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第二章

ジェライト③

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いくら飛べるにしても、4時には立ってないとダメなら、3時には起きてたほうがいい。ましてや今朝までジェライトにやられてまともに寝てない。

アズ姉上への説明が済み、セグレタリー国に行かなくなった俺は、まだ18時だが寝ることにした。

次の朝、なんとか目覚めてシャワーを浴びる。昨日ジェライトに言われた自分のカラダをじっと見る。

「自分にすら関心ねぇのか」

確かにそうだ。ジェライトのことばっかり考えて、…え、俺、ジェライトが好きなの?

朝4時に出てきたジェライトに言ったら、「バカか!死ね!」と朝いちで言われた。

「だって、」

「いや、あんた、自分が努力しないのにプライドばっかり高くて、そのジレンマコンプレックスを解消するために俺を敵対視してたんだろ。あんた、俺とキスしたいか?」

「無理だ。したくない。ジークハルト様ではないが、吐きそうだ」

「俺もだ。俺はアキラさんにしかしたくないし、されたくもない」

「昨日から、あまりにもいろんなことがありすぎて頭が…」

「大丈夫だ、元々バカなんだから」

「確かにそうだ」

「素直じゃん。それと、さっきみたいに言うのはいいことだよ」

「え?」

「自分の考え。俺のこと好きなのかな、って」

「そうなのか…」

「ひとりで悶々考えるからどんどんコンプレックスがデカくなるんだよ。あんた、体も動かさないから余計に内に溜まるんじゃないの」

「体を動かす?」

「運動しないだろ。俺は3歳から訓練してきたから、かなり動いた」

「え、でも、移動できるのに」

「あのさ。移動できても、立ってんのは自分の脚。それで支えてる体が重くなってきたりした時に、あんたの脚、折れるよ」

「…そんなこと考えたことなかった」

「バカなのに、勉強もせず、女遊びなんかしてるからだ。結局、好きになったのは男だし」

「…好きかわからん」

「でも、射精しただろ。頭で考えるより、カラダが求めちゃってるんだよ、あんた。リアムのことを」

ジェライトはそういうと、「つーかさ。俺、昨日、走るって言わなかった?」

「え?」

「なんだよ、その靴!」

「だって、スニーカーとか持ってない」

「早く言えよ、バカ!」

ジェライトは呆れたような顔になり、

「ま、初日から走るのも無理か。あんた、今日の予定は」

「ない」

「だよな、なんにもしないで怠惰な生活送ってるんだから」

「すまん」

「とりあえず、ストレッチやるぞ」

「え?」

「体、動かす準備だよ!いきなり走ったりしたら、腱切れたりすんだよ!今日は走らねぇけど、とにかく準備運動やれ!学校でやっただろ!」

「体育はサボりだ」

「死ね!」

散々罵倒されながら、ジェライトの見よう見まねで準備運動をする。

「ジェライト」

「なんだ」

「おまえ、毎日こんなことやってんの」

「当たり前だろ」

「だって、部隊に入ってて、部隊でも訓練あるじゃん」

「あのさ。俺、副隊長なんだよ。そして、準王族なの」

「副隊長はわかるけど、準王族って、」

「身分が上ってだけで、実力がなかったら忖度で副隊長になったって思われるだろ。
頭おかしくても父上、団長だし。王族の方々とも知り合いなんだぞ、俺。俺が副隊長になりたかったのは、団長室に入る許可証が必要だったからなの。アキラさんが、団長付き秘書官だから、会いに行きたくて」

「…一緒に住んでるのに?」

「ずっと一緒にいたいんだよ」

怖い。

「でも、仕事あるし。アキラさん、そういうとこ厳しいから。お昼ご飯とか一緒に食べたいし、だから、頑張ってんだよ。なんでも」

「そうなのか…」

「あんたもこうなるよ」

「いや、ならないだろ」

「無意識射精バカ男が何言ってやがる!」

「変なあだ名つけないでくれ」

「あだ名じゃない、本名にしろ」

「それこそ捕縛対象だろ!」

「まぁ、さ。やっかみとかあっても、グズグズ言わせないために、努力を続けるわけ、俺は。アキラさんにも好きだって思ってもらえるように」

「でも、おまえのこと好きだろ、一緒に住んでるんだし」

「…少し歩くか」

ジェライトはスタスタ歩きだした。俺も後に続く。すぐに息が切れる。

「…ほんと、ダメ王子だな、あんた」

「今日から頑張る。許してくれ」

「そう言えるようになっただけ良しとするか」

ジェライトは、振り返り、俺をじっと見つめた。

「…なんだ?」

「あんた、さっきさ。アキラさん、俺のこと好きだろ、って言っただろ」

「あぁ」

「でもさ。人の心なんて目に見えないだろ?アキラさんは、確かに俺と一緒にいてくれるけど、本当はイヤだったんじゃないかって。俺が、自分の勝手な我儘のためにアキラさんの人生を変えちゃって、…本当は、俺のこと、憎んでるんじゃないかって。そう思うときがあるんだよ」

「あのな、ジェライト。俺がこんなこと言ってもなんの慰めにもならないだろうが、俺がエイベル秘書官を襲ったとき、おまえのこと呼んだだろ、彼は。助けてくれ、って。おまえのこと憎らしいと思ってたら、あんなときにおまえの名前呼ぶか?もっと自分に自信持てよ。それに、相手の気持ちは見えないってわかってるんだから、見えないものをどうにかしようって無駄な時間を過ごすより、見えるものを大事にしていけばいいじゃないか」

「見えるもの…?」

「エイベル秘書官の笑顔とかさ」

「あんた、腐っても王子だな。クサいセリフが似合う」

「クサくないだろ、別に!」

ジェライトはくしゃりと笑うと、「ありがとな」と言った。こんな顔は見たことなかったな。

「あんたさ」

「なに」

「前に、団長室の前で俺がアキラさんを抱き締めてたとき、変な顔で見なかったな」

「え?」

「いや、男同士なのに、」

「好きになる相手がたまたま男だってだけだろ。特に見たからってなんとも感じなかったけど」

「…そうか」

ジェライトはまた嬉しそうに笑った。

「ところで、昨日考えたんだけど」

「ん?」

「あんた、今見てもまったく体力ないじゃん。今年入った新人と訓練するの無理じゃねぇかな、って」

「まぁ、確かにな」

「で、バカだし」

「それも確かにそうだ」

「だからさ、この一年は高校の魔術科に行ったらどうだ。聴講生として」

「…え?」

「体育は出なくていいし、言語もやらなくていいから、魔法とか魔術に関わる授業をひたすら受けてみたらどうだ?」

「でも俺、20歳なんだけど」

「あのな。おまえ、もしかしたら今日死んでたかもしれないんだぞ、セグレタリー国で魔物に喰われて。死んだと思えばなんでもできるだろ。一回死んでるんだから、恥ずかしさなんて捨てろ。知らないでいるほうが恥ずかしいんだぞ。一からやり直すって言ったんだから、やってみろよ」

ジェライトの真剣な目に射ぬかれ、こいつは何だかんだ言いながら俺のことを俺以上に考えてくれてるんだな、と心が温かくなった。

「わかった、そうする」

「訓練は、体力作りも含めてこうやって朝やろう。メニュー組むから、時間作って筋トレとかは自分でやれ。顧問はカラダ作るの得意だからどんなふうにしたらいいか聞いてみろ。俺一人の考えだけじゃなくていろんな人の話を聞いて、取り入れていくといい」

「わかった。ありがとう」

「ありがとうなんて、言えるんだな、あんた」

「昨日も言ったが」

「そうだっけ。あ、今日さ、19時に家に来なよ。ナディール大叔父上と、アキラさんに謝罪して、一緒に飯食おう」

「わかった」

「スニーカーも買いに行け。あと、カイルセン様のところに行って、高校の聴講生になる手続きしてこい。カイルセン様にも謝罪しろよ、今までのこと」

「わかった」

「じゃ、とりあえずまた夜来いよ。あと、引っ越す準備も始めろよ」

ジェライトと別れて城に帰り、朝食を取る。今までは何か言われるのがイヤで自室で食べていたが、食堂に行った。

「父上、母上、姉上、義兄上、おはようございます」

「テオドール様、」

「義兄上、様はいりませんから」

そういうと、カーティス義兄上は眩しそうな顔で俺を見た。

「テオドール君」

「君もいらないんですけどね」

「まぁ、慣れるまでは。テオドール君、アズライト様に聞いたけど」

「カート様!アズと呼んでくださいまし!」

「まぁ、慣れるまでは。アズライト様に聞いたけど、」

「なぜ?テオのほうが親しげだわ!?」

「テオドール君、セグレタリー国には行かなくなったらしいね」

「はい。今朝、ジェライトから助言をもらって、あまりにも全部ダメだから、一年間、高校魔術科の聴講生になれと。あとは、からだを作れと」 

「じゃあ、空いてる時間、僕と剣の鍛練をしないかい」

「鍛練、ですか?でも、」

カーティス義兄上の顔色がサッと変わる。

「でも、じゃない!男は言い訳しない!はい、か、いいえ、か!どちらかで答えろ!」

「は、はい!やります!」

また元の優しい顔に戻ると、

「高校に行くのであれば、平日は難しいだろうから土曜日ではどうかな」

「はい。よろしくお願いします」

アズ姉上は真っ赤な顔で「素敵…カート様…」と呟いていた。

「おはよう、テオ。ジェライトと何やってきたんだ」

「ストレッチとウォーキングです」

「超基礎の基礎だな」

「今日から始めますから、赦してください。サボらずやります」

「ま、心がけが変わっただけでもいいか」

「そういえば父上、筋トレを教えてほしいんですが」

「テオドール君!筋トレは、僕とやろう!」

「いいえ」

「なぜ!?」

「義兄上みたいな太い腕はいりません」

「ひどい!」

「テオ、カート様に謝罪しなさい!その太い腕がいいんじゃないの!逞しい腕…素敵…」

朝食のあと、カイルセン様に会うために高校に向かう。職員室に行くと机で書き物をしていた。

「カイルセン様、急に来て申し訳ありません。お時間いただくことはできますか。お忙しければ出直します」

カイルセン様はニコッとすると、「いいよ。面談室に行こう」と先に立って歩き始めた。

座ると紅茶を出してくれる。

「いただきます」

「テオドール君、1日でずいぶん生まれわったね」

「5日です」

「え?」

「ジェライトの制裁を受けたせいで頭がさらにおかしくなって、そしたら前よりはまともになったみたいです」

「そうなの?よくわからないけど。ところで、僕に用事はなんだろう」

「今朝ジェライトに言われてきたんですが、一年間聴講生として通わせていただくことは可能ですか」

「もちろんだよ。図書室も自由に使うといい」

「カイルセン様、俺、今まで本読んだことないんです」

「知ってるよ」

「だから、どんな本を読めばいいか、」

「図書室にある本を片っ端から読んでごらんよ」

「え…」

「ジェライト君は、5歳の時…なんか、比べるみたいで悪いけど、事実として聞いて。彼はね、1日に10冊読むってノルマを課してたんだよ、自分に。アキラさんという目的があったとは言え、大人でも読むのが困難な本を毎日毎日読んで、知識を積み上げていったの。10日で100冊だよ。すごいでしょ」

「はい」

「そんなに読まなくてもいいけど、とりあえず選ばずに棚の端から読んでみたらいいと僕は思う。意味がわからないところは書き写して、辞書とか専門書を読んで。専門書がわからなければ聞いて。内容も不明なところは教えるから」

「わかりました、ありがとうございます」

「テオドール君」

「はい」

「兄上が、悪かったね」

「え?」

「キミを魔物に喰わせる気だったと聞いて」

「あぁ、でも、ジェライトが助けてくれました。ありがたいです。今まで一方的に嫌って、ジェライトの大切なエイベル秘書官にまで手を出したバカな俺のことを考えてくれて。裏切りたくない。いつか、何か返せるようにしたいので。今は無理ですけど、頑張ります」

「兄上は、団長から降ろしたから」

「…え?」

「一年間、無休でセグレタリー国に行かせました」

「え」

「義姉上が、静かにお怒りでね。自分が受けてきた恩義を返すどころか仇で返すなんて、って」

「そうなんですか…」

ルヴィア様、怖い。

「じゃあ、僕手続きしておくから。明日からおいで」

「はい、ありがとうございます、カイルセン様」



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