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第一章 出会い編
9、私は何も持っていない
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「は?」
「二回言うなよ! 聞こえてただろ? こういう台詞言い慣れてないんだから、もう一回言えとか言われても嫌だからな」
「初対面の少女に結婚を申し込んでおいて、慣れてないということはないでしょう? というか何故、王子の婚約者の私が、隣国の王子に求婚されているのです? そもそも、そのために生まれてきたって貴方何言っていますの? 恥の塊みたいな言葉を受けたこちらの身にもなってくださいます?」
「止めろ! 恥ずかしいから内容を振り返るな! 羞恥心を抑えて何とか口に出したんだから、そこはスルーしろよ!」
顔を赤く染めている目の前の男は、下手をすると私より乙女なのではないでしょうか。いえ、そこは普通私が照れるところなのでは。何だかよくわからない何かを奪われたような気がしますが、両手で顔を押さえているシユウ様にこれ以上問うのは、流石にほんの少し気が咎めますわね。
平静を保っているように見えるでしょうが、これでも私、かなり困惑しています。もっと国の得となるようなものを代価として要求されると思っていたのですよ。それが聞いてみれば結婚してくれとは。これは、王族というのは何を考えている分からない、で片付けて良いのでしょうか。
「……えー、一度話を整理しましょうか。色々と情報を聞きすぎてよく分からなくなってきましたわ」
「え、さっきまでの話をおさらいしようとしてる? 俺のことを精神的に殺すつもりか何かかな?」
「全体の話をしているのですわ。貴方の脈絡のないプロポーズは一旦脇に置いてくださいませ」
自殺するタイミングだけ考えていれば良かったはずの頭には、少々情報過多気味ですわね。私は物事を後ろ向きに考えるのが得意というだけで、別に頭が良いわけではないのです。将来的に、王妃としての教育に付いていけなくなる日が来ると思っている程度には頭の出来がよろしくありません。
私の理解の範疇で大雑把に話を纏めると、七年後に処刑される私を助けると申し出てきた隣国の第二王子がその報酬として私との結婚を要求してきた、とまあそんな感じですわね。理解しがたい内容なのは何も変わりませんわね。むしろ端的にしたせいで余計に難解になってしまった気さえしますわ。
「……私に、貴方の側室になれ、という解釈でよろしいですか?」
「よろしくないな。何で側室なんだよ。本妻として迎え入れたいって話に決まってんだろうが。お前がマイナス思考なのは知ってるけど、その解釈だと俺が下衆の極みみたいな人間になるからやめろ」
この男は何を言っているのでしょうか。近いうちに滅びる国の女を娶ることでどんな利益が生まれると。この国に私の知らない何かしらの利用価値があるとでも言うのでしょうか。思い当たるものが一つもありませんわ。そんなものがあったらシーツァリアはこんな状況に陥っていないでしょうから、あるわけもないのですが。
ロデウロに有益をもたらす要素が私にあるわけもないですわよね。他国の弱みを握っているわけでもない、この国の経済の流れを詳細に知っているわけでもない、与えられるような豊富な知識があるわけでもない、国を傾けるほどの美貌を保持しているわけでもない。何も持っていない。国のためという意味だけを詰め込まれてきた私は、何も持っていないのです。
「あのさ、あんまり損得勘定で考えないでくれるか? 改まって言うのすっげえ恥ずかしいから出来れば察してほしいんだけど」
「……私は張りぼてなのですわ。次期王妃という泥を人の形に整えただけの、空っぽの人形なのです。助けられても、求婚されても、私は貴方に何も与えられない。何も返せない。私の未来を見たというのなら、それは分かるでしょう?」
「……そう、だな」
「自分という存在など、始めから考慮されていないのです。大衆が望む姿、民衆が望む外見、それだけがあれば十分だと、城の愚か者たちは思っているのです。この顔も、この身体も、手入れされているのは国のためでしかなく、それが全て。そこにいるだけの、虚像以下ですわ」
馬鹿は正論の正しさを理解できないのです。理解した風を装っているだけで、それが一体どういう理屈で正しいのかなんて微塵も理解していない。自分にとって良いことだと決めつけて、精査することもしない。見た目の麗しさだけで判断することを、正しさだと盲信している。
確かに、見て分かる美しさは人を惹き付けますわ。故に人は自分を取り繕う。だからこそ、内面と外面は決して一致しないという常識をいつの間にか忘れているのです。自分の中だけで完結した信頼関係なんて、存在しないに等しいというのに。
「私の美しさは、この国の醜さそのものですわ。溜まった汚泥を隠すための、思い付きの権化。私と結婚などしても、貴方には何の利得もありませんわよ」
「……難しいな」
「……いくら王子と言えど、十歳の少年には少し理解し難い話でしたか?」
「そっちじゃない。お前に自覚させるのがって話。別に何も難しいこと言ってないよ俺は。お前が勝手に話をややこしくしてるだけ」
「話が回りくどいのが悪いのではなくて?」
「俺が悪いの? ……結婚してくれなんて、正面から言う理由、一つしかないだろ。……好きだから言ってるんだよ! 別に悪くないだろ!」
涙目で叫んでくるシユウ様を見て、私の顔が熱くなりました。急な発熱ですわね。風邪でしょうか?
「二回言うなよ! 聞こえてただろ? こういう台詞言い慣れてないんだから、もう一回言えとか言われても嫌だからな」
「初対面の少女に結婚を申し込んでおいて、慣れてないということはないでしょう? というか何故、王子の婚約者の私が、隣国の王子に求婚されているのです? そもそも、そのために生まれてきたって貴方何言っていますの? 恥の塊みたいな言葉を受けたこちらの身にもなってくださいます?」
「止めろ! 恥ずかしいから内容を振り返るな! 羞恥心を抑えて何とか口に出したんだから、そこはスルーしろよ!」
顔を赤く染めている目の前の男は、下手をすると私より乙女なのではないでしょうか。いえ、そこは普通私が照れるところなのでは。何だかよくわからない何かを奪われたような気がしますが、両手で顔を押さえているシユウ様にこれ以上問うのは、流石にほんの少し気が咎めますわね。
平静を保っているように見えるでしょうが、これでも私、かなり困惑しています。もっと国の得となるようなものを代価として要求されると思っていたのですよ。それが聞いてみれば結婚してくれとは。これは、王族というのは何を考えている分からない、で片付けて良いのでしょうか。
「……えー、一度話を整理しましょうか。色々と情報を聞きすぎてよく分からなくなってきましたわ」
「え、さっきまでの話をおさらいしようとしてる? 俺のことを精神的に殺すつもりか何かかな?」
「全体の話をしているのですわ。貴方の脈絡のないプロポーズは一旦脇に置いてくださいませ」
自殺するタイミングだけ考えていれば良かったはずの頭には、少々情報過多気味ですわね。私は物事を後ろ向きに考えるのが得意というだけで、別に頭が良いわけではないのです。将来的に、王妃としての教育に付いていけなくなる日が来ると思っている程度には頭の出来がよろしくありません。
私の理解の範疇で大雑把に話を纏めると、七年後に処刑される私を助けると申し出てきた隣国の第二王子がその報酬として私との結婚を要求してきた、とまあそんな感じですわね。理解しがたい内容なのは何も変わりませんわね。むしろ端的にしたせいで余計に難解になってしまった気さえしますわ。
「……私に、貴方の側室になれ、という解釈でよろしいですか?」
「よろしくないな。何で側室なんだよ。本妻として迎え入れたいって話に決まってんだろうが。お前がマイナス思考なのは知ってるけど、その解釈だと俺が下衆の極みみたいな人間になるからやめろ」
この男は何を言っているのでしょうか。近いうちに滅びる国の女を娶ることでどんな利益が生まれると。この国に私の知らない何かしらの利用価値があるとでも言うのでしょうか。思い当たるものが一つもありませんわ。そんなものがあったらシーツァリアはこんな状況に陥っていないでしょうから、あるわけもないのですが。
ロデウロに有益をもたらす要素が私にあるわけもないですわよね。他国の弱みを握っているわけでもない、この国の経済の流れを詳細に知っているわけでもない、与えられるような豊富な知識があるわけでもない、国を傾けるほどの美貌を保持しているわけでもない。何も持っていない。国のためという意味だけを詰め込まれてきた私は、何も持っていないのです。
「あのさ、あんまり損得勘定で考えないでくれるか? 改まって言うのすっげえ恥ずかしいから出来れば察してほしいんだけど」
「……私は張りぼてなのですわ。次期王妃という泥を人の形に整えただけの、空っぽの人形なのです。助けられても、求婚されても、私は貴方に何も与えられない。何も返せない。私の未来を見たというのなら、それは分かるでしょう?」
「……そう、だな」
「自分という存在など、始めから考慮されていないのです。大衆が望む姿、民衆が望む外見、それだけがあれば十分だと、城の愚か者たちは思っているのです。この顔も、この身体も、手入れされているのは国のためでしかなく、それが全て。そこにいるだけの、虚像以下ですわ」
馬鹿は正論の正しさを理解できないのです。理解した風を装っているだけで、それが一体どういう理屈で正しいのかなんて微塵も理解していない。自分にとって良いことだと決めつけて、精査することもしない。見た目の麗しさだけで判断することを、正しさだと盲信している。
確かに、見て分かる美しさは人を惹き付けますわ。故に人は自分を取り繕う。だからこそ、内面と外面は決して一致しないという常識をいつの間にか忘れているのです。自分の中だけで完結した信頼関係なんて、存在しないに等しいというのに。
「私の美しさは、この国の醜さそのものですわ。溜まった汚泥を隠すための、思い付きの権化。私と結婚などしても、貴方には何の利得もありませんわよ」
「……難しいな」
「……いくら王子と言えど、十歳の少年には少し理解し難い話でしたか?」
「そっちじゃない。お前に自覚させるのがって話。別に何も難しいこと言ってないよ俺は。お前が勝手に話をややこしくしてるだけ」
「話が回りくどいのが悪いのではなくて?」
「俺が悪いの? ……結婚してくれなんて、正面から言う理由、一つしかないだろ。……好きだから言ってるんだよ! 別に悪くないだろ!」
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