そうじゃなくてこう厳しい中に時折見える優しさがグッと来ると言うかそんな感じだから悪役なんかやめて俺と結婚しよう!

甲光一念

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第一章 出会い編

19、私は指差します

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 自室に戻ってきた私ですが、先程二人に言ったのは部屋に戻るための建前です。まあ、改めて言わなくてもなんとなく分かりそうなものですが。あの二人と同じ空間にいたくなかったので逃げようとしたのですが、まさか去り際の私の口内に汚泥を捻じ込んでくるとは。
 デミグラスソースのかかったとても美味しいオムライスだったのですが、全部が台無しです。私はどちらかと言えばケチャップのかかったものの方が好きですが、妹の要望を優先しないと何を言われるか分かりませんものね。仕方ありませんわ。私だけ別のものにすると普通に文句言われますし。

 お母様ももう少し、せめて私に向けている厳しさの一割でも妹に向けてくれれば、少しだけでも違っていたと思うのですが。まだ幼かった頃の妹を全肯定してしまっていたが故に、もはや今更説教をしようと聞く耳を持たない子に育ってしまったのは、両親の失敗の一つでしょうね。
 最大の失敗ではありません。最大の失敗と言えることは他にあります。それに比べれば妹の教育や人格形成に失敗した話など可愛いものです。失敗として数えることすら、する必要はありません。自覚されていない失敗ほど、後に影響を及ぼすものは存在しません。

 食後にああは言いましたが、実際、王妃としての教育を受けている私にとって、現在の学校の授業など三年前に習ったものです。復習の必要などありません。となると、することありませんわね。今までの私だったら、まだ習っていない部分の予習でもしましょうと思えたのでしょうが、そんな気は微塵も起きません。
 もう寝てしまいましょうか。まだ午後八時で寝るには早いですが、娯楽というものを徹底的に排除したかのようなこの部屋で、無駄に起きていてもそれこそ時間の無駄ですし。よし、そうしましょうと私がドレスを豪快に脱ぎ捨て、ベッドに飛び込んだところで扉がノックされました。嫌がらせですか。再度ドレスを被ります。

「はい、誰ですか?」
「夜分申し訳ありません、アンナ様。少々お部屋に入れて頂いてもよろしいでしょうか?」
「え? ええ、構わないけれど」

 そう言って部屋に入ってきたのはさっき私に夕食の時間を教えてくれたメイドとは別のメイドでした。そんなに雇う必要ありますかと聞きたいくらい屋敷内に使用人がいますからね。一応全員の名前を覚えてはいますが、名前で呼ぶとむしろメイドの方から注意されてしまうのです。迂闊に名前など呼ぶとお母様に唆しているのではと疑われてしまうと。
 比較的友好な関係を築けてはいるのです。何せ私以外の雇い主は全員下手に話しかけると、色々と面倒なことになる可能性が高いですから。そうなると必然的に、屋敷内の信用というのは私に集中する形になる、らしいですわ。この辺りの話はメイドの一人から聞いたもので、信憑性自体は限りなく薄いので確かなことは言えませんが。

「それで、どうしたのリーデア。こんな夜中にわざわざ部屋に来るなんて、珍しいじゃない」
「はい。実は先程、屋敷に訪問者がありました。本来であれば、真っ先に奥様に報告すべき話なのですが、その訪ねて来られた方が、ロデウロの王族直属の部下だと名乗りまして」
「……ロデウロの王族の部下、ですか。確認は?」
「確かに。信用できる五名の使用人視認の元、正式に発行された書類を拝見し、それを以て事実だと判断いたしました。要望として、アンナ様以外にこの事実を伝えないで欲しいと言われましたので、それを雇い主であるフォーマットハーフ家よりも上位の命令だと判断し、現在それを履行しています」
「なるほど。つまりその方は、私に何かしらの用があって訪ねてきたと?」
「はい。その方はもう帰ってしまったのですが、こちらをアンナ様にお渡ししてほしいとのことです」

 そう言うとリーデアは片手に持っていた小包を私に差し出しました。王族の部下から渡されたとは思えないほどに何の装飾も派手さもないごくごく普通の小包ですわね。疑っているということは一欠片もありませんが、何が入っているのでしょうか。というか、まず間違いなくこれはシユウ様からですわね。行動がやけに積極的というか、いまいち加減が分かっていないと言うか。
 私はリーデアから小包を受け取ります。そこまで重くもなく、大きいものが入っている様子もなく、ですわね。堂々と会話をしてしまった以上、今更とは言えますが、私は自分の耳と目を指さすと部屋を見渡します。要は、監視カメラやら盗聴器が仕掛けられている心配をしているのです。手遅れと言えば手遅れな確認ですが、しないよりはましですわ。それに。

「ご心配は不要です。三日前にこの部屋を調べた際には、どちらも発見されませんでした。そして今日まで、この部屋にはアンナ様以外の人物は誰一人として立ち入っていません。ゆえに、この部屋は現在、一切の監視を受けていないと断言します」
「そう、ありがとう。近くの人が優秀だと助かるわ」
「お気になさらないでください。これが私共の仕事ですので」

 まあそもそも、そんなものを気にしていたらこんなところで生活なんて出来ていないのですが。そういったものを警戒するのももう慣れました。悲しいですわね。
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