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ある出来事
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「…なんていうか。もう、意固地になってるようにしか見えないんですよね。王太子の座もむしろおこぼれなんだ、なんて、自虐的な言い方をしているようで。イーサンが、更に王太子に相応しくなくなってきて、ウザくて仕方ないと…覚悟もへったくれもない、赦しが出るならこの世からすぐにでも抹消するのに、とこぼしていました」
…なんて恐ろしいことをサラリと言うのだろうか、あの方は。冗談に聞こえないから困る。
「…俺も」
コンラッド様の手が、グッと握りしめられる。
「赦されるなら、エイサンを葬りたいです」
「…コンラッド様」
「…アデルは、…俺は、アデルを愛しています。我が家に来て、義理の妹となったときから可愛くて可愛くて…ひとりの女として見るようになるまで、そう時間はかかりませんでした」
今まで見たことがないコンラッド様の表情にドキッとする。アデル様を思う、男性の顔…。
「幸い、父も母も喜んでくれて。アデル本人がいいというなら、おまえの妻にしていい、ただし無理強いはダメだと。そうして過ごすうちに、アデルから、好きだと、言ってくれて嬉しくて、…それなのに」
「…エイサン殿下が、婚約者としてアデル様を選んでしまわれたのですね」
コクリ、と頷くコンラッド様の顔は、怒りに彩られていた。
「あいつは、権力にモノを言わせて…我が家では断ったんです。それなのに結局王命だと公布されてしまって…汚い手を使いやがって!卑怯者が!」
怒りでだろう、コンラッド様の肩がフルフルと小さく揺れる。アデル様との仲を引き裂かれたうえに、当のアデル様は健康を害するほどに追い詰められてしまっているのだ。その様子を見ていながら妻にしようとするエイサン様は、…やはり意固地になっているのかもしれない。そうなると、手放してはくれないだろう。みんなが不幸になる未来しかないのに、
(自分が諦めて不幸になるのだから、周りも引きずりこんでやる、という悪意しか感じられないわ…)
「…何も、お手伝いできなくて」
「そんなこと…むしろ、こんな話をしてしまって申し訳ないです。セシリア様に、何かしてもらおうとなんて思ってるわけではなくて…アデルの、友だちでいてやってほしいんです。御迷惑でしかないでしょうが、俺もアデルも、話を聞いてもらえるだけでありがたいんです。セシリア様はアデルを色眼鏡で見たりしない…本当に、ありがとうございます」
「…コンラッド様」
アデル様が、あの子爵令嬢だったことに間違いはない。本当なら、関わりなど持ちたくなかった。でも、前回とは違うのだ。ハロルド様も、コンラッド様も、アデル様も、そして、私も。私も、前回とは変わった。言うべきこと、聞くべきこと、そういうことから逃げなくなった。そう自負している。
「…前回のアデル様…子爵令嬢とは、たぶんどうあっても仲良くしたいとは思えなかったです。ずっと、見下されて、きましたし…王太子殿下に、愛されていて、お飾りでしかない私は、本当に、…惨めでした。だから、自らを殺めることにしたのです。もう、惨めな人生を終わらせたくて。コンラッド様、私は、王太子殿下が憎くて憎くて仕方がありませんでした。私を妃から外してくれず、お飾りにして自分は子爵令嬢を寵愛し、それを私に聞かせるような真似を…だから、アデル様のことがお気の毒で…」
状況は違えど、王家に無理強いされていることは同じだから。
…なんて恐ろしいことをサラリと言うのだろうか、あの方は。冗談に聞こえないから困る。
「…俺も」
コンラッド様の手が、グッと握りしめられる。
「赦されるなら、エイサンを葬りたいです」
「…コンラッド様」
「…アデルは、…俺は、アデルを愛しています。我が家に来て、義理の妹となったときから可愛くて可愛くて…ひとりの女として見るようになるまで、そう時間はかかりませんでした」
今まで見たことがないコンラッド様の表情にドキッとする。アデル様を思う、男性の顔…。
「幸い、父も母も喜んでくれて。アデル本人がいいというなら、おまえの妻にしていい、ただし無理強いはダメだと。そうして過ごすうちに、アデルから、好きだと、言ってくれて嬉しくて、…それなのに」
「…エイサン殿下が、婚約者としてアデル様を選んでしまわれたのですね」
コクリ、と頷くコンラッド様の顔は、怒りに彩られていた。
「あいつは、権力にモノを言わせて…我が家では断ったんです。それなのに結局王命だと公布されてしまって…汚い手を使いやがって!卑怯者が!」
怒りでだろう、コンラッド様の肩がフルフルと小さく揺れる。アデル様との仲を引き裂かれたうえに、当のアデル様は健康を害するほどに追い詰められてしまっているのだ。その様子を見ていながら妻にしようとするエイサン様は、…やはり意固地になっているのかもしれない。そうなると、手放してはくれないだろう。みんなが不幸になる未来しかないのに、
(自分が諦めて不幸になるのだから、周りも引きずりこんでやる、という悪意しか感じられないわ…)
「…何も、お手伝いできなくて」
「そんなこと…むしろ、こんな話をしてしまって申し訳ないです。セシリア様に、何かしてもらおうとなんて思ってるわけではなくて…アデルの、友だちでいてやってほしいんです。御迷惑でしかないでしょうが、俺もアデルも、話を聞いてもらえるだけでありがたいんです。セシリア様はアデルを色眼鏡で見たりしない…本当に、ありがとうございます」
「…コンラッド様」
アデル様が、あの子爵令嬢だったことに間違いはない。本当なら、関わりなど持ちたくなかった。でも、前回とは違うのだ。ハロルド様も、コンラッド様も、アデル様も、そして、私も。私も、前回とは変わった。言うべきこと、聞くべきこと、そういうことから逃げなくなった。そう自負している。
「…前回のアデル様…子爵令嬢とは、たぶんどうあっても仲良くしたいとは思えなかったです。ずっと、見下されて、きましたし…王太子殿下に、愛されていて、お飾りでしかない私は、本当に、…惨めでした。だから、自らを殺めることにしたのです。もう、惨めな人生を終わらせたくて。コンラッド様、私は、王太子殿下が憎くて憎くて仕方がありませんでした。私を妃から外してくれず、お飾りにして自分は子爵令嬢を寵愛し、それを私に聞かせるような真似を…だから、アデル様のことがお気の毒で…」
状況は違えど、王家に無理強いされていることは同じだから。
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