13 / 91
婚約者
1
しおりを挟む
父の執務室の前で昨日のように深呼吸をしていると、中から父と、もう一人男性の話す声が聞こえてきてドキリとする。…ああ、今から顔合わせをするということか。それもそうだ。婚約祝いのパーティーだというのに、婚約者が誰かわからずのこのこ出ていくなんて、…いくら父がああいう感じであっても、そこまで抜けてはいなかったことにホッと胸を撫で下ろす。
そのままドアをノックし、「お父様、セシリアです」と声をかけると、一拍の沈黙の後、「入りなさい」と声が返ってきた。
「失礼します」
軽く一礼して顔を上げた先に、あり得ない光景があった。
「…え?」
隣に並ぶ父よりも身長が高く、肩幅もがっしりとしている。白い正装に身を包んだその男性は、王家特有の赤く煌めく短髪を無造作に撫で付け、これまた王家特有の黒い瞳を優しく和らげこちらを見ていた。
心臓が急激に拍動を始め、そのあまりの昂りに息が苦しくなる。この、方、は、
「はじめまして、…いや、正確には二回目なんだが、キミは覚えていないだろうな。やっと会えて嬉しいよ、セシリア嬢。俺はハロルド・オルコック、未来のキミの夫だ」
コツコツと近づいてきたハロルド殿下は、私の前にひざまずくと私の手をそっと取った。
「セシリア嬢、キミを生涯かけて愛し大切にする。俺の妻になってくれ」
見上げてくる黒い瞳に、吸い込まれそうになる。ウソだ、そんな、
「セシリア、殿下に失礼だぞ。ご挨拶もせず、」
「お父様、なんのご冗談なのですか、ハロルド殿下といえば王太子殿下でいらっしゃるのに、我が家に婿入りだなんて、」
すると、握っていた手をクイッと引かれ、「セシリア」と名前を呼ばれた。低く響く声に引っ張られる。
「…誰かと勘違いしているのか?俺は第一王子、ハロルド・オルコックだ。王太子ではない。まだ立太子は済んでいないが、王太子になるのは俺の弟の第二王子、エイサン・オルコックだ。まだ、我が国に王太子はいない」
…そんな。そんな、はずがない。だって、ハロルド殿下は10歳の時に立太子されたはず。そして王太子になられたはず。
「…なんで、」
急激に目の前が暗くなる。崩れゆくカラダを温かな腕が抱き留めてくれるのを感じた。
そのままドアをノックし、「お父様、セシリアです」と声をかけると、一拍の沈黙の後、「入りなさい」と声が返ってきた。
「失礼します」
軽く一礼して顔を上げた先に、あり得ない光景があった。
「…え?」
隣に並ぶ父よりも身長が高く、肩幅もがっしりとしている。白い正装に身を包んだその男性は、王家特有の赤く煌めく短髪を無造作に撫で付け、これまた王家特有の黒い瞳を優しく和らげこちらを見ていた。
心臓が急激に拍動を始め、そのあまりの昂りに息が苦しくなる。この、方、は、
「はじめまして、…いや、正確には二回目なんだが、キミは覚えていないだろうな。やっと会えて嬉しいよ、セシリア嬢。俺はハロルド・オルコック、未来のキミの夫だ」
コツコツと近づいてきたハロルド殿下は、私の前にひざまずくと私の手をそっと取った。
「セシリア嬢、キミを生涯かけて愛し大切にする。俺の妻になってくれ」
見上げてくる黒い瞳に、吸い込まれそうになる。ウソだ、そんな、
「セシリア、殿下に失礼だぞ。ご挨拶もせず、」
「お父様、なんのご冗談なのですか、ハロルド殿下といえば王太子殿下でいらっしゃるのに、我が家に婿入りだなんて、」
すると、握っていた手をクイッと引かれ、「セシリア」と名前を呼ばれた。低く響く声に引っ張られる。
「…誰かと勘違いしているのか?俺は第一王子、ハロルド・オルコックだ。王太子ではない。まだ立太子は済んでいないが、王太子になるのは俺の弟の第二王子、エイサン・オルコックだ。まだ、我が国に王太子はいない」
…そんな。そんな、はずがない。だって、ハロルド殿下は10歳の時に立太子されたはず。そして王太子になられたはず。
「…なんで、」
急激に目の前が暗くなる。崩れゆくカラダを温かな腕が抱き留めてくれるのを感じた。
53
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう
音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。
幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。
事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。
しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。
己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。
修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる