そうじゃなくてこう厳しい中に時折見える優しさがグッと来ると言うかそんな感じだから悪役なんかやめて俺と結婚しよう!

甲光一念

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第一章 出会い編

4、私は妥協します

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「それではシユウ様、私はこれで失礼させていただきます。とても有意義なお時間をありがとうございました。また機会があればお誘いください」
「いや待った待った。なにをさも会話がもう終わったかのように振る舞ってんの。まだ終わってないし、なんだったらまだ始まってもないから。とりあえず座って。……お願いだから座ってください」

 いきなりの意味不明な発言に私も思わず素が出てしまったわけですが、やり過ぎではないでしょう。非現実的と言うにも生温い未来を聞かされて、冷静さを保っていられる方が人としてどうかしています。しかも、それは私にとって看過できる内容ではありませんでした。
 処刑される。自殺ではなく、法の裁きで死に至る。そんなことが受け入れられるわけがないでしょう。私の人生における唯一無二の楽しみを、幸福を、他人に奪われるなど、たとえ冗談だとしても許すことのできない発言ですわ。ああ、この方は愚か者ですわね。話を聞いた私が馬鹿でしたわ。

「いや、信じられないのはわかるけどもう少し話を聞いて。結論から言った俺も悪かったけど、せめて何でお前にこんな話してるかってことくらいは聞いてくださいよ」
「……なんだか貴方、癇に障りますわね。そのまま国に帰ってお死にになった方がよろしいのではありませんか?」
「急に毒舌になったな。ま、俺は丁寧な口調のアンナ嬢よりも、口が悪い今の方が好みだけど、な」

 人差し指をこちらに向け、片目を閉じているシユウ様。おそらく格好つけているのでしょうが、よくこの状況でそんなことできますわね。この場で殺しておいた方が世のため人のためになるのではと思ってしまう程度には私は今、激情を抑えているのですが。
 なんでしょうか、私の死ぬまでの人生設計を粉々にするために地獄から遣わされた悪魔かなにかでしょうか。私が周りからいくら清楚とかおしとやかとか言われていても、実際それは作られた仮面でしかありません。ただ感情を制御する術を知っているというだけで、普通にストレスは溜まるのですが。

「あれ、今のカッコよくなかった? おかしいな、顔が整ってるから今世でなら通用すると思ったんだけど……」
「鏡を持ち歩いた方がよろしいのでは?」
「シンプルな駄目出しが一番心に来るからやめて」
「……そろそろ本題に入りましょう。シユウ様が先程仰った、未来が見える、というのは、貴方の能力が『未来視』だということでしょうか?」

 この世界には、低い確率で特殊な能力を持って生まれてくる人間がいます。割合的には貴族に偏っているという話ですが、まあ嘘でしょうね。平民で能力なんて持っていると申告すれば、死ぬまでこきつかわれるのは想像に難くありませんもの。実際は平民にこそ多いのではないかと私は思っています。
 そんな能力の中でも『未来視』、またはそれに準ずる能力は貴重であり、国家に有益なものであるとしてかなり優遇されています。それを王子が所持しているとなれば、他国に漏らすことなどできない情報であり、迂闊に留学などさせるわけがないのですが。

「違う。確かに俺は能力持ちだけど、それは『未来視』じゃない。そう言われると未来が見えるっていうのは、ちょっと違うか。知ってる、だな。俺は未来を知ってるんだ」
「私が処刑される未来を知っていると、そう仰るのですか、貴方は。それで、何が目的ですの? この会話が、お互いにとってリスクしかないものであるというのは、貴方の方が理解していると思うのですが」
「まあな。この会話が外部に漏れれば不敬もいいところだ。俺は殺されることになるだろう。だけどな、駄目なんだ。今じゃないと駄目だ」

 ああ、やっとわかりました。先程からこの方の目に浮かんでいる見たことの無い感情の正体が。これは、焦燥ですわ。留学してきた初日に話しかけてきたのは、理由は分かりませんが彼が焦っているからなのですね。私に一刻も早く、その未来を伝えなくてはならないという焦燥。
 私はまだ目の前の愚か者の『未来予知』を信じているわけではありませんが、演技が下手な目の前の男が、嘘を吐いているかどうかくらいは分かります。分かってしまいます。信じるかどうかは別問題として、彼は私に対して愚かなまでに正直者であると。

 度を越した正直は、素直ではなく愚直と評され、愚か者であるということは変わりません。しかしどうせ、娯楽など無い毎日。たとえ妄想だとしても、暇潰しくらいにはなるかもしれないと妥協して、お話を聞いてみるくらいはしてもいいかもしれませんわね。

「……それで、どういう経緯なのですか。私が処刑されるというのは。私がこれから先、国に仇なすような何かをすると?」
「……信じてくれるのか? 何言えば信じてもらえるかなって、必死で考えてたんだけど」
「必死さは欠片も感じられませんでしたが、まあ、娯楽程度に聞き流せば、シユウ様も満足されるかと思いまして」
「俺の弱味握ったからって本音出しすぎじゃない? あと妄想の話じゃないから。……いや、誰かの妄想ではあるのか?」

 首を傾げるシユウ様に、少しだけ、私らしくない期待をしたのかもしれません。王子らしくない目の前の男が、ひょっとしたら私の人生に変化を与えてくれるかもしれないと、低俗な妄想に等しい、そんな期待を。
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