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第23話
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「天使と悪魔の時間制限撤廃、ペア任務制度の開始、暁宵城の復興ねぇ……」
一体いつどこで準備したのか、すらすらと論理的に自分たちの目指す世界を説明するエリオットに感心しながら話を聞く。
「人間の心は少しの出来事で大きく変わる。1人の人間に対しても、天使と悪魔の両方からのアプローチが必要だと思うんです。それが人間を幸せにするという天使と悪魔の掲げるミッションに最も近付ける形だと考えています」
悪魔長は先程までとは違い、椅子にもたれて足を崩したラフな姿勢でこちらと向き合っている。でもかえってそのほうが俺たちの話を真剣に聞いているように感じた。
「んー……そりゃあねぇ、俺だってわかってるし、願うことならそうしたいよ。ただこれは悪魔だけの力じゃどうにもできない。天使側の協力も必要だ。もしアスに会えてこの話をしたとしても、首を縦には振らないだろうなぁ……」
悪魔長の話を聞きながらずっと気になっていたことを口にする。
「なぁ、悪魔長は天使長に恋人としての未練はないのか? ほぼ喧嘩別れみたいなものだろ?」
「あるに決まってるよ! 未練だらけだこっちは!」
今日1番の大声を出した悪魔長の剣幕にエリオットと共に驚く。
「……アスを今でも愛しているよ。本当に愛している。俺の心は今もアスのものだ。でももう一度愛してると伝えるよりも、本当に馬鹿なことをしてしまったと謝罪したい気持ちでいっぱいなんだ」
「この300年間、アステリオン様とは一度も?」
「あぁ、会っていない。この300年間、後悔と未練は募る一方だ」
悪魔長が大きくため息を吐く。その表情には深い悲しみが浮かんでいた。
「復縁を望んだりはしないのか?」
「そりゃできるなら恋人に戻りたいさ。でもアスは今も俺を憎んでいるだろう……その事実に直面するのが怖い。きっと俺は耐えられない」
癖なのだろうか、悪魔長がペンダントトップをぎゅっと握り締める。その手が離れた時、エリオットが口を開いた。
「……あの、そのペンダントは何か思い出の品だったりするのですか?」
「あぁ、これはアスとお揃いのものだ。つまり300年以上のアンティーク物だよ。まだ俺たちが恋人だった頃、愛の証として着けていたんだ。まぁ俺はそれを今も未練がましく着けてるんだけど……」
最初の威厳はどこへいったやら、何かきっかけがあれば今すぐにでも泣き出してしまいそうな悪魔長が気の毒にすら思える。
「それ、天使長も同じものを着けていますよ」
「なんだって!?」
エリオットの言葉に勢いよく悪魔長が立ち上がった。
「先週の会議ですれ違った時、天使長の首元にペンダントがあるのに気付きました。あの厳格な天使長もアクセサリーを着けるのかと、どこか意外に感じたので覚えていたんですよ。ザハル様と同じデザインでした」
「それは……本当か……?」
「はい、すぐ側をすれ違ったので、見間違いはないかと」
エリオットたちのやり取りを聞きながら悪魔長のペンダントをじっと見つめる。
「なぁ……これ暁宵城前の広場にある銅像と同じデザインじゃないか? ほら、あの天使と悪魔のどっちが壊したんだとか言って関係が悪化した銅像」
胸の中で何かが噛み合う音がした。
「たしかに……大きさが違うから結びついていなかったけど、同じデザインだ。ザハル様、これは何か銅像と関係があるんですか?」
「あぁ、あの銅像は天使と悪魔の共存を願って俺とアスが建てたものだ。同じデザインのものを、2人の愛の証としてペンダントにしたんだよ。よく気付いたね」
たしかあの時――エリオットから聞いた内容を思い返す。
「なぁ、あの銅像って、天使長が大事にしてんじゃなかったか? その銅像を悪魔が壊したとか言って関係が悪化したんだろ?」
「あぁそうだ。天使長はあの銅像を自らの手で錆びないようにと丁寧に手入れをしていた。それを知っていたからこそ、怒った天使たちは悪魔を悪者にしたんだよ」
悪魔長に向けて俺とエリオットの視線が注がれる。
「なぁ、これ話してみる価値あるんじゃないか?」
「話してみるって何? 俺が!? アスと!?」
「アステリオン様はザハル様を愛していないと、まだ決まったわけではありませんよ。天使と悪魔の協力はメリットばかり、正直人間への還元を考えればやらない手はありません。最後の一押しは、ザハル様とアステリオン様の和解です」
頬を赤くした悪魔長がぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「……アスは、まだ俺を愛してくれているだろうか」
「わかんねぇって、だから聞きに行けばいいだろ」
しばらく考えをまとめるかのように瞼を閉じていた悪魔長が、決意を固めるかのように宣言する。
「よし、夜が明けたら3人で天界に出発しよう。目標は天使と悪魔の共存に向けての説得、そしてアスへの謝罪」
「復縁は入れなくていいのか?」
「……それはアス次第だ。……本当に申し訳なかったと、今でも愛していると、伝えられれば俺はそれでいい」
悪魔長が促すように立ち上がる。
「今日は2人とも下の客間に泊まっていくといい。短い時間だがくつろいでくれ。ダブルベッドの部屋じゃなくて申し訳ないんだが、許してくれるかい?」
「どっちにせよ、一緒に寝るから関係ねぇよ」
「ひゅう、ラブラブだね。妬けちゃうよ」
「妬ける元気があるなら明日は大丈夫だろ」
悪魔長を小さく小突くと、執務室を出て客間へと向かう。言われた通りシングルベッドが2つ並ぶ部屋で、俺たちは大きく息を吐いた。
「正直緊張したな」
「あぁ、本当だ。レヴァン、お疲れ様」
「エリオットがいなかったら何にもできてねぇよ。そっちもお疲れ様」
お互いを労うとぎゅっと身体を抱き締め合う。軽くシャワーを浴び備え付けの寝巻に腕を通すと、宣言通り同じベッドの上で横になった。
「この窮屈さにも慣れてしまったな」
「人間界での宿泊施設の時はいつもだからな」
「たしかに狭いが、レヴァンの体温がすぐ側に感じられて安心する」
照明を落とすと、部屋の明かりはエリオットの光の輪だけになる。この柔らかい光の元で、エリオットと小さく言葉を交わす時間が何より好きだった。
「……さっき、私に悪魔の力を使わないと言ってくれたの、嬉しかった。だからこそ私は、こうして自分の言葉でレヴァンへの愛を紡げる」
「当たり前だ、捻じ曲げて手に入れた想いなんていらないからな」
レヴァンらしい、とエリオットが笑う。たっぷりと愛情を注ぐかのように、エリオットの指先が俺の頬に触れた。
「愛しているよ」
「俺もだ。エリオットを心から愛している」
そっとおやすみのキスを交わすと、お互いの体温を抱き締めながら眠りの世界へと落ちていった。
一体いつどこで準備したのか、すらすらと論理的に自分たちの目指す世界を説明するエリオットに感心しながら話を聞く。
「人間の心は少しの出来事で大きく変わる。1人の人間に対しても、天使と悪魔の両方からのアプローチが必要だと思うんです。それが人間を幸せにするという天使と悪魔の掲げるミッションに最も近付ける形だと考えています」
悪魔長は先程までとは違い、椅子にもたれて足を崩したラフな姿勢でこちらと向き合っている。でもかえってそのほうが俺たちの話を真剣に聞いているように感じた。
「んー……そりゃあねぇ、俺だってわかってるし、願うことならそうしたいよ。ただこれは悪魔だけの力じゃどうにもできない。天使側の協力も必要だ。もしアスに会えてこの話をしたとしても、首を縦には振らないだろうなぁ……」
悪魔長の話を聞きながらずっと気になっていたことを口にする。
「なぁ、悪魔長は天使長に恋人としての未練はないのか? ほぼ喧嘩別れみたいなものだろ?」
「あるに決まってるよ! 未練だらけだこっちは!」
今日1番の大声を出した悪魔長の剣幕にエリオットと共に驚く。
「……アスを今でも愛しているよ。本当に愛している。俺の心は今もアスのものだ。でももう一度愛してると伝えるよりも、本当に馬鹿なことをしてしまったと謝罪したい気持ちでいっぱいなんだ」
「この300年間、アステリオン様とは一度も?」
「あぁ、会っていない。この300年間、後悔と未練は募る一方だ」
悪魔長が大きくため息を吐く。その表情には深い悲しみが浮かんでいた。
「復縁を望んだりはしないのか?」
「そりゃできるなら恋人に戻りたいさ。でもアスは今も俺を憎んでいるだろう……その事実に直面するのが怖い。きっと俺は耐えられない」
癖なのだろうか、悪魔長がペンダントトップをぎゅっと握り締める。その手が離れた時、エリオットが口を開いた。
「……あの、そのペンダントは何か思い出の品だったりするのですか?」
「あぁ、これはアスとお揃いのものだ。つまり300年以上のアンティーク物だよ。まだ俺たちが恋人だった頃、愛の証として着けていたんだ。まぁ俺はそれを今も未練がましく着けてるんだけど……」
最初の威厳はどこへいったやら、何かきっかけがあれば今すぐにでも泣き出してしまいそうな悪魔長が気の毒にすら思える。
「それ、天使長も同じものを着けていますよ」
「なんだって!?」
エリオットの言葉に勢いよく悪魔長が立ち上がった。
「先週の会議ですれ違った時、天使長の首元にペンダントがあるのに気付きました。あの厳格な天使長もアクセサリーを着けるのかと、どこか意外に感じたので覚えていたんですよ。ザハル様と同じデザインでした」
「それは……本当か……?」
「はい、すぐ側をすれ違ったので、見間違いはないかと」
エリオットたちのやり取りを聞きながら悪魔長のペンダントをじっと見つめる。
「なぁ……これ暁宵城前の広場にある銅像と同じデザインじゃないか? ほら、あの天使と悪魔のどっちが壊したんだとか言って関係が悪化した銅像」
胸の中で何かが噛み合う音がした。
「たしかに……大きさが違うから結びついていなかったけど、同じデザインだ。ザハル様、これは何か銅像と関係があるんですか?」
「あぁ、あの銅像は天使と悪魔の共存を願って俺とアスが建てたものだ。同じデザインのものを、2人の愛の証としてペンダントにしたんだよ。よく気付いたね」
たしかあの時――エリオットから聞いた内容を思い返す。
「なぁ、あの銅像って、天使長が大事にしてんじゃなかったか? その銅像を悪魔が壊したとか言って関係が悪化したんだろ?」
「あぁそうだ。天使長はあの銅像を自らの手で錆びないようにと丁寧に手入れをしていた。それを知っていたからこそ、怒った天使たちは悪魔を悪者にしたんだよ」
悪魔長に向けて俺とエリオットの視線が注がれる。
「なぁ、これ話してみる価値あるんじゃないか?」
「話してみるって何? 俺が!? アスと!?」
「アステリオン様はザハル様を愛していないと、まだ決まったわけではありませんよ。天使と悪魔の協力はメリットばかり、正直人間への還元を考えればやらない手はありません。最後の一押しは、ザハル様とアステリオン様の和解です」
頬を赤くした悪魔長がぱちぱちと瞬きを繰り返す。
「……アスは、まだ俺を愛してくれているだろうか」
「わかんねぇって、だから聞きに行けばいいだろ」
しばらく考えをまとめるかのように瞼を閉じていた悪魔長が、決意を固めるかのように宣言する。
「よし、夜が明けたら3人で天界に出発しよう。目標は天使と悪魔の共存に向けての説得、そしてアスへの謝罪」
「復縁は入れなくていいのか?」
「……それはアス次第だ。……本当に申し訳なかったと、今でも愛していると、伝えられれば俺はそれでいい」
悪魔長が促すように立ち上がる。
「今日は2人とも下の客間に泊まっていくといい。短い時間だがくつろいでくれ。ダブルベッドの部屋じゃなくて申し訳ないんだが、許してくれるかい?」
「どっちにせよ、一緒に寝るから関係ねぇよ」
「ひゅう、ラブラブだね。妬けちゃうよ」
「妬ける元気があるなら明日は大丈夫だろ」
悪魔長を小さく小突くと、執務室を出て客間へと向かう。言われた通りシングルベッドが2つ並ぶ部屋で、俺たちは大きく息を吐いた。
「正直緊張したな」
「あぁ、本当だ。レヴァン、お疲れ様」
「エリオットがいなかったら何にもできてねぇよ。そっちもお疲れ様」
お互いを労うとぎゅっと身体を抱き締め合う。軽くシャワーを浴び備え付けの寝巻に腕を通すと、宣言通り同じベッドの上で横になった。
「この窮屈さにも慣れてしまったな」
「人間界での宿泊施設の時はいつもだからな」
「たしかに狭いが、レヴァンの体温がすぐ側に感じられて安心する」
照明を落とすと、部屋の明かりはエリオットの光の輪だけになる。この柔らかい光の元で、エリオットと小さく言葉を交わす時間が何より好きだった。
「……さっき、私に悪魔の力を使わないと言ってくれたの、嬉しかった。だからこそ私は、こうして自分の言葉でレヴァンへの愛を紡げる」
「当たり前だ、捻じ曲げて手に入れた想いなんていらないからな」
レヴァンらしい、とエリオットが笑う。たっぷりと愛情を注ぐかのように、エリオットの指先が俺の頬に触れた。
「愛しているよ」
「俺もだ。エリオットを心から愛している」
そっとおやすみのキスを交わすと、お互いの体温を抱き締めながら眠りの世界へと落ちていった。
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