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「わたしのこの髪…これはね、母が首を吊って自殺した、その姿を見てしまったショックでこんな色に…真っ白になってしまったんです」
自殺、
「お母様はなぜ、」
「わたしの母も、わたしと同じ…まあ、わたしが同じですね。マジナイを使える人だったんです。元々住んでいたソルマーレ国からアミノフィア国に来ることになったのは、母がお金のために本来ならするべきではなかったことをしてしまったからなんです」
「するべきではなかったこと…?」
サフィールドさんは「ええ」と頷くと、
「マジナイは、人が幸せになるために使うべきものです。母は常々そう言っていた。わたしは幼いながらもマジナイの力が強かったので、たぶんそうやって教えてくれようとしていたんでしょうね。誰かを苦しめたり、不幸にするために使うべきではない、せっかく授かった力を他人の幸せのために使うべきだと」
「…素敵な考え方だと思います」
ふ、と微笑んだサフィールドさんは、「わたしもそう思う」と言ったあと、
「母は生活のために、その自らの信念を曲げてしまった。幸せのために使うべき自分の力で、ある人を不幸にしてしまったそうです。母は一生困らないくらいのお金を手にし、アミノフィア国に戸籍も作ってもらいあちらを出てきたそうです。でも、良心の呵責に耐えられなかったのでしょうね。ある日突発的に首を吊って死んだ」
サフィールドさんの瞳が昏く揺らめく。この人は幼い時に、そんなツラい経験をさせられたんだ…。
「おかげさまで、お金に困ることはなかったけれど、母が死ぬほど苦しんだ、その苦しめてしまった相手、せめてその人には幸せになって欲しいと毎日毎日祈りました」
目を伏せるサフィールドさんに、そっと声をかける。
「…どんなマジナイだったのか、誰にかけたのかを聞いたのですか」
サフィールドさんは、「ええ」と頷くと、とたんに晴れやかな顔になった。
「…わたしの祈りが通じたとは言いませんが、奇跡的に母のかけたマジナイが解けたのです。これで母も浮かばれると思います。本当に、本当に良かった…」
サフィールドさんはそれ以上話すつもりがないようなので、私も聞かないことにした。少しでもサフィールドさんの気持ちが軽くなったのなら、それで良かったと思う。
「わたしがフェルナンド君の依頼を受けてあの指輪を作ったのも、フェルナンド君とユリアーナさんが幸せになると思ったからなんだけど、フェルナンド君の抱える事情が複雑すぎてうまくいかなかったのかなぁ…でも、役にはたったと思うよ。フェルナンド君の話を聞く時に、どんなマジナイだったのか聞いてみて。わたしは教えてあげられないから」
コクリと頷いてみせると、サフィールドさんはホッとしたように微笑んだ。
「それで…これからユリアーナさんはどうするの?まだフェルナンド君と顔を合わせたくないなら帰りたくないでしょう?ご実家に帰っても、たぶんすぐにフェルナンド君が来ちゃうよ」
「そうですよね…」
サフィールドさんのマジナイでここ、アミノフィア国に来てしまったが、アミノフィア国に知り合いはいない。かと言ってサフィールドさんのところにいるわけにもいかないし…。
「さっきユリアーナさん、ソルマーレ国はお母さんの出身地だと言ってたけど、そちらに親戚はいないの?」
とサフィールドさんに聞かれてハッとする。
「母の実家が…今は母のお兄さん、私の伯父ですが、その方が跡を継いでいて、何度か遊びに行ったこともあります」
母の実家も薬草大好き一族で、それが縁で母は父のところに嫁いできたのだ。母の実家は子爵家で、薬草を効率的に栽培する手法を研究している。温室の中に入った時の薬草のクセのある匂いを思い出し、思わず顔が綻ぶ。
「それなら、そちらにお邪魔してみたらどうかな?急で驚かれるだろうけど、良かったらわたしが送るよ。場所さえ教えてもらえれば」
母の実家の場所を説明すると、「じゃあ行こうか」と手を取られ、次の瞬間には母の実家の前に立っていた。
自殺、
「お母様はなぜ、」
「わたしの母も、わたしと同じ…まあ、わたしが同じですね。マジナイを使える人だったんです。元々住んでいたソルマーレ国からアミノフィア国に来ることになったのは、母がお金のために本来ならするべきではなかったことをしてしまったからなんです」
「するべきではなかったこと…?」
サフィールドさんは「ええ」と頷くと、
「マジナイは、人が幸せになるために使うべきものです。母は常々そう言っていた。わたしは幼いながらもマジナイの力が強かったので、たぶんそうやって教えてくれようとしていたんでしょうね。誰かを苦しめたり、不幸にするために使うべきではない、せっかく授かった力を他人の幸せのために使うべきだと」
「…素敵な考え方だと思います」
ふ、と微笑んだサフィールドさんは、「わたしもそう思う」と言ったあと、
「母は生活のために、その自らの信念を曲げてしまった。幸せのために使うべき自分の力で、ある人を不幸にしてしまったそうです。母は一生困らないくらいのお金を手にし、アミノフィア国に戸籍も作ってもらいあちらを出てきたそうです。でも、良心の呵責に耐えられなかったのでしょうね。ある日突発的に首を吊って死んだ」
サフィールドさんの瞳が昏く揺らめく。この人は幼い時に、そんなツラい経験をさせられたんだ…。
「おかげさまで、お金に困ることはなかったけれど、母が死ぬほど苦しんだ、その苦しめてしまった相手、せめてその人には幸せになって欲しいと毎日毎日祈りました」
目を伏せるサフィールドさんに、そっと声をかける。
「…どんなマジナイだったのか、誰にかけたのかを聞いたのですか」
サフィールドさんは、「ええ」と頷くと、とたんに晴れやかな顔になった。
「…わたしの祈りが通じたとは言いませんが、奇跡的に母のかけたマジナイが解けたのです。これで母も浮かばれると思います。本当に、本当に良かった…」
サフィールドさんはそれ以上話すつもりがないようなので、私も聞かないことにした。少しでもサフィールドさんの気持ちが軽くなったのなら、それで良かったと思う。
「わたしがフェルナンド君の依頼を受けてあの指輪を作ったのも、フェルナンド君とユリアーナさんが幸せになると思ったからなんだけど、フェルナンド君の抱える事情が複雑すぎてうまくいかなかったのかなぁ…でも、役にはたったと思うよ。フェルナンド君の話を聞く時に、どんなマジナイだったのか聞いてみて。わたしは教えてあげられないから」
コクリと頷いてみせると、サフィールドさんはホッとしたように微笑んだ。
「それで…これからユリアーナさんはどうするの?まだフェルナンド君と顔を合わせたくないなら帰りたくないでしょう?ご実家に帰っても、たぶんすぐにフェルナンド君が来ちゃうよ」
「そうですよね…」
サフィールドさんのマジナイでここ、アミノフィア国に来てしまったが、アミノフィア国に知り合いはいない。かと言ってサフィールドさんのところにいるわけにもいかないし…。
「さっきユリアーナさん、ソルマーレ国はお母さんの出身地だと言ってたけど、そちらに親戚はいないの?」
とサフィールドさんに聞かれてハッとする。
「母の実家が…今は母のお兄さん、私の伯父ですが、その方が跡を継いでいて、何度か遊びに行ったこともあります」
母の実家も薬草大好き一族で、それが縁で母は父のところに嫁いできたのだ。母の実家は子爵家で、薬草を効率的に栽培する手法を研究している。温室の中に入った時の薬草のクセのある匂いを思い出し、思わず顔が綻ぶ。
「それなら、そちらにお邪魔してみたらどうかな?急で驚かれるだろうけど、良かったらわたしが送るよ。場所さえ教えてもらえれば」
母の実家の場所を説明すると、「じゃあ行こうか」と手を取られ、次の瞬間には母の実家の前に立っていた。
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