ラッキーマン

鈴木なお

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期待

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その後、他愛のない話をそのパイロットとし、数分が経過した。

どういうわけか彼は初対面の時以上にオドオドとした態度で私と会話をしている。

第一印象はそんなに悪くなかった分、その落差にとても私はテンションが下がった。

きっとこういう時、元彼だったらもっと堂々としていてこちらが誇らしくなる対応をしてくれるだろう。

私がこのパイロットの連絡先を残していたのはそういう対応ができる人であると期待していたというのもある。

それが見事に打ち砕かれてしまい、人に期待なんてするものじゃないなと思わされた。

そもそも人が自分の言うことをわかってくれるとか思う時点で期待値が高すぎる。

そういうことも理解せずに自分の意見をただなげつけてくるというのは若さゆえの過ちと言えるだろう。

これで若くなかったら相当、痛々しい人だなという印象しかない。

今までだって自分が言った文句が受け入れてもらえて改善につながったことなんて親との関係の間でしかないだろう。

親は優しいから文句をいくらでも受け入れてくれるだろうが、他人は親じゃないからそうはいかない。

私が20歳の頃、親ではない他人にそうやって文句をぶつけて随分と距離を取られた経験がある。

最初、なぜそういうことが起きるのか理解できなかったが、大人になった今はとても理由がよく分かった。

理由は複数ある。

例えば文句の言い方が上から目線で可愛げがなかったとか、その文句を受け入れようと思える背景が若かりし頃の私にはなかったとかだ。

例えば元彼は俳優だったが、有名な俳優という背景がある人とそうじゃない人との間では言葉の影響力というのがまるで違う。

こういった大きな肩書がないのなら言い方に気を付けないと意見を聞いてすらもらえないのだ。

所詮、そういう世の中だというふうにものを見るようになってから随分と気楽になったのをよく覚えている。

この国は社会主義じゃなくて資本主義だからそういう世の中になってしまうというのは避けられないだろう。

残酷な事実だが肩書だったり言い方を工夫したり考え方を変えたら別の道が見えてくるのが資本主義が産んだ良いところのような気も私はする。

相変わらずパイロットはスラスラとものを言わないが、それは相手が緊張しているからだろう。

きっと私の期待値が高すぎたんだと思った。

どうやら元彼の影を重ねてしまうくらいに私は元彼のことがとても忘れることができていないらしい。

なんて執着の強い女だろうと自分でも驚く。
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