初夜すら私に触れようとしなかった夫には、知らなかった裏の顔がありました~これって…ヤンデレってヤツですか?

蜜柑マル

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私はユリアーナ・ジルコニア、20歳。…今日が20歳の誕生日。そして今日は、私と夫、フェルナンド・ジルコニアの一年目の結婚記念日でもある。

私と夫フェルナンドは、17歳の時に婚約した。フェルナンドは、ジルコニア侯爵家の嫡男。私はホランド伯爵家の長女。ホランド家は私の兄が継ぐことになっている。

フェルナンドの父、ジルコニア侯爵はフェルナンドが幼い時に妻を亡くし、母のない子どもは不憫だと連れ子のいる未亡人と再婚することにした。家督争いが起こる可能性を限りなくゼロにするため連れ子は女の子であること、子どもを育てるための契約結婚であり、子どもを新しくは作らないこと、万が一にもフェルナンドに対する虐待…それがたとえ軽度のものでも侯爵が虐待と認めた場合には慰謝料を払わせ離縁すること、など最愛の息子を立派な男に育て上げるための土台を作り上げた。もちろん教育には自ら携わり、フェルナンドは文武両道を地で行く男になった。

義母となったシャーロット侯爵夫人は非の打ち所のない淑女であった。夫となったジルコニア侯爵の心に寄り添い、愛と厳しさを持ってフェルナンドを強く公正な男に育て上げた。ただその娘のアマンダは、シャーロット侯爵夫人が離縁したという元夫にそっくりな異性好きの奔放な女に育った。フェルナンドと同じように手をかけて育ててきたはずなのに。

年頃になるとアマンダはフェルナンドに妹以上の感情を持たせたいと考えるようになった。自分とはしょせん義理の兄妹であり結婚してもなんの不都合もない。むしろ次期侯爵夫人になれると、隙あらばフェルナンドにベタベタと触れ歩いていたらしい。ただしその他にも男が常に隣にいる。私がフェルナンドと婚約したと聞いた親友のスーザンがとても心配そうに話してくれた。

「義妹と言っても誕生日でそう決まっただけでわたくしたちと同じ学年でしょ。ユリアーナ、あなた、あのアバズレ…失礼、あの奔放な女を知らなかったの?」

「ええ、特には」

スーザンはため息をつくと、「あなたは薬草にしか興味がないものねぇ」と仕方がなさそうに微笑んだ。

我がホランド伯爵家は元々薬学を修める家系であり、薬師として国王を助けた何代か前の当主が爵位を賜った新興名ばかり貴族だ。ジルコニア侯爵領にはこの数年、質のいい薬草の数々が自生するようになりお互いの利益のために結ばれた婚約であったし、私自身はスーザンが言うように学園に通っていても特に交流などは持たず、ひたすら本を読みひたすら与えられた研究室に籠っていたから、アマンダどころかフェルナンドのことも知らなかった。学園で一、二を争う美丈夫だと褒め称えられるフェルナンドのことを。

それを聞いた時のスーザンの顔は忘れられない。

「…ユリアーナ、婚約したことはなるべく黙っていたほうがいいわ」

「ええ、そう言われたわ」

「…誰に?」

「フェルナンド・ジルコニア様に」

「え…?」

婚約を結ぶため侯爵領を訪れた我が家族は、侯爵領の薬草の素晴らしさに浮き足だっていた。なんとか理性を保っている母でさえ、帰りにチョイ、と自分が大好きな大好きな毒薬に姿を変える花を手にしていた。この花はそのままなら無害であり、かなりの手を加えないと毒にはならないから、ただ咲いているだけなら可憐で人々の目を楽しませてくれる存在にすぎない。

薬草の変態である父と兄、そして自分は違うと思っているが周りには一様に否定しても首を振られる同じく変態だという私は、理性など吹き飛んでいた。侯爵家の庭に自生する鎮静剤に姿を変える…これももちろんそのままならば無害である…薬草を見つけて、その場で観察を始めてしまった。

ジルコニア侯爵が夫人を伴ってフェルナンドを連れて入室してきた時、我々3人はあちこち草だらけだった。ジルコニア夫妻は楽しげに笑っていたが、フェルナンドは凍てつくような瞳で私を見ていた。

「お義兄様!」

ノックもなしに入ってきた少女…アマンダを抱き留めたフェルナンドの瞳は、とたんに柔らかくなった。夫妻がたしなめても、「いいではありませんか」と丁寧に自分の隣に座らせた。手こそ繋いでいなかったが、雰囲気は相手を想い合う恋人同士のものだった。

ふたりで少し話しては、と言われ庭を散策することになったとき、フェルナンドは開口一番こう言った。

「俺は家同士の結び付きのために仕方なく婚約を受け入れる。政略結婚の相手に愛など求めないでくれ」

私自身、薬草のために婚約するようなものだったからそれは仕方がないと思ったものの、初対面でそんなことを平気で言い捨て歩み寄ろう、私を知ろうとしないフェルナンドの態度にガッカリした。できることなら、愛はなくとも両親のように仲良く楽しく生活していきたいと思っていたから。

そして彼は続けてこう言ったのだ。

「俺はキミのような女と婚約したなどと知られたくない。恥だ。絶対に誰にも言うな。学園でもし会うことがあっても話しかけるな。夜会などもエスコートするつもりはない、俺はアマンダをエスコートしなくてはならない。卒業パーティーもそのつもりで」

そしてそれはその通りに実行された。アマンダは勝ち誇った顔で私を嘲る瞳で見ていた。フェルナンドは視線すらこちらに向けなかった。私は婚約者がいながら、…いると知っていたのは当事者以外はスーザンだけだっただろうけど…ひとり寂しく卒業パーティーを終えた。

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