期待外れの愛 完

鈴木なお

文字の大きさ
7 / 8

クリスマス

しおりを挟む
有名な高級レストラン、有名パティシエが作るケーキ、雑誌に掲載されている服、ブランドのハイヒール、ハイスペックな彼氏。

憧れの対象は数えれば数えるほどきりがない。

だけどその年のクリスマスの日、私はその憧れに包まれていた。

「スグル…。」

街はクリスマス、冬の冷たい空気すらクリスマスツリーの光で少しだけ暖かく感じられた。

私がボソッと言ったことをスグルはちゃんと聞いている。

「どうしたの?」

いつもどおり、いつものスグル、完璧なスグルが私に笑顔でそう言った。

多分、クリスマスをスグルは楽しんでいるのだろう。

しかし、その時の私は100%そういう気持ちにはなれていなかった。

目の前には美味しそうな料理があって、周りには私たちと似たようなカップルがそれぞれのテーブルを囲んでいる。

スグルも他のカップルたちもクリスマスを心から楽しんでいるのがよく伝わってきた。

そのなかにいる私はまるで1人だけクリスマスじゃなくてクリスマスイブの日に取り残されたような気分だ。

「ううん、なんでもないの。」

私はスグルに言いかけた言葉をグッと飲み込んだ。

グニャッと心が歪むような感覚がしたが、気のせいだと思ってシャンパンを飲みほす。

「それより、ここのシャンパン美味しいね。」

瞬時に笑顔を浮かべ、私はスグルにそう言った。

私がそう言うとスグルは嬉しそうだ。

「そうだろ!?確かこのシャンパン結構、良いのなんだって。」

スグルは目をキラキラとさせながらメニュー表を開く。

もちろん、シャンパンは本当に美味しかった。

だけど私はスグルに聞けなかったことがある。

美味しそうにシャンパンを飲んでいるスグルを見つめて私はこう思った。

「(スグル、昨日のクリスマスイブは楽しかった…?)」

スグルが他の女性と過ごしていたことはわかっている。

だけどやっぱり気になってしまうのだ。

そもそも自分だってカズキと一緒に過ごしていたわけで、スグルのことをどうこう言える立場ではない。

わかっている。

わかってはいたけど、私はスグルの彼女だから気になってしまうのだ。

「(…。)」

レストランの窓からは幸せそうに歩いている恋人たちが見えた。

きっと私とスグルもその中の1組にすぎない。

きっと大丈夫。

私は少しばかりの不安を胸に抱えながらケーキを口に含んだ。

有名パティシエが作ったケーキは甘すぎなくて大人な味がした。

きっとスグルが求めている女性ってこんな感じのケーキだろうな。

「あのさ。」

急にスグルが私に声をかけた。

その時のスグルの視線はとても真面目だった気がする。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

離れて後悔するのは、あなたの方

翠月るるな
恋愛
順風満帆だったはずの凛子の人生。それがいつしか狂い始める──緩やかに、転がるように。 岡本財閥が経営する会社グループのひとつに、 医療に長けた会社があった。その中の遺伝子調査部門でコウノトリプロジェクトが始まる。 財閥の跡取り息子である岡本省吾は、いち早くそのプロジェクトを利用し、もっとも遺伝的に相性の良いとされた日和凛子を妻とした。 だが、その結婚は彼女にとって良い選択ではなかった。 結婚してから粗雑な扱いを受ける凛子。夫の省吾に見え隠れする女の気配……相手が分かっていながら、我慢する日々。 しかしそれは、一つの計画の為だった。 そう。彼女が残した最後の贈り物(プレゼント)、それを知った省吾の後悔とは──とあるプロジェクトに翻弄された人々のストーリー。

友達婚~5年もあいつに片想い~

日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は 同僚の大樹に5年も片想いしている 5年前にした 「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」 梨衣は今30歳 その約束を大樹は覚えているのか

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

貴方を愛することできますか?

詩織
恋愛
中学生の時にある出来事がおき、そのことで心に傷がある結乃。 大人になっても、そのことが忘れられず今も考えてしまいながら、日々生活を送る

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

処理中です...