初夜すら私に触れようとしなかった夫には、知らなかった裏の顔がありました~これって…ヤンデレってヤツですか?

蜜柑マル

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サフィールドさんはマジマジと私を見つめ、

「…やっぱりユリアーナさんだ」

と呟き、私の手に握られた石を見た。

「…指輪、」

「え?」

「指輪、壊れちゃったの?」

その言葉にサッと左手に視線が動いてしまう。半年着けていた指輪はもうない。皮膚がほんのり白くなっているだけだ。

「せっかく作っていただいたのに、」

「いいんだよ。ええと、…指輪が壊れた時、何があったの?」

その時の光景を思い出して胸がズキリとするが、なんとか声が震えないようにしてサフィールドさんに説明をした。

「…キスしちゃった、っつーか、されちゃったんだ。フェルナンド君、バカだねぇ。その女…アマンダ、って言ったっけ?アマンダがカラダに絡み付いてたのに、隣で喋ってたのに、フェルナンド君は眠ってたの?」

「…はい、たぶん。まったく反応していませんでした。私の指輪が壊れて、夫の…フェルナンド様の指輪も壊れて、壊れる時に指に衝撃が走りましたけどそれで目を覚ましたのだと思います。びっくりした顔をしていましたから」

「そうなんだ…」

サフィールドさんはそう呟くと、

「ユリアーナさん。わたしはフェルナンド君と契約したから、指輪について話すことはできないの。それは許して欲しい」

「大丈夫です、もう離縁するわけですし、」

「ただ、これだけは言っておきたいんだけど、フェルナンド君はいろんな事情を背負ってるの。まだ話してない、って言ってたし、そのうちのどこまでをユリアーナさんに話すつもりなのかはわからないけれど、とにかくフェルナンド君の話を聞いてあげて欲しい」

サフィールドさんの真剣な瞳に心が揺らぎそうになる。でも、

「でも、フェルナンド様はアマンダが好きなんです」

「…それは、フェルナンド君が間違いなくユリアーナさんにそう言ったの?『俺はアマンダが好きだ、愛してる』って」

そう言われて思い返してみると、「おまえのような女と結婚するのは」とは言われたけれど、面と向かって「おまえが嫌いだ」と言われたことはなく、「俺はアマンダが好きだ」とか、「アマンダと結婚したかった」と言われたこともなかったことに気づく。私の手を撫でる、あの丁寧な仕草を思い出す。あの人は、いったい何を隠していたのだろう?「まだ話していない」って、…なんで、話してくれなかったんだろう。

「…でも、そういう態度で、」

「とにかく、事情は話せない。けど、話は聞いてやって欲しい」

ドアを蹴り開けて入ってきたフェルナンド様の必死な顔を思い出す。「俺の話を聞いてくれ」と言っていた…、あの時は感情が高ぶりすぎて動悸が激しくて、息も苦しくて…でも、「離縁はイヤだ」とも言っていた。あんなに「指輪が割れたら離縁する」って言っていたのに。

「サフィールドさん、私、…でもでもばっかり言って情けないんですけど、でも、いま、フェルナンド様と顔を合わせたくないんです。冷静に話を聞けないと思うんです…」

裸で抱き付かれているあの姿が頭から離れない。私は一度も、妻なのに一度も、フェルナンド様と抱きあったこともなく、抱き締められたこともないのに。…なんで、こんな風に思わなくちゃいけないの。自分の説明がつかない感情に困惑する。

「そうだね。それは仕方ないと思う。たぶんフェルナンド君も冷静じゃないだろうし、少し時間を置いたほうがいいだろうね」

ところで、

「あの、ここはどこなんでしょう?」

「ここはね、アミノフィア国だよ。わたしはアミノフィア国の人間なんです、戸籍上は」

「本当は違うのですか?」

「うん…わたしは、母とふたりで暮らしていたんだけど小さい時はソルマーレ国にいたんです」

ソルマーレ国…。

「ソルマーレ国は、私の母の出身地です」

「そうなんだね。わたしは、小さい時にこちらに来たので、どんなところだったかあまり覚えてなかったのだけれど」

「今は、おひとりなのですか」

「うん。母は亡くなったから」

哀しみの色が浮かんだ瞳に不躾な自分の質問が恥ずかしくなる。

「…申し訳ありません、」

「いいんだよ。事実なんだから。…少し、わたしの話を聞いてくれますか」

サフィールドさんは私に椅子を勧めてくれると、お茶を準備してくれた。

あの指輪を作る時に一度、しかも短時間会っただけの人なのに、なぜだかサフィールドさんを警戒する気持ちは起きなかった。「カギをかけろ、相手を確認するまで開けるな、夜は部屋から出るな」と煩く言い続けたフェルナンド様には「無防備すぎる、バカが」と吐き捨てられるかもしれない…、…なんでフェルナンド様が出てくるのよ。あんな酷いこと言う男…裸で別な女と寝ているような男…なのに…。

自分の気持ちの揺れに少なからず動揺する。私はまだ、フェルナンド様を思い切れないでいるのか。

毎日握られていた右手をそっと見る。いつもなぜかフェルナンド様の手は冷たかった。暑い夏場でさえも。その感触を思い出し、また胸がツキリと痛む。慈しむように触れるあの手を。

「どうぞ」

ハッと顔を上げると、サフィールドさんが対面に腰をおろし、目の前には湯気のあがるカップが置かれていた。

「ありがとうございます」

とてもいい香りがする。見たことのない、緑色の透明な液体。

「それは、緑茶という飲み物です。元々はジャポン皇国の特産品なんだけど、ソルマーレ国の王太子妃殿下が輸入し始めて、向こうでいただいたときに美味しくて自宅用に買ってきたの」

「向こうで…?」

「うん。あの指輪を作った時に、旅行から戻ったばかりという話をしたと思うんだけど、あれは、ソルマーレ国から帰ってきた時だったんです。少し、昔話をしますね」
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