると、透明のカップに水を注いだ。
両親は呑気に恋愛ドラマを見続け、ストーリーの続きだとか、俳優の話だとかをしている。画面の向こうの出来事は所詮、二人にとって道楽だが、おそらくは娘が性的少数派であることは道楽にはできないだろう。
千鶴は何気ない足取りで二人が座っている三人がけのソファの端にちょこんと腰を下ろした。そうすれば、父が嬉しそうな顔で千鶴の肩を抱き、座りやすいよう詰めてくれた。
「ちょっと、痛いって」と千鶴が唇を尖らせると、父は不思議と嬉しそうに笑い、母も呆れ顔ながら幸せそうな様子だった。
仲間睦まじい家族のだんらん。
今、瑠璃の件を切り出せば、これは壊れるのだろう。
両親はきっと頭を抱える。どう接すればいいのかとか、病気じゃないかとか…たぶん。
画面を見ているフリをしながらそんなことを考えていると、不意に、父が口を開いた。
「千鶴は付き合っている人はいないのか?」
ドクン、と心臓が跳ねた。それでも涼し気な表情を維持できたのは、鍛え上げてきた世渡り上手スキルのあれこれのおかげか。
「さあね」
「おいおい、『さあ』ってなんだ」
「教えないってこと。はい、以上」
「なんだそりゃ」と父は肩を竦めてから、母に対し、「お前も知らんのか」と尋ねた。
「さあ」
淡白に、でも皮肉交じりで返した母に、父も大笑いしながら膝を叩く。机の上に置いてあるビールのアルコールが回っているのかもしれない。何はともあれ、母の返答に少しだけ助けられた気がする。
やがて、いつの間にか流れていたCMが終わり、物語の幕が再び上がったタイミングで、父がぼそりと言った。
「どんなやつでも、ちゃんといつかは連れて来いよ」
父の横顔にあったのは、先ほどまでの人好きのする笑い顔ではなく、酷く真剣な、一人の親としての顔であった。
できることなら、そうしてあげたいよ。
千鶴は心の中でそう唱えつつ、適当な相槌と共に頷く。
瑠璃も両親も、千鶴にとってはどちらもかけがえなく、大事な存在だった。
だからこそ、自分が連れて来た瑠璃を見て、両親が困惑したり、何か言って彼女を傷つけたりすることも嫌だったし、瑠璃が自分の両親の態度を見て、あらゆるものに失望することも嫌だった。
どちらも苦しめたくないし、悩ませたくない。
瑠璃は自分がいいと言えば両親に会いたがるだろうし、両親も娘のパートナーには会っておきたいと言う。
両者、望むものは同じなのに。同性というだけで、こんなにも上手くいかない…。
千鶴は埃が層をなしたような倦怠感からため息を吐き、そのまま他人事の恋愛ドラマを見ているフリをする時間を過ごすのだった。
「瑠璃さんのタイプの女性についてお聞きしてもよろしいですか?」
この手の質問には、いつだって辟易とさせられることを禁じえない。
瑠璃は映画完成の宣伝も込みで用意された番組のワンコーナーにて、鮮やかな微笑みの仮面の下で舌を打っていた。
番組のレギュラーであるアナウンサーが、自分に向かって完璧な絵画みたいな笑顔を向けてくる傍ら、他の出演者たちもその問いの答えに興味がある、などと騒ぎ立てる。そんなに知りたいなら、ネット記事でも漁ればいいだろ、と心の中で唱えつつ、瑠璃は自分が積み上げたものを守るため、酷く沈着に、淡々と言葉を紡ぐ。
「えー、映画と関係ありませんが…いいんですか?」
お決まりのワンクッション。こういうのが大事だとマネージャーから長年教え込まれた瑠璃は、思ってもいないことを口にする術を体得していた。
無論、他の出演者たちもお決まりの反応をする。そういう流れだからだ。
どんな会話にも、こうした目には見えない流れが存在する。それは瑠璃が世間に出て仕事をするようになってから教えられたことだ。
言語化されていない言葉、ルール。人はそれを、俗に“空気”という。
空気を読む。かつての紫野瑠璃が吐き気を覚えるほど嫌いな言葉だ。
でも、今はそれに振り回されない。
見えないなら、覚えればいい。
あらゆるパターンを。みんなには見えて、自分には見えない、会話の流れを。
一人ぼっちだった自分には、まるで興味がなかったこと。だけど、今は違う。
評価されることにも、意味がある。学生時代とは違う。
今の自分には、大事な人が、千鶴がいる。
千鶴と幸せに暮らしていくためにも、お金は大事だ。それを得るためなら、毒だって舐め上げてやる。十年近く前に決めたことだ。
「分かりました」
瑠璃は遠慮がちな微笑みのまま呟くと、少しだけ考える素振りをしてみせた。
本当は考える必要なんてなかった。なぜなら、彼女の頭の中には、タイプだとか、理想だとかではない、立体的な実像があったから。
「私自身、酷く不器用なので…世渡り上手なタイプがいいですね。こうと決めたら融通の利かない私を広い視野で支えてくれる理知的なところがあって、それでいて、情熱的――な方が、タイプですね」
千鶴の美点を考えながらしゃべっていたせいで、特定の個人を表現しているような口ぶりになっていたことに気づき、瑠璃は曖昧に笑って語りを終える。
瑠璃の話を聞いた出演者たちは、各々勝手なコメントを並べ始めた。それを瑠璃は決して真に受けることなく、ただ、一つ一つ情報の羅列として記憶し、処理していった。相手にしてもしょうがないし、価値もないから、必要な反応だけを丁寧に返す。それこそ、プログラミングされたロボットみたいに。
千鶴がどこにいても見えるよう、大きな花火になればいいと思って始めた役者業。コツさえ掴めば、意外と自分に合っているのかもしれない…なんてことまで、最近は考えてしまっている。
だが、いつだって面倒や壁は突然立ちはだかる。
あの日、千鶴が会いに来てくれなかったときのように。
「えぇー、紫電さんの理想のタイプ、私と全然違うじゃないですかぁ」
不意に、隣に座っていた女性が鼻にかかる高い大きな声でそんなことを言うから、会場の視線はぐいっと彼女に引き込まれる。だからなんやねん、と司会がツッコむ声も遠く感じた。
小柄な体に比べて、挑戦的な吊り目が印象的な彼女は、花蜜カレン。まだ二十歳にもなったばかりのような女だが、学生だった頃からネットアイドルとして人気を博し、拡散力にも優れたタレントである。
瑠璃は、仮面の微笑みのままでカレンのほうへ顔を向け、小首を傾げた。
「そうなのですか?」
「そうですよぅ」
大胆不敵さを暗に示しているかのような不敵な口元。牙を隠しているような気がするから、あまり好きなタイプではない。
不貞腐れた態度を見せるカレンに対し、あらゆる共演者が言葉を投げるが、彼女はそのどれにも会心の出来で答えを打ち返し、笑いを生んだ。
そしてそのうち、カレンが残念がる必要があるのか、という冷静なツッコミがなされたのだが、それに対し彼女は瑠璃が全く予想しない行動を取ってみせた。
「だって瑠璃さん、ミステリアスなお姉さんって感じで、私のタイプですもん!」
隣に座っていたカレンが、不意を討つように瑠璃の右腕に自分の両腕を絡める。そのときに香った容赦なき甘い匂いには、自分とも千鶴とも違うものを瑠璃の脳は感じていた。
『ちょっとちょっと!』だとか、『お前もそっちいけるんかい』だとか、聞く人が聞いたら目くじらを立てるようなツッコミもありながら、スタジオの空気が乱れる。
誰も予定していない絡みだ。やめてくれよ、と何人かが心のうちで唱えているのが、なんとなく分かる。
しかしながら、当の本人であるカレンは何も気づいていないふうに爛漫な表情で笑うばかり。ここで自分がノーコメントなのはありえないだろう、と打算的に考えた瑠璃は、空いた左手でそっとカレンの肩に触れて口を開く。
「ふふ、私、カレンさんのファンに怒られてしまいませんか?」
「平気ですよぅ。どうですか、この後一緒に抜けません?」
カレンの冗談に司会が、「二次会か!」とツッコミを入れる。それで笑い声の上がることが、瑠璃は内心、不思議でならなかった。
それにしても…どうでもいいが、カレンの腕の力が強い。これはCMが始まるまで話さないつもりだろうな、と瑠璃は予測していたが、その想像は現実のものとなり、しばらくの間、カレンはカメラの前で腕を組み続けるのだった。
千鶴は、数年前に父が建て直したばかりの家のお風呂にじっくりと肩まで浸かりながら、不安と苛立ちをかき混ぜたような顔をしていた瑠璃のことを思い浮かべていた。
瑠璃の両目が、夜の海に浮かぶ小舟みたいに揺れていた。異様なまでに自我が強い彼女のことを考えれば、酷く珍しいことだ。
「…私が中途半端だから、だよなぁ…」
瑠璃が抱えている不安の原因くらい、容易に想像できた。だからこそ、千鶴は自分の不甲斐なさに大きなため息を漏らすしかない。
試しに、お風呂から上がって、テレビを観ながら歓談している父と母に瑠璃のことを話す自分を想像してみる。
女性と付き合っている。そんなふうに口にすれば、二人は手にしたマグカップを揃って床に落とすかもしれない。楽しみにしているドラマの内容も右から左へと流れていくに違いない。
両親は娘の自分が言うのもなんだが、おしどり夫婦だ。男女の結婚における美談を詰め込んだみたいに幸せな家庭を築いた二人が、それとは異なる道を選ぶことに賛成してくれるなんてとても思えない。
「…無理だって…」
ちゃぽんと、つむじまでお湯に浸かる。
入浴剤の影響で真っ白に染まったお湯は、瑠璃と“これから”のやり取りをするときに身に着ける仮面くらいに嘘っぽい。
しばらく体を温めてから、お風呂を上がる。それから髪を乾かしたり、肌の手入れをしたりだとかした後でリビングに出ると、先ほど想像したとおりに両親揃ってソファに座っていた。
「お風呂、上がったよ」
「はーい」
聞こえているのかどうかも怪しい返事を並んで口にする二人。
千鶴はそのままキッチンに入ると、透明のカップに水を注いだ。
両親は呑気に恋愛ドラマを見続け、ストーリーの続きだとか、俳優の話だとかをしている。画面の向こうの出来事は所詮、二人にとって道楽だが、おそらくは娘が性的少数派であることは道楽にはできないだろう。
千鶴は何気ない足取りで二人が座っている三人がけのソファの端にちょこんと腰を下ろした。そうすれば、父が嬉しそうな顔で千鶴の肩を抱き、座りやすいよう詰めてくれた。
「ちょっと、痛いって」と千鶴が唇を尖らせると、父は不思議と嬉しそうに笑い、母も呆れ顔ながら幸せそうな様子だった。
仲間睦まじい家族のだんらん。
今、瑠璃の件を切り出せば、これは壊れるのだろう。
両親はきっと頭を抱える。どう接すればいいのかとか、病気じゃないかとか…たぶん。
画面を見ているフリをしながらそんなことを考えていると、不意に、父が口を開いた。
「千鶴は付き合っている人はいないのか?」
ドクン、と心臓が跳ねた。それでも涼し気な表情を維持できたのは、鍛え上げてきた世渡り上手スキルのあれこれのおかげか。
「さあね」
「おいおい、『さあ』ってなんだ」
「教えないってこと。はい、以上」
「なんだそりゃ」と父は肩を竦めてから、母に対し、「お前も知らんのか」と尋ねた。
「さあ」
淡白に、でも皮肉交じりで返した母に、父も大笑いしながら膝を叩く。机の上に置いてあるビールのアルコールが回っているのかもしれない。何はともあれ、母の返答に少しだけ助けられた気がする。
やがて、いつの間にか流れていたCMが終わり、物語の幕が再び上がったタイミングで、父がぼそりと言った。
「どんなやつでも、ちゃんといつかは連れて来いよ」
父の横顔にあったのは、先ほどまでの人好きのする笑い顔ではなく、酷く真剣な、一人の親としての顔であった。
できることなら、そうしてあげたいよ。
千鶴は心の中でそう唱えつつ、適当な相槌と共に頷く。
瑠璃も両親も、千鶴にとってはどちらもかけがえなく、大事な存在だった。
だからこそ、自分が連れて来た瑠璃を見て、両親が困惑したり、何か言って彼女を傷つけたりすることも嫌だったし、瑠璃が自分の両親の態度を見て、あらゆるものに失望することも嫌だった。
どちらも苦しめたくないし、悩ませたくない。
瑠璃は自分がいいと言えば両親に会いたがるだろうし、両親も娘のパートナーには会っておきたいと言う。
両者、望むものは同じなのに。同性というだけで、こんなにも上手くいかない…。
千鶴は埃が層をなしたような倦怠感からため息を吐き、そのまま他人事の恋愛ドラマを見ているフリをする時間を過ごすのだった。
「瑠璃さんのタイプの女性についてお聞きしてもよろしいですか?」
この手の質問には、いつだって辟易とさせられることを禁じえない。
瑠璃は映画完成の宣伝も込みで用意された番組のワンコーナーにて、鮮やかな微笑みの仮面の下で舌を打っていた。
番組のレギュラーであるアナウンサーが、自分に向かって完璧な絵画みたいな笑顔を向けてくる傍ら、他の出演者たちもその問いの答えに興味がある、などと騒ぎ立てる。そんなに知りたいなら、ネット記事でも漁ればいいだろ、と心の中で唱えつつ、瑠璃は自分が積み上げたものを守るため、酷く沈着に、淡々と言葉を紡ぐ。
「えー、映画と関係ありませんが…いいんですか?」
お決まりのワンクッション。こういうのが大事だとマネージャーから長年教え込まれた瑠璃は、思ってもいないことを口にする術を体得していた。
無論、他の出演者たちもお決まりの反応をする。そういう流れだからだ。
どんな会話にも、こうした目には見えない流れが存在する。それは瑠璃が世間に出て仕事をするようになってから教えられたことだ。
言語化されていない言葉、ルール。人はそれを、俗に“空気”という。
空気を読む。かつての紫野瑠璃が吐き気を覚えるほど嫌いな言葉だ。
でも、今はそれに振り回されない。
見えないなら、覚えればいい。
あらゆるパターンを。みんなには見えて、自分には見えない、会話の流れを。
一人ぼっちだった自分には、まるで興味がなかったこと。だけど、今は違う。
評価されることにも、意味がある。学生時代とは違う。
今の自分には、大事な人が、千鶴がいる。
千鶴と幸せに暮らしていくためにも、お金は大事だ。それを得るためなら、毒だって舐め上げてやる。十年近く前に決めたことだ。
「分かりました」
瑠璃は遠慮がちな微笑みのまま呟くと、少しだけ考える素振りをしてみせた。
本当は考える必要なんてなかった。なぜなら、彼女の頭の中には、タイプだとか、理想だとかではない、立体的な実像があったから。
「私自身、酷く不器用なので…世渡り上手なタイプがいいですね。こうと決めたら融通の利かない私を広い視野で支えてくれる理知的なところがあって、それでいて、情熱的――な方が、タイプですね」
千鶴の美点を考えながらしゃべっていたせいで、特定の個人を表現しているような口ぶりになっていたことに気づき、瑠璃は曖昧に笑って語りを終える。
瑠璃の話を聞いた出演者たちは、各々勝手なコメントを並べ始めた。それを瑠璃は決して真に受けることなく、ただ、一つ一つ情報の羅列として記憶し、処理していった。相手にしてもしょうがないし、価値もないから、必要な反応だけを丁寧に返す。それこそ、プログラミングされたロボットみたいに。
千鶴がどこにいても見えるよう、大きな花火になればいいと思って始めた役者業。コツさえ掴めば、意外と自分に合っているのかもしれない…なんてことまで、最近は考えてしまっている。
だが、いつだって面倒や壁は突然立ちはだかる。
あの日、千鶴が会いに来てくれなかったときのように。
「えぇー、紫電さんの理想のタイプ、私と全然違うじゃないですかぁ」
不意に、隣に座っていた女性が鼻にかかる高い大きな声でそんなことを言うから、会場の視線はぐいっと彼女に引き込まれる。だからなんやねん、と司会がツッコむ声も遠く感じた。
小柄な体に比べて、挑戦的な吊り目が印象的な彼女は、花蜜カレン。まだ二十歳にもなったばかりのような女だが、学生だった頃からネットアイドルとして人気を博し、拡散力にも優れたタレントである。
瑠璃は、仮面の微笑みのままでカレンのほうへ顔を向け、小首を傾げた。
「そうなのですか?」
「そうですよぅ」
大胆不敵さを暗に示しているかのような不敵な口元。牙を隠しているような気がするから、あまり好きなタイプではない。
不貞腐れた態度を見せるカレンに対し、あらゆる共演者が言葉を投げるが、彼女はそのどれにも会心の出来で答えを打ち返し、笑いを生んだ。
そしてそのうち、カレンが残念がる必要があるのか、という冷静なツッコミがなされたのだが、それに対し彼女は瑠璃が全く予想しない行動を取ってみせた。
「だって瑠璃さん、ミステリアスなお姉さんって感じで、私のタイプですもん!」
隣に座っていたカレンが、不意を討つように瑠璃の右腕に自分の両腕を絡める。そのときに香った容赦なき甘い匂いには、自分とも千鶴とも違うものを瑠璃の脳は感じていた。
『ちょっとちょっと!』だとか、『お前もそっちいけるんかい』だとか、聞く人が聞いたら目くじらを立てるようなツッコミもありながら、スタジオの空気が乱れる。
誰も予定していない絡みだ。やめてくれよ、と何人かが心のうちで唱えているのが、なんとなく分かる。
しかしながら、当の本人であるカレンは何も気づいていないふうに爛漫な表情で笑うばかり。ここで自分がノーコメントなのはありえないだろう、と打算的に考えた瑠璃は、空いた左手でそっとカレンの肩に触れて口を開く。
「ふふ、私、カレンさんのファンに怒られてしまいませんか?」
「平気ですよぅ。どうですか、この後一緒に抜けません?」
カレンの冗談に司会が、「二次会か!」とツッコミを入れる。それで笑い声の上がることが、瑠璃は内心、不思議でならなかった。
それにしても…どうでもいいが、カレンの腕の力が強い。これはCMが始まるまで話さないつもりだろうな、と瑠璃は予測していたが、その想像は現実のものとなり、しばらくの間、カレンはカメラの前で腕を組み続けるのだった。
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