ひび割れた魂に、君のぬくもりを

萌葱 千佳

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第10話

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 あたたかい陽の光を受けて瞼を擦る。目を開けて視界に飛び込んできたのは、恋人の穏やかな寝顔だった。
 元々ダリオンがソファで寝るのを何とかしたいと思っていたことから、想いが通じたのを機に寝室のベッドで隣り合って寝ることを提案した。おやすみのキスをして、お互いの体温を感じながら眠りに落ちる。朝になってもすぐ隣に愛おしい体温があるのは、何事にも代えがたい幸せだった。

「ん……カイル……また僕の寝顔見てたの……?」
 寝起きの腑抜けた声をすぐ隣で聞かせてくれるのがたまらなく嬉しい。眠そうなダリオンの頬を指先でつつく。
「恋人の特権だろ」
 くすぐったそうに笑うダリオンの全部が愛おしい。ぎゅっと身体を抱き締めると、愛する悪魔の体温を噛み締める。

「おはよう、カイル」
「ん、おはよう」
 自分の背中にもダリオンのあたたかい腕が回される。毎朝こんなに幸せでいいのか。そんなことを思いながら口を開く。

「まだ眠そうにしてるな。朝食の準備をしてくるから、出来上がったら起こしに来る」
「やだ。僕もカイルと一緒に居たい。起こして?」
 自分よりも身体の大きなダリオンがこうして甘えてくれるのがたまらなく愛おしくて、胸が苦しくなる。先にベッドから降りてダリオンの腕を引くと、立ち上がったダリオンが勢い余って俺をぎゅっと抱き締めた。

「……今日もカイルの側に居られて嬉しい。大好き」
 恋人になってからというもの、ダリオンは惜しみなく愛を伝えるタイプだと認識した。大好きだよ、愛してる――何度も言葉で、時には口付けで愛を伝えてくれるため、こちらの心臓は高鳴ってばかりだ。
 朝食の準備をしながらも、時折ダリオンからの口付けが頬や首筋に降ってくる。挨拶のキスではなく、愛を伝えるキスが増えたのも嬉しくてたまらない。こちらも愛を伝えるように、コーヒーメーカーのセットをするダリオンの頬にそっと口付けを贈った。


 恋人になり、ダリオンにこれからも俺の家で暮らしてほしいと告げ、改めてここは2人の家になった。
 最初は引っ越しも考えていたが、元々1人で暮らすには少し広い部屋だったので、慣れ親しんだこの家で愛を紡いでいる。ダリオンが魔界の役所に行って住民票を移してきたと言われた時は胸が高鳴った。

 ダリオンの体調のほうもかなり回復し、休職からも復帰してまずは時短でできる任務から肩慣らしを始めている。最初は見送られるだけだった玄関で、今では2人揃って家を出られるのが特別なことに思えた。
 カウンセリングに通うのも続けているが、ダリオンが安心して向かえるようにと送り迎えは欠かさず行っている。カウンセリングが終わったダリオンと合流して、カフェでゆっくりとした時間を過ごしたり、花屋で部屋に飾る花を選んだりする時間が大切で愛おしかった。


「ねぇ、カイルもピアノ弾いてみない?」
 ある日夕食を終えるとダリオンに手を引かれてピアノの前に座る。
「俺は無理だ。弾けないよ。練習したけど続かなかったし、そもそも難しいし」
「僕と一緒でも無理?」
 茶目っ気のある笑顔をダリオンが見せる。出会った頃には暗く沈んでいた臙脂色の瞳は、今ではルビーのような深い輝きを見せてくれる。

「……ダリオンと一緒なら、できるかも」
「ふふ、そうでしょ。一緒に練習しよう?」
 俺でも弾けるような簡単なメロディーを教えてもらい、それが何とか弾けるようになると、ダリオンの伴奏に合わせてメロディーを奏でる。

「連弾なんて、初めてだ」
「僕も初めてだよ。楽しいね」
 ダリオンと想いが音を通じて重なり、2人で奏でる音が1つの音楽として成り立っている。魂がひとつの旋律になったかのように感じ、弾き終わった時には思わずその身体を抱き締めていた。

「カイル、すごく上手だったよ」
「……ピアノって、こんなに楽しかったんだな」
 視線を合わせるように、ダリオンの手が頬を支える。
「そうだよ。愛する人と一緒に音を奏でるのって、たまらなく楽しいんだ」

 そのままどちらからともなく唇を重ねる。これが、俺たちの愛の形だ。そう思いながら、2人で辿り着いた愛を確かめるように何度も口付けを交わしていた。
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