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第一章 出会い編
3、私は素が出ます
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私の危惧していることを理解してくれたのならば、度を越した愚か者ではないと判断してもいいでしょう。ただそうなると、先程までの失言に聞こえる発言は事情があってのものだということになりますね。自分の国の恥部を学園中に広まるようにする理由など、私には想像もつきません。
蝿に本日はお開きだと言うと、時間が動き出したのかぎこちない挨拶を返してきました。さあ、今から明日までにどのくらい話は拡散されるでしょうかね。そしてそれを聞き付けた方々の愚か者たちは、私になんと言うのでしょうか。
一定の距離を保ちながらシユウ様の後ろに付いていく私の姿は、まあそれなりのものに見えるでしょう。正しい後の付いて行き方など、教えられたときは内心意味がないと思っていましたが、どんな知識がどんなときに役立つかなど分からないものですわね。
私の後ろに付いてきている従者のオーラが、不満そうな顔を浮かべているのが簡単に思い浮かびますわ。立場的に、公の場で私に意見することができない彼女にとって、現在の私の行動はとても納得のいくものではないのでしょうけど、知ったことではありません。
二分ほど歩いて辿り着いたのは、学園内に用意されている小さめの談話室。普段ならば絶対に使用することがない場所ですが、確かに内密な話をするならばこれほどに向いている場所はありませんわね。予約を取っていたのか、ノックもせずにシユウ様は談話室に入っていきます。
私が誘いを断らないと思っていたのか、どっちにしろとりあえず予約だけはしておいたのかは、まあどっちでもいいですわ。結果として私は今この場にいるのですから。どんなパターンを想定していたかなど考えるだけ無駄というものです。
「オーラ、納得していないのは分かっていますが、部屋の前にいなさい。そもそも、隣国の第二王子の誘いを断るのと、どちらの方がリスキーかなど貴女だって理解しているでしょう」
「……私は貴女の決断に口を出すことはございません。命じられれば、如何なる嘘も吐き通しましょう」
そんなに不満げな顔で言われても説得力がありませんが、まあ今更彼女の忠誠心を疑っても時間の無駄ですわね。私は談話室に入ると明確な拒絶を示す意味も含めて後ろ手に扉を閉めました。どうせ話してくれないのなら、腹の内で何を考えているかなど考えるだけ無駄ですもの。
シユウ様が勢いよくソファーに座り、元々かなり緩んでいたネクタイをさらに緩めると大きく息を吐きました。そこまでネクタイを緩めることにどれほどの意味があるのでしょう。リボンタイしか着けない私には一生理解できないでしょうが、マナーとしては悪いですわね。
良いとは言えないとか、そういう曖昧な言葉で濁すのも不可能なほどに態度が悪いですわ。仮にも隣国の第一王子の婚約者の前なのですからもう少し弁えるべきでしょうに。そんな私の怪訝な視線に気が付いたのか、気まずそうな顔を浮かべました。そんな表情をされても困るだけなのですが。
「悪いな、堅苦しいの苦手なんだよ。王子らしい振る舞いとか言われても、こんな誰も見てない空間で取り繕う面子なんか、たかが知れてると思わないか?」
「だからと言ってそこまでの豹変は控えた方がよろしいと思いますわ。いざという時にボロが出ますわよ」
「大丈夫だよ。俺こんなんだけど、自国じゃ結構信頼されてるんだから。それこそ、兄貴よりもな」
こちらが素の性格なのか、あるいは私の口を軽くするための偽の性格なのかは微妙なところですわね。もし偽物だったなら、私が警戒を緩めることはないので完全に失敗なのですが、最初から感じている通り、胡散臭さが相も変わらず一切ありません。ここまで裏表の無い人間がいるのかというほどに。
と言いますか、先程からなぜそうも自分の兄の評価を下げるような発言を重ねるのでしょうか。ロデウロの王子が不仲という話は聞いたことがないのですか。情報漏洩どころの騒ぎじゃありませんわね。背反に等しいのでは。
「それで、私に不貞をさせてまで話したいこととは一体なんなのでしょうか。わざわざ噂の種まで撒いたのです。ただの雑談、というわけではないのでしょう?」
おっと、シユウ様につられて私まで少し素が出てしまいましたわね。常に本心は隠せと教えられて育ちましたが、それも相手が本心を隠しているから通用する処世術。こうも明け透けに語られてはこちらだけ隠すのも馬鹿らしくなるというものです。
とはいえ、そこまで簡単に外れる仮面ではありませんわ。私の表情筋はいつのまにやら整った微笑しか浮かべられなくなってしまいましたし、舌は丁寧な言葉しか喋れないようになってしまいました。隅から隅まで、私の身体に人の手が入っていない場所はありません。
「不貞って、人聞き悪いな。後で証言はするって言っただろ? ……驚かないで聞いてくれよ? 実は俺、未来が見えるんだ。このままだと七年後にお前は処刑される。だから、助けに来たんだよ」
「…………は?」
申し訳ありません、少し素が出ました。
蝿に本日はお開きだと言うと、時間が動き出したのかぎこちない挨拶を返してきました。さあ、今から明日までにどのくらい話は拡散されるでしょうかね。そしてそれを聞き付けた方々の愚か者たちは、私になんと言うのでしょうか。
一定の距離を保ちながらシユウ様の後ろに付いていく私の姿は、まあそれなりのものに見えるでしょう。正しい後の付いて行き方など、教えられたときは内心意味がないと思っていましたが、どんな知識がどんなときに役立つかなど分からないものですわね。
私の後ろに付いてきている従者のオーラが、不満そうな顔を浮かべているのが簡単に思い浮かびますわ。立場的に、公の場で私に意見することができない彼女にとって、現在の私の行動はとても納得のいくものではないのでしょうけど、知ったことではありません。
二分ほど歩いて辿り着いたのは、学園内に用意されている小さめの談話室。普段ならば絶対に使用することがない場所ですが、確かに内密な話をするならばこれほどに向いている場所はありませんわね。予約を取っていたのか、ノックもせずにシユウ様は談話室に入っていきます。
私が誘いを断らないと思っていたのか、どっちにしろとりあえず予約だけはしておいたのかは、まあどっちでもいいですわ。結果として私は今この場にいるのですから。どんなパターンを想定していたかなど考えるだけ無駄というものです。
「オーラ、納得していないのは分かっていますが、部屋の前にいなさい。そもそも、隣国の第二王子の誘いを断るのと、どちらの方がリスキーかなど貴女だって理解しているでしょう」
「……私は貴女の決断に口を出すことはございません。命じられれば、如何なる嘘も吐き通しましょう」
そんなに不満げな顔で言われても説得力がありませんが、まあ今更彼女の忠誠心を疑っても時間の無駄ですわね。私は談話室に入ると明確な拒絶を示す意味も含めて後ろ手に扉を閉めました。どうせ話してくれないのなら、腹の内で何を考えているかなど考えるだけ無駄ですもの。
シユウ様が勢いよくソファーに座り、元々かなり緩んでいたネクタイをさらに緩めると大きく息を吐きました。そこまでネクタイを緩めることにどれほどの意味があるのでしょう。リボンタイしか着けない私には一生理解できないでしょうが、マナーとしては悪いですわね。
良いとは言えないとか、そういう曖昧な言葉で濁すのも不可能なほどに態度が悪いですわ。仮にも隣国の第一王子の婚約者の前なのですからもう少し弁えるべきでしょうに。そんな私の怪訝な視線に気が付いたのか、気まずそうな顔を浮かべました。そんな表情をされても困るだけなのですが。
「悪いな、堅苦しいの苦手なんだよ。王子らしい振る舞いとか言われても、こんな誰も見てない空間で取り繕う面子なんか、たかが知れてると思わないか?」
「だからと言ってそこまでの豹変は控えた方がよろしいと思いますわ。いざという時にボロが出ますわよ」
「大丈夫だよ。俺こんなんだけど、自国じゃ結構信頼されてるんだから。それこそ、兄貴よりもな」
こちらが素の性格なのか、あるいは私の口を軽くするための偽の性格なのかは微妙なところですわね。もし偽物だったなら、私が警戒を緩めることはないので完全に失敗なのですが、最初から感じている通り、胡散臭さが相も変わらず一切ありません。ここまで裏表の無い人間がいるのかというほどに。
と言いますか、先程からなぜそうも自分の兄の評価を下げるような発言を重ねるのでしょうか。ロデウロの王子が不仲という話は聞いたことがないのですか。情報漏洩どころの騒ぎじゃありませんわね。背反に等しいのでは。
「それで、私に不貞をさせてまで話したいこととは一体なんなのでしょうか。わざわざ噂の種まで撒いたのです。ただの雑談、というわけではないのでしょう?」
おっと、シユウ様につられて私まで少し素が出てしまいましたわね。常に本心は隠せと教えられて育ちましたが、それも相手が本心を隠しているから通用する処世術。こうも明け透けに語られてはこちらだけ隠すのも馬鹿らしくなるというものです。
とはいえ、そこまで簡単に外れる仮面ではありませんわ。私の表情筋はいつのまにやら整った微笑しか浮かべられなくなってしまいましたし、舌は丁寧な言葉しか喋れないようになってしまいました。隅から隅まで、私の身体に人の手が入っていない場所はありません。
「不貞って、人聞き悪いな。後で証言はするって言っただろ? ……驚かないで聞いてくれよ? 実は俺、未来が見えるんだ。このままだと七年後にお前は処刑される。だから、助けに来たんだよ」
「…………は?」
申し訳ありません、少し素が出ました。
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