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第一章 出会い編
25、私は歩み寄ります
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なんだか朝からとても不快な気分ですわ。悪い夢を見たことは覚えているのですが、それが具体的にどんな夢だったか完全に忘れてしまいました。起きてすぐは少しだけ覚えていたはずなのですが、夢というのは長時間記憶しておくことはできないもの。起床から二時間が経過している今、思い出せないのはおかしいことではありません。
ただただなぜ不快なのかを覚えていないのです。もうそれ自体が不快の種です。車のエンジン音と合わせて更に不快です。昨日の寝る前の気楽さが嘘のようですわ。まあ、愚痴はここまでにしておきましょうか。自分自身でこれ以上気落ちさせてもなんの利も無いわけですし。
「……オーラ、今日の時間割りって、数社国理だったかしら?」
「はい。急な変更などがなければ、その通りに進むはずです」
基本的に学園に通っている貴族の子息は、家庭教師などを雇っているので学校で何かを教わることはほとんどありません。どちらかと言えば、学校の授業はもう知っていることのおさらいとして聞き流すという役割が強いですわね。教師が一年間で教えなければならない知識量は決まっていますが、教科書を読めば理解できるので、そこまで詰め込む教育ではありません。
ちなみに七か国で使用されている全ての教科書はセルムで製作されています。市販されている参考書、辞書、学術書などの大半はセルムで作られ輸入されているものなので、七か国の文化レベルの基盤はセルムだと言えますわね。一つの国に頼りきりなのは危険だとも思いますが、昔からの形に小娘が異義を申しても誰もまともに取り合ってくれないのは目に見えています。
七か国はお互いに足りないところを補完しあって今まで存続してきました。七つ合わせて巨大な一つの国だと形容した方が正しいかもしれません。シーツァリアはお荷物にしかなっていないのが現状ですが、そうなる前は良質な食品の生産が主な役割だったそうです。見る影もありませんが。
「三年生……、何かイベントってあったかしら?」
「校外学習が五月と十一月に、泊まり掛けの旅行が九月始めにあります。学年別ですので、レンカ様は一緒ではありません」
「最高の朗報をありがとう」
去年は妹と一緒に校外学習に行って地獄のような思いをしたので、今年は別で良かったです。まあ、要するに今年は妹と弟が一緒に校外学習に行くということで、それはそれで別種の地獄ですが。私には無関係だと思いましょう。
せめてお母様が、妹を産むのをあと一年遅くしてくれればと思ったことは一度や二度ではありませんが、早く男子を産まなければという重圧を勝手に感じていたのでしょうね。いい迷惑です。普通三年連続で子供作りますかね。どんな精神してるんですか。
「……オーラは学生時代、苦手な人っていたの?」
「特に理由もなく絡んでくる先輩はいました。購買まで昼食を買いに行かせるような厄介な人が。徹底して無視し続けたらいつの間にか学校で見なくなっていましたが」
「……学校で?」
「はい。どうも不登校になったらしいです。今はどうか知りませんが、結局その後の学生生活で姿を見ることはありませんでした」
「……無視って、何したの?」
「話しかけられても、叩かれても、触られても、何もいないかのように振る舞い続けました。存在しないものとして扱ったんです。どうも自分の存在に不安を感じたらしく、終盤は死んでいるかのようでしたね」
純粋に怖いですわね。無視し続ける精神力も、それで相手に影響を与える演技力も。いえ、その二つを買われて、私の従者になっていると考えればある意味納得のいく話ですか。というか、話しかければ意外と返してくれるのですね。目に感情がないのは変わりませんが、話そうとしなかったのはむしろ私だったのかもしれません。
そうは言っても、シユウ様はオーラを信用しない方がいいと言っていたので、そこまで会話をしようという気はありません。ただ、この車に乗っている時間、少しでも気を紛らわしたいたけです。当たり障りの無い日常会話くらいならば、盗まれる情報もないでしょう。
「アンナ様、万が一、誰かから嫌がらせとおぼしき行いを受けた時は、迷いなく私に報告してください。貴女の名誉や威厳に関わる一大事なのですから。言うまでもなく、分かっていることでしょうが」
「ええ、そうね。……もしそんなことになったとして、やり過ぎないでね? 私は人を不登校にしておいて平然とできるほど図太くないわよ?」
「……はあ、そうですか」
「なにその疑いのこもった目は。貴女から私ってどう見えてるの? そんなに冷血な人間に見えてる?」
「いえ、そんなことは。冷たい血が流れている人間なんて存在しません」
「そういうことじゃ……」
「本来誰でも、温かいはずなんですよ。血も、心も」
それは、私からすると頷きにくい言葉ですわね。本当にそうだったら、我が家の使用人達はもっと楽に務めていられるはずですもの。あるいは、オーラの自己主張なのでしょうか。エンジン音が、やたらと煩く響きました。
ただただなぜ不快なのかを覚えていないのです。もうそれ自体が不快の種です。車のエンジン音と合わせて更に不快です。昨日の寝る前の気楽さが嘘のようですわ。まあ、愚痴はここまでにしておきましょうか。自分自身でこれ以上気落ちさせてもなんの利も無いわけですし。
「……オーラ、今日の時間割りって、数社国理だったかしら?」
「はい。急な変更などがなければ、その通りに進むはずです」
基本的に学園に通っている貴族の子息は、家庭教師などを雇っているので学校で何かを教わることはほとんどありません。どちらかと言えば、学校の授業はもう知っていることのおさらいとして聞き流すという役割が強いですわね。教師が一年間で教えなければならない知識量は決まっていますが、教科書を読めば理解できるので、そこまで詰め込む教育ではありません。
ちなみに七か国で使用されている全ての教科書はセルムで製作されています。市販されている参考書、辞書、学術書などの大半はセルムで作られ輸入されているものなので、七か国の文化レベルの基盤はセルムだと言えますわね。一つの国に頼りきりなのは危険だとも思いますが、昔からの形に小娘が異義を申しても誰もまともに取り合ってくれないのは目に見えています。
七か国はお互いに足りないところを補完しあって今まで存続してきました。七つ合わせて巨大な一つの国だと形容した方が正しいかもしれません。シーツァリアはお荷物にしかなっていないのが現状ですが、そうなる前は良質な食品の生産が主な役割だったそうです。見る影もありませんが。
「三年生……、何かイベントってあったかしら?」
「校外学習が五月と十一月に、泊まり掛けの旅行が九月始めにあります。学年別ですので、レンカ様は一緒ではありません」
「最高の朗報をありがとう」
去年は妹と一緒に校外学習に行って地獄のような思いをしたので、今年は別で良かったです。まあ、要するに今年は妹と弟が一緒に校外学習に行くということで、それはそれで別種の地獄ですが。私には無関係だと思いましょう。
せめてお母様が、妹を産むのをあと一年遅くしてくれればと思ったことは一度や二度ではありませんが、早く男子を産まなければという重圧を勝手に感じていたのでしょうね。いい迷惑です。普通三年連続で子供作りますかね。どんな精神してるんですか。
「……オーラは学生時代、苦手な人っていたの?」
「特に理由もなく絡んでくる先輩はいました。購買まで昼食を買いに行かせるような厄介な人が。徹底して無視し続けたらいつの間にか学校で見なくなっていましたが」
「……学校で?」
「はい。どうも不登校になったらしいです。今はどうか知りませんが、結局その後の学生生活で姿を見ることはありませんでした」
「……無視って、何したの?」
「話しかけられても、叩かれても、触られても、何もいないかのように振る舞い続けました。存在しないものとして扱ったんです。どうも自分の存在に不安を感じたらしく、終盤は死んでいるかのようでしたね」
純粋に怖いですわね。無視し続ける精神力も、それで相手に影響を与える演技力も。いえ、その二つを買われて、私の従者になっていると考えればある意味納得のいく話ですか。というか、話しかければ意外と返してくれるのですね。目に感情がないのは変わりませんが、話そうとしなかったのはむしろ私だったのかもしれません。
そうは言っても、シユウ様はオーラを信用しない方がいいと言っていたので、そこまで会話をしようという気はありません。ただ、この車に乗っている時間、少しでも気を紛らわしたいたけです。当たり障りの無い日常会話くらいならば、盗まれる情報もないでしょう。
「アンナ様、万が一、誰かから嫌がらせとおぼしき行いを受けた時は、迷いなく私に報告してください。貴女の名誉や威厳に関わる一大事なのですから。言うまでもなく、分かっていることでしょうが」
「ええ、そうね。……もしそんなことになったとして、やり過ぎないでね? 私は人を不登校にしておいて平然とできるほど図太くないわよ?」
「……はあ、そうですか」
「なにその疑いのこもった目は。貴女から私ってどう見えてるの? そんなに冷血な人間に見えてる?」
「いえ、そんなことは。冷たい血が流れている人間なんて存在しません」
「そういうことじゃ……」
「本来誰でも、温かいはずなんですよ。血も、心も」
それは、私からすると頷きにくい言葉ですわね。本当にそうだったら、我が家の使用人達はもっと楽に務めていられるはずですもの。あるいは、オーラの自己主張なのでしょうか。エンジン音が、やたらと煩く響きました。
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