鳥戦記『輸送艦隊司令官』

猫とコウモリ

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0章 歴史的な大敗の後で

ラバウル会議

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空気は一瞬にて変わり、誰しもが口を紬ぐ
穏やかだった場の雰囲気は一転し、ピリピリとした緊張感が漂っていた

「…改めまして、ここニューギニア方面兼第四艦隊の司令長官を務めさせて頂きます。鳥谷啓二中将です。」

この場の誰もの直属の上司にして、この戦線の最高指揮官。
彼の指揮は文句の付け所がなく、とても優秀な指揮官だ。
もはや年齢は関係無く、彼よりも優秀と言えるのは数えられる程にしか居ないのでは無いだろうか、とも思える。
改革派、中核の一人だ。

「鳥谷長官の補佐兼第四艦隊の参謀長を務めさせて頂きます。博麗霊夢少将です。」

単独で艦隊を指揮してもおかしくないと思っていたが、鳥谷さんの補佐に付くのか。
これは目立ちすぎることを防ごうとしているのか、はたまた、別の意味があるのか……山本長官の考えは読めない。

「ニューギニア方面基地航空隊の指揮を執る、霧雨魔理沙だぜ。宜しく」

これまた、単独での艦隊指揮をしてもおかしくない人材だったが、基地航空隊の指揮を取るか……霊夢少将と同じ理由か……ただ、基地航空隊にお世話になることが多そうな輸送艦隊の指揮官としては、安心することが出来る。

「六一独立機動艦隊の指揮を執らせて頂く戸山桜太郎少将です。」

窓から見えるあの艦艇達、まさしく帝国の存亡を掛けた艦隊を指揮するのは、改革派一番の能力を持つ彼だった。
これまた、お世話になることが多そうなので、戸山少将のような安心できる方が付いてくれて嬉しい限りである。

「ニューギニア方面の輸送艦隊ひいては輸送護衛艦隊の指揮を執らせて頂く、猫山古森中将です。」

輸送艦隊と言う名ではあるものの、場合のよっては通商破壊や、前衛艦として動くこともありそうだ。
その分消耗も激しくなるが……その辺りは腕の見せ所だろう。

「本土で新型機の開発や航空編成を行わせて頂いております。海軍航空本部長の万道歳三中将です。」

この会議のためだけに本土より遥々やってきたと思うとご苦労さまである。
改革派で良く用いられる航空戦術。それに欠かせない人物であることは間違い無いだろう。
彼のためにも、航空機の開発が危うくなる状況は避けなければならないな。

「改めまして、海軍特別警察隊ニューギニア方面隊本部長を務めさせて頂く時雨正光特務大佐です」

特警……いつまでその立場に居るか。
是非彼には、艦隊を指揮する立場に居て欲しいと、思う私が居る。
しかし、それは彼が挙げる戦果によるだろう。
是非とも頑張って欲しいものである。

一通りの自己紹介を終え、席につくと鳥谷中将が切り出した。


「まぁ、なんとなく分かってると思いますが、ここニューギニア方面隊は海軍のほとんど改革派で纏まっております。本来、力を未だ持っている守旧派の将校を差し置いて改革派のみで一戦線を築くと言うのは不可能です。」

それはそうだろう。ここまで改革派を集めるなど、保守派にとっていいわけがない。
……じゃあ、どうやって不可能を可能にしたんだ?
嫌な考えを思い浮かべ、眉を潜める。
そうして、彼は続けて言った

「我々が今ここに集まれている理由は山本提督や改革派将校達の必死の訴えによるものです。その結果守旧派の上層部が認めてはくれたものの条件を提示されました。"ニューギニア方面で大敗を負い、帝国海軍の再建を困難とさせた場合、山本五十六、井上成美、鳥谷啓二、博麗霊夢、霧雨魔理沙。以下五名を現在の役職から解任とし。ミッドウェー、そしてニューギニアにおける敗北の責任を取ってもらう"と言う決まりの元、今私達はここにいます。山本提督や井上さん等上層部に正面きって意見を言える面々が居なくなれば、この戦争中確実に改革派は弾圧される。守旧派がアメリカと和平を結ぶようなビジョンが私には見えない…彼らは最後の最後まで抗い続けるでしょう。国民を平気な顔をして戦場に駆り立てるでしょう。命を命と思わない作戦を行うでしょう…でも待つのは勝利じゃない悲惨な敗北のみです。」

彼は、鳥谷中将は私達の見たことのないほど、必死だった。
そうして、この場には彼を冷やかす者は居なかった。
何故なら、鳥谷啓二という男が、自身の身を守る為だけに動く人間ではないと、彼が動くのは第三者や国の為なのだと、全員が知っているからだ。
それを彼の目が、体の震えが、彼の声が物語っているのだから。
あぁ、思わず笑みが出る。改めて体が、心が認識した。
これだからこそ、彼に付いて行き、命を預ける事ができる。
そこにはそれをする理由が彼の本気に訴えに込められていた。

「はじめから負けてやる気なんてないですよ。やってやりましょう。ここで米国は止めます。国民に被害を出させはしません」

数秒の沈黙の後に、冨山少将が口角を上げ言った。
彼の目は獲物を狙う虎のように鋭い。それでいて熱く燃えていた。"大和魂"。今の彼にはそれがしっくりと来る。彼の闘争心は燃え上がるのを感じた。

「前線の兵士も死なせませんよ。少なくとも餓死なんて言う名誉も糞も無い死に方は絶対にさせません。陛下の赤子です。不名誉な死に様を与えはしません」

立ち上がりながら、私も告げる。
思い変えされるのは、中国戦線地獄のような日々。例え輸送を終えたとしても奥地の味方までは届かない。そうして輸送品が届かなかった日本兵達は皆死んでいく……。これを嫌な記憶と片付けるのは簡単だ。
ただ、彼らの犠牲は無駄にしてはならない。彼らのような名誉も遂げずに戦死などあってはならないのだ。
机の上で置いた手を固く握りしめ、少し力を抜いた。

外からの夕陽が窓辺を照らし、部屋は夕焼けに包まれた。それと同時に皆の目も夕焼けの夜のように煌めいていた。

その後は、各艦隊の状況や、艦隊編成。艦の詳細説明や、万道さんによる説明などが行われ、一段落したのは八時を回った頃であった。
外は一寸先も見えないほどに真っ暗であり、手持ちの光源では心細い。
そうして会議が終わり、皆が部屋から出て行く中、この部屋には冨山少将が残っていた。。

「お疲れ様です、珈琲入ります??」

彼が頷くのを見た後、二人分のコップを用意する。
戸棚を開き中から珈琲パックを少し頂く。

「……少し頂いていきますかね」

こっそりとポケットに仕舞いながらも2人分の珈琲を置く。

「わざわざありがとね。階級的には君の方が上なんだけど」
「はは、あなたはやろうと思えば私など軽く越えられるでしょう?」
「さぁ?どうだろうね」

珈琲をすすりながら、少しだけ世間話をした。
鳥谷さんの話や最近の近況報告。艦隊の話など。
気づけば時間は過ぎていて、私は立ち上がる。

「そろそろ私は、部屋に帰らせていただきます」
「うん、外は真っ暗だ。気を付けて帰りなよ。少しきな臭い噂もあるしね。」
「えぇ、わかりました。おやすみなさい。冨山さん」
「あぁ、おやすみ、猫山君」

そうして私は、部屋を出た。

外に出ると、街灯も簡易的なものだからか、道から少しでもそれれば、暗闇が広がっていた。
本土に居るならば決して聞くことが無かったであろう動物や、風に揺れる草木の音が、私の恐怖心を駆り立てる。

そうして、少し歩いて歩いて、やがて木造の2階建ての建物が見えてきた。
ゆっくりと建物中に入ると、よく日焼けした日本人なのか、日本語が達者な現地民か、分からないが声をかけると部屋に案内してくれる。

部屋の前には時雨の文字。
案内人に感謝をし、私は扉の前に立った。
そうして、私は扉をノックした。

「…お疲れ様です。どうかしましたか?」
「いやぁ、あの会議室に何かないかと時雨さんが居ない間に万道さんの話を聴きながら、初めの方は探してまして。裏にこいつらを見つけて皆さんが来たら出そうと思ってポケットに入れておいたんですけど、席に座って窓辺を見ながら、万道さんの話を聞いていたらすっかり忘れてました」

軽くおどけながら、彼に羊羹の包装を剥がして渡す。

「あっ、ありがとうございます」

彼は私に椅子を差し出し、自分はベットに座った。

「改めて着任おめでとうございます。何気に海軍兵学校ぶりですかね?直接あったのは」

そこから私達は話をした。海軍兵学校から、今までは長い。話題にはことを欠かさなかった。
そうして、他愛もない話題を何時間をして―――

「ふふ、眠っちゃったか」

ここに来てから、緊張する場面が多かっただろう。
ただ、そんな緊張の糸が切れたのか、彼は眠っていた。
こっくりこっくりと座ったまま眠りにおちている、彼をベットに寝かせて、布団をかける。

「私も部屋に戻らないとか?」

といっても深夜も深夜……もう少しだけ時雨さんの寝顔を見て帰りましょうかね。
戦友のこんな顔見れることなんてないからね。
……それにいつ会えなくなるかも分からない。
ラバウルに来る前、出会った少女を思い出す。
確か名前は……。

「僕も、少し眠くなってきたな」

彼の寝顔を見ていたら少し、眠気がやってきて……気づいた頃には眠りに堕ちているのだった。
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