逆行厭われ王太子妃は二度目の人生で幸せを目指す

蜜柑マル

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なにかがはじまる

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「…先ほど、ホワイト家に婿入りと仰っていましたが、あの、…クリストファー殿下がご存知ないとは言いませんが、まさかわたくしに兄がいることは、」

「…うん。ごめんね。たぶん知らないと思う。ロゼリア嬢の兄上は、留学中だよね」

ロゼリア様は気の抜けたような顔になると、

「だからこそ、父もその、セシリア様の婚約者であるハロルド殿下のような方と思い合って結婚しなさいと言ったので…わたくしが家を継ぐならそんな勝手は赦されませんから…」

「そうだよね。ホワイト家に婿入りなんて、何を考えてるのやら…さっきの継承権放棄もまだ議会に図ってないはずだから。もし王家を出るなら一代限りで爵位を賜るか、どこかに婿入りするしかない。ロゼリア嬢の家には無理なんだから」

「…じゃあ、爵位をもらう。それならいいでしょ、ロゼリア」

ビクッと肩を震わせると、ロゼリア様は私に抱きついた。…可愛い。

「い、いやです、婚約者であることも、限られた方しか知りません、解消してください」

「やだけど」

「クリス、勝手に入ってくるな!」

ズンズンとこちらに向かってきたクリストファー様は、私をチラリと見ると、

「義姉上、ロゼリアから離れてください」

と抑揚のない声で告げる。怖い。

「…クリストファー、いい加減にしろ」

ハロルド様の低い声に、初めてクリストファー様が動揺したような顔に変わる。

「…兄上っ」

「ロゼリア嬢の言う通りだ。婚約者であることは形だけで、エイサンがいなくなりおまえは継承権を放棄した。ロゼリア嬢の家に婿入りはできない。なによりロゼリア嬢がおまえを拒絶しているんだ。婚約は解消するべきだ」

「いやだ!いやだ、いやです、なんで?ロゼリア、やだ、僕のこと嫌いなの?ねぇ、」

すがるようにロゼリア様を見つめるクリストファー様は、先ほどとうって変わって捨てられた子犬のようになった。

「…わたくしは、クリストファー殿下のことをなんにも知りません。事情があったからこそ結ばれた婚約です。その前提が消えたいま、婚約者でいる必要はありませんでしょう」

「僕は、僕のことが嫌いなの、って聞いたんだよ!」

「嫌いです」

「…え?」

ロゼリア様の言葉に呆然となるクリストファー様。みるみる顔色が悪くなる。

「…なんで、」

ロゼリア様はソファから立ち上がると、凛とした姿勢でクリストファー様に向き合った。

「…事情があったときのことは、仕方ないとして。今日の振る舞いは、とても赦されることではありません。ここは将来ハロルド殿下が婿入りされるとはいえ、ウッドベル侯爵家ですよ。そこに傍若無人にも乗り込み、セシリア様に挨拶すらなさらない。わたくしに兄がいることもご存知なかった。王子殿下でいらっしゃるのに…」

キッ、とクリストファー様を睨み付けたロゼリア様は、

「わたくしは、頭の悪い方、マナーも常識もない方がだいっきらいなのです。権力を傘にきた、理不尽を通そうとする方も同じくらいだいっきらいです」

…ヒル家の双子を言っているのだろう。

「わたくしは、尊敬できる方を伴侶に選びます。幸い、父も母も兄も、わたくしを追い出したりはいたしませんし。…婚約を解消してください。お願いいたします」

クリストファー様の瞳が潤んだかと思うと、涙が一気に溢れた。

「いやだ!ごめん、ごめんなさい、ロゼリア、やだ、僕、頑張るから、だから解消しないで!今日から、ロゼリア以外にも興味持つ!勉強もする、だから、」

「…お願いです、クリストファー殿下」

「やだ!権力を傘になんてきてない、理不尽…?キスしたから?ねぇ、もうしない、勝手にしたりしないから!たぶんしないから、」

…たぶんとは。ハロルド様を見ると、面白そうなものを見る顔になっていた。

「クリス、とりあえず帰るぞ」

「兄上!」

「シア、また来るね。ロゼリア嬢、後程ホワイト家に謝罪を入れる。俺に免じて納めてくれないだろうか」

「もちろんですわ、ハロルド殿下」

ありがとう、と微笑んだハロルド様は、クリストファー様を引き摺るように出ていった。
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