悪魔の俺が天使に一目惚れしてハードモードなんだが!?

萌葱 千佳

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第24話

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「やっぱり、アスのことだからこうなると思ってたんだよなぁ……」
 翌朝、悪魔長と俺たちの3人で天界へと向かうと、天界の入り口は分厚い門で閉ざされていた。
「私が悪魔と恋人関係にあって、おそらく魔界に逃げ込んだというのは上も知ってるんですね。だからこうして私を天界に戻さないように門を閉ざしているんでしょう」
 天使長に会うどころか、天界に足を踏み入れる時点でこれとは前途多難だ。

「エリオット、何か方法はないのか?」
「さすがに上級天使でも天界の門を開ける権限はない。どうしたものか……」
 エリオットが考え込んでいると、悪魔長が閉ざされた門に近付く。
「ちょっとやってみたいことがあってね」
 門に手のひらをかざした悪魔長が瞼を閉じる。アス、俺だよ――小さく呟いた声に反応するかのように、門が音を立てて開き出した。

「……アスと恋人だった時に、俺専用の天界の鍵を作ってもらったんだ。あぁ見えてアスは朝が弱くてね。門が閉ざされている時でも起こしにいけるようにと、俺の悪魔の力と音声認識で開くようになってる。俺がポイントシステムを削除できてなかったように、もしかしてアスも……と思ったんだ」
 また脈ありに近付いたな、と肘で悪魔長を小突く。
「ここからはどうする?」
「俺が先導しよう。何か罠があったとしても、君たちよりは俺のほうが対処できる」

 そう意気込んで進んだはいいものの、拍子抜けするほど天界は静かだった。見える範囲に天使は誰もいない。
「もしかしたらこの件が落ち着くまで出歩くなと言われているのかもしれないな」
 そうエリオットが呟くのを聞きながら街を進む。奥にそびえ立つ光の塔、ルミナスタワーに天使長はいるらしい。タワーの最上階に上がるエレベーターも、驚くほどスムーズに俺たちを上へと誘う。エレベーターのドアが開くと、そこに待ち構えていたのは1人の天使だった。


 エリオットが胸に手を当てて礼をする。
「アステリオン様」
 するとこいつが天使長――その視線は鋭くこちらを突き刺している。月光を浴びるエリオットを見て静かで冷たい美しさだと思ったことは何度もあるが、この天使長の凍えるような冷たさはその比ではなかった。

「裏切り者のエリオットが。よく天界に戻って来られたな。稀に見る出世を遂げた優秀な天使だと感心していたら、その実態は悪魔と通じていた裏切り者だったとは」
「私はただ、自分の恋人を心から愛しているだけです。天界を裏切ってなどいません」
「馬鹿者! 悪魔と心を通わせるなんて裏切り行為に決まっているだろう! ……そもそも、そこにいる下品な悪魔がエリオットを唆したのか? うちの天使を誑かすようなことは許さない」

 天使長の矛先が自分に向いたことを確認すると、口を開く。
「俺はエリオットを唆したりなんかしてない。ただまっすぐにエリオットを愛してるだけだ。……だよな? 俺、唆したりしたか?」
 空気が読めない奴になってもいい。この場で誰よりも会話が必要なのは悪魔長だ。天使長の全てを跳ね除けるような張り詰めた空気を崩せるようにと、エリオットにいたずらっぽく笑い掛ける。意図を察したのか、エリオットもこちらの会話に乗ってきた。
「ふふ、そんなわけないだろう。私は私の意思で、レヴァンに恋をして、そしてそれは愛になった。これは揺るがない事実だ」
 視線を合わせて微笑み合うと、天使長が一瞬たじろいだように思えた。すると、ずっと黙っていた悪魔長が口を開く。


「……アス、300年ぶりだな」
「私をアスと呼ぶな! この汚らわしい悪魔!」
 噛み付くかのような剣幕で天使長が大声を上げる。
「……わざわざ門を閉じていたのにそれが開いたと聞いて、ようやく貴様の鍵の設定があったことを思い出した。まったく、どうしてあの時設定を解除し忘れていたのか。自分の行いを悔いている」

「解除し忘れたんじゃなくて、解除できなかったんだろ? いつかこうして会いに来てくれるのを期待して」
「そこの悪魔! わかったような口を聞くな!」
 お、図星か。段々と天使長との接し方が掴めてきた。悪魔長が意を決したように1歩前に出る。

「アス、本当にごめん。申し訳ないことをした。300年間、ずっと後悔していた。謝りたかった。俺は自分の醜い欲望を満たすために、君の美しい羽を縛り付けてしまった」
「……300年間、温めていた謝罪がそれか」
「アスを想わなかった日なんてない。毎日毎日、後悔だらけだった。ずっと謝りたかった」


 天使長がグッと唇を噛む。その瞳の奥では気持ちが揺れ動いているように見える。凍りついていた氷の仮面にひびが入り、崩れ落ちる――そう予感がした。

「……なら、なんでもっと早く来ない。貴様なら、天界の門も開けられただろ」
 音もなく静かに天使長の涙が溢れ出す。ホロホロと涙を流しながらも、天使長の瞳はまっすぐに悪魔長を見据えていた。

「もう貴様は、私の涙も拭ってくれなくなったのか」
 悪魔長の喉が微かに鳴り、その手が宙で止まった。
「……俺はまた、アスに触れていいのか?」
 返事の代わりか、天使長が悪魔長の腕をぐいと掴む。すると悪魔長は天使長を抱き締め、頬に手を添えてそっと親指で涙を拭っていた。

「あぁ、アス、泣かないで。誰より美しい君に涙は似合わない。どうか涙を止めて」
「……あの時、泣き顔も好きだと言ってくれたのは嘘だったのか?」
「嘘ではない! ただもう俺はアスに悲しい顔をしてほしくないんだ。……幸せだけに包まれてほしい」
 すると怒りを露わにするように、天使長が勢いよく悪魔長の胸元を拳で叩く。

「だったら! ……だったら、私がどんな想いで、300年間を過ごしていたか、少しは想像してみたらどうだ!」
「アス、ごめん。本当にごめん。俺が悪かった」
「ごめんはもう聞き飽きた!」
 覚悟を決めたように悪魔長が天使長の瞳を真正面から見つめる。

「……アス、愛しているよ。初めて会った時からずっとずっと、君だけを愛している」
 返事の代わりに静寂が訪れた。その静けさの中で天使長の頬を涙が伝う。
「遅い……ザハルの馬鹿……」
 2人は身体を抱き締め合い、導かれるようにキスを交わす。300年間の凝り固まった孤独を溶かすように、強く強く抱き締め合っているのが伝わってきた。


 あとは2人っきりにしてあげようか――エリオットがそっと目配せをする。300年ぶりの恋人の再会を邪魔しないようにと、俺たちはルミナスタワーのエレベーターを静かに下った。
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