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いつの間にか気を失ったようだ。

「…サーラ、」

頭を撫でる感触と、名前を呼ぶ声に意識が浮上する。目を開けると、そこには心配そうな瞳で私を見つめる夫の顔があった。私と目が合うと、ホッとしたように息を吐いた。

「サーラ、良かった…ごめん、抑えられなくて、…カラダ、起こしていいか?」

背中に手を添えられた途端、ぐうっと何かがせりあがってきた。吐き気を必死に堪え、どうにかカラダを起こすと、ドロリと何かが股を伝う。

「う、え…っ」

慌てて口を抑え、ベッドから降りようとするとカラダが宙に浮いた。

「サーラ!?どうした、気持ち悪いのか!?トイレに、」

「じ、ぶんで、できま、す」

夫に触れられている部分が鳥肌がたつほどゾワゾワと気持ち悪い。カラダが震えてくる。

「寒いのか?すまない、意識を失ってしまったから風呂にも入れられなくて、…すぐ入れるから入ろう、サーラのカラダ、キレイにさせてくれ…ごめん、肌を傷付けたりして、」

「はな、して、ください、」

「…サーラ?」

押さえつけられ、無理矢理捩じ込まれ暴かれた恐怖がまざまざと蘇ってくる。何もできない、抵抗すらできない無力な自分に、何かがプツンと切れる音がした。

「こわい」

「サーラ、」

「こわい、たすけて、いや、」

「サーラ、俺を見ろ、サーラ、大丈夫だから、」

「いや、こわい、もう、いや、」

夫はさっと顔を青くすると、私を抱き上げたまま浴室に運び、そのまま浴槽に浸かった。

「サーラ、キレイにしよう。カラダが温まったら、何か食べよう」

「やだ、」

「サーラ、大丈夫だから」

また涙が出てくる。

「いたい」

「サーラ、もうしない」

「いたい」

「サーラ、ごめん、サーラ、」

芯から冷えきり固まっていたカラダがようやく温まってきたとき、心の痛みも少しだけ治まった。夫は後ろから私を抱きしめ、身動ぎもせず耳元で「ごめん、」「サーラ、ごめん、」と繰り返していた。

フウッ、と息を吐くと、夫の腕がビクリと揺れた。

「サーラ、大丈夫か、本当にすまなかった、」

「…わたくしは、旦那様が仰ったように、旦那様が好き勝手に虐げていい妻という存在です。如何様にもしてください。取り乱したりしてみっともないところをお見せしました。申し訳ございません」

夫の腕から逃れ、浴槽を出る。改めて自分のカラダを見ると酷い惨状だった。これにも、慣れなければ。夫がこのあとも私を気分のまま犯すことはありえるだろうし。

この人からの愛情が欲しいと、ブリジットではなく自分を見て欲しいと思っていた惨めな私は、夫に受けた暴力で粉々に壊れいなくなった。離縁して欲しいと思いながら、心のどこかで諦めきれず、乞い願う愚かな私は。

泡立てた石鹸を当てると思った以上に滲みた。この痛みにもいつか慣れる。心の痛みよりマシだ。

そんなことを考えながらカラダを洗い、髪の毛を先に洗えば良かったと苦笑いが洩れる私を、「サーラ」と夫が呼んだ。

「はい」

夫の顔を見ると、なぜかまだ青い顔をしている。

「どうされましたか」

「いや、あの、…サーラ、俺は君に酷いことを言った、申し訳ない、」

「酷いこと?何か仰いました?」

「俺が、好き勝手にしていい存在だなんて、」

私はニコリと笑ってみせた。

「それは酷いことではありませんわ」

「サーラ、」

ホッとしたように息を吐き、微笑む夫に笑顔で告げる。

「だって、本当のことですから。わたくしは旦那様にとって如何様にも扱っていい、妻という名の家畜でしょう?飼われている以上、義務は果たしますので。するべきことがあれば仰ってください。家畜は自分で判断できませんから」

一瞬で顔が強張る夫から目を逸らす。そうよ。そう思っていれば、どんな扱いをされても傷付いたりしない。だって、家畜は文句なんて言えないんだもの。どんな目に遭わされても。

シャワーを浴びて浴室を出るまで、浴槽に浸かったままの夫は何も言わなかった。私は、もう振り返らない。
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