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どこかにつながる番外編
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その夜、伯父はお客様を伴って帰ってきた。緑色の髪の毛に赤い瞳の細身の女性と、なぜか昼間に会ったフェルナンド様の弟のイアン様だ。
「はじめまして、フェルナンド・ジルコニアです。ユリアーナが大変お世話になりました。…アネットさん、ご無沙汰しております。イアンがお世話になっております」
フェルナンド様は、伯父とその女性にペコリと頭を下げた。
「フェルナンド様、ご結婚おめでとうございます。可愛らしい奥さまですね。はじめまして、私はソルマーレ国王家に使えるアネット・シモンズと申します。今日は突然お邪魔いたしまして」
「ユリアーナ・ジルコニアです」
アネットさんが頷くのを見て、「イアン、おまえなんでいるんだ」とフェルナンド様が視線を移した。イアン様はイヤそうな顔になり、そのまま下を向くと絞り出すように言った。
「…兄上にお願いがあって参りました」
「…お願い?」
とりあえず座って、という伯母の声で客間に移動する。移動する間も、フェルナンド様は手を繋いできた。スリスリされて手からドキドキが全身に伝わる。抗議のつもりで見上げると、甘い瞳で「ん?」と返された。差が激しすぎてついていけない。今までのフェルナンド様は確かに冷たくてイヤだけど、落差がありすぎる。徐々に慣らしてもらえないものか。
ソファに座ると、アネットさんがこちらをじっと見た。
「ユリアーナ様は、薬草並びに製薬に造詣が深いそうですね」
「…はい、少しですが、」
すると伯父が、
「実はソルマーレ国の第一王女殿下が、ユリアーナがこちらに来ていることをお知りになって、ぜひとも会いたいと仰っているんだ」
「私に?なぜですか?」
「第一王女殿下は、アリス・エヴァンス様と申されまして、大変ご聡明でいらっしゃるのですが…女性がより快適に過ごせるようなお薬を開発することはできないかと考えておいでで」
快適に過ごせる…?
「それは、」
「例えばですが、生理痛を抑える、緩和するお薬が作れないかと」
「生理痛…?その、第一王女殿下は、生理痛が酷くていらっしゃるのですか?」
アネットさんは首を横に振ると、
「いいえ。アリス様はまだ生理を迎えてはおりません。今、11歳です」
「なぜ生理、」
その時ハッ、となり思わずフェルナンド様を見ると、なんとも言えない微妙な顔をしていた。…あれはなんの顔なんだろう。
「…生理を迎えていらっしゃらないのに、生理痛を緩和したいとは、」
「ユリアーナ様は、我が国の王太子妃をご存知ですか」
「いえ…不勉強で申し訳ありません」
アネットさんはニコリとすると、「それが普通です。他国のことなのですから」と言って、
「王太子妃殿下…ソフィア様、と仰るのですが、ソフィア様は少し変わった知識をお持ちでして。アリス様が5歳の時に、生理についてお話をしたのだそうです」
「5歳の女の子に、ですか…?」
「ええ。出血する、などの詳細ではなく、ですが。アリス様はその話を聞いて、女性のカラダについて興味を持たれ…その後、ソフィア様のご出産などもありまして、女性のカラダの変化について国を挙げて教育をするべきだと」
教育…?
「…話が逸れてしまいましたが、我が国ではなかなか製薬まで結び付くことができず、今回、ユリアーナ様のお話をお聞きして是非にもお会いしたいと」
「…私で、お役に立てるのでしたら」
アネットさんはまたニコリとすると、「ありがとうございます。では、明日にでもいらしていただけませんか、王宮に」
…明日!?
「そ、え、…そんな急にお伺いして、」
「アリス様のご希望ですから。フェルナンド様もご一緒にどうぞ」
「もちろんご一緒します」
…フェルナンド様、言葉がおかしいです。
するとイアン様が、
「兄上。その場に、私もご一緒させていただきたいのです。お願いいたします」
「…おまえが?なんで?おまえはユリアーナと…いや、俺のリアを狙っているのか?」
…何を…。なぜいきなりトンチンカンなことを言い出すのだろう。フェルナンド様、学園での成績、かなり良かったはずなのに…?
「兄上、昼間の会話をもうお忘れなのですか。できることならこの場で頭に衝撃を与えてやりたいくらいですが、皆様の前なので控えます。僕がユリアーナ様に懸想するわけがないとお話致しましたよね。は、や、く、お、も、い、だ、し、て、く、だ、さ、い」
ものすごい圧力を感じるがフェルナンド様はまったく平気な様子で首をかしげ、「…ああ」と頷いた。
「アネットさん、こいつも同席させていいですか」
「身元がハッキリしていますから大丈夫です。では明日、王宮にいらしてください。イアン様は我が家から出しますので。ユリアーナ様、よろしくお願いいたします」
「は、はい」
私の返事を聞いたアネットさんは、「では、お邪魔いたしました」とイアン様を伴い出て行った。…私、大丈夫かな。なんか粗相とかしちゃったらどうしよう…!
悶々としながら味のわからない夕飯をいつの間にか終え、いつの間にか入浴も終え、ハッと気づいたらベッドの上でフェルナンド様に抱き込まれていた。
「…え!?」
「リア、大丈夫か?ずいぶん上の空だったけど」
…いつの間にこんなことになってたの。
「フェ、」
「大丈夫だよ、リア。何にもしないから。抱っこして寝るだけ。ね?」
そう言ってフェルナンド様は妖しい笑みを浮かべた。…イヤ~!またジゴロフェルナンド様がぁ~!
「あとは、ちょっと口づけするね。あちこちに」
「明日、明日、大事な…っ」
「馬車で寝て行けばいいから大丈夫。俺の膝の上なら快適に寝れるよ」
…そんなわけない。
【番外編・了】
「はじめまして、フェルナンド・ジルコニアです。ユリアーナが大変お世話になりました。…アネットさん、ご無沙汰しております。イアンがお世話になっております」
フェルナンド様は、伯父とその女性にペコリと頭を下げた。
「フェルナンド様、ご結婚おめでとうございます。可愛らしい奥さまですね。はじめまして、私はソルマーレ国王家に使えるアネット・シモンズと申します。今日は突然お邪魔いたしまして」
「ユリアーナ・ジルコニアです」
アネットさんが頷くのを見て、「イアン、おまえなんでいるんだ」とフェルナンド様が視線を移した。イアン様はイヤそうな顔になり、そのまま下を向くと絞り出すように言った。
「…兄上にお願いがあって参りました」
「…お願い?」
とりあえず座って、という伯母の声で客間に移動する。移動する間も、フェルナンド様は手を繋いできた。スリスリされて手からドキドキが全身に伝わる。抗議のつもりで見上げると、甘い瞳で「ん?」と返された。差が激しすぎてついていけない。今までのフェルナンド様は確かに冷たくてイヤだけど、落差がありすぎる。徐々に慣らしてもらえないものか。
ソファに座ると、アネットさんがこちらをじっと見た。
「ユリアーナ様は、薬草並びに製薬に造詣が深いそうですね」
「…はい、少しですが、」
すると伯父が、
「実はソルマーレ国の第一王女殿下が、ユリアーナがこちらに来ていることをお知りになって、ぜひとも会いたいと仰っているんだ」
「私に?なぜですか?」
「第一王女殿下は、アリス・エヴァンス様と申されまして、大変ご聡明でいらっしゃるのですが…女性がより快適に過ごせるようなお薬を開発することはできないかと考えておいでで」
快適に過ごせる…?
「それは、」
「例えばですが、生理痛を抑える、緩和するお薬が作れないかと」
「生理痛…?その、第一王女殿下は、生理痛が酷くていらっしゃるのですか?」
アネットさんは首を横に振ると、
「いいえ。アリス様はまだ生理を迎えてはおりません。今、11歳です」
「なぜ生理、」
その時ハッ、となり思わずフェルナンド様を見ると、なんとも言えない微妙な顔をしていた。…あれはなんの顔なんだろう。
「…生理を迎えていらっしゃらないのに、生理痛を緩和したいとは、」
「ユリアーナ様は、我が国の王太子妃をご存知ですか」
「いえ…不勉強で申し訳ありません」
アネットさんはニコリとすると、「それが普通です。他国のことなのですから」と言って、
「王太子妃殿下…ソフィア様、と仰るのですが、ソフィア様は少し変わった知識をお持ちでして。アリス様が5歳の時に、生理についてお話をしたのだそうです」
「5歳の女の子に、ですか…?」
「ええ。出血する、などの詳細ではなく、ですが。アリス様はその話を聞いて、女性のカラダについて興味を持たれ…その後、ソフィア様のご出産などもありまして、女性のカラダの変化について国を挙げて教育をするべきだと」
教育…?
「…話が逸れてしまいましたが、我が国ではなかなか製薬まで結び付くことができず、今回、ユリアーナ様のお話をお聞きして是非にもお会いしたいと」
「…私で、お役に立てるのでしたら」
アネットさんはまたニコリとすると、「ありがとうございます。では、明日にでもいらしていただけませんか、王宮に」
…明日!?
「そ、え、…そんな急にお伺いして、」
「アリス様のご希望ですから。フェルナンド様もご一緒にどうぞ」
「もちろんご一緒します」
…フェルナンド様、言葉がおかしいです。
するとイアン様が、
「兄上。その場に、私もご一緒させていただきたいのです。お願いいたします」
「…おまえが?なんで?おまえはユリアーナと…いや、俺のリアを狙っているのか?」
…何を…。なぜいきなりトンチンカンなことを言い出すのだろう。フェルナンド様、学園での成績、かなり良かったはずなのに…?
「兄上、昼間の会話をもうお忘れなのですか。できることならこの場で頭に衝撃を与えてやりたいくらいですが、皆様の前なので控えます。僕がユリアーナ様に懸想するわけがないとお話致しましたよね。は、や、く、お、も、い、だ、し、て、く、だ、さ、い」
ものすごい圧力を感じるがフェルナンド様はまったく平気な様子で首をかしげ、「…ああ」と頷いた。
「アネットさん、こいつも同席させていいですか」
「身元がハッキリしていますから大丈夫です。では明日、王宮にいらしてください。イアン様は我が家から出しますので。ユリアーナ様、よろしくお願いいたします」
「は、はい」
私の返事を聞いたアネットさんは、「では、お邪魔いたしました」とイアン様を伴い出て行った。…私、大丈夫かな。なんか粗相とかしちゃったらどうしよう…!
悶々としながら味のわからない夕飯をいつの間にか終え、いつの間にか入浴も終え、ハッと気づいたらベッドの上でフェルナンド様に抱き込まれていた。
「…え!?」
「リア、大丈夫か?ずいぶん上の空だったけど」
…いつの間にこんなことになってたの。
「フェ、」
「大丈夫だよ、リア。何にもしないから。抱っこして寝るだけ。ね?」
そう言ってフェルナンド様は妖しい笑みを浮かべた。…イヤ~!またジゴロフェルナンド様がぁ~!
「あとは、ちょっと口づけするね。あちこちに」
「明日、明日、大事な…っ」
「馬車で寝て行けばいいから大丈夫。俺の膝の上なら快適に寝れるよ」
…そんなわけない。
【番外編・了】
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